<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
人間にできて、AIにできないものは何なのだろうか。その答えの一端を見た気がした。
秋元康氏(67)とAIの秋元康氏がAKB48の楽曲プロデュースで対決する日本テレビ系特番「秋元康×AI秋元康~AKB48新曲プロデュース対決~」が9月15日に放送された。数々のヒットソングを生み出してきた秋元氏が生成AIと戦う“世紀の一戦”の模様は英BBCをはじめとした海外メディアも取り上げるなど大きな注目を集め、特設サイトでの投票の結果、秋元氏が1万0535票、AI秋元康氏が1万4225票で、AI秋元康氏が手がけた「思い出スクロール」が勝利した。
まさかの結末は“ガチ”のたまものだったと言える。収録現場も取材していたが、結果を受け「どういうリアクションすればいいの?」と苦笑いしていた秋元氏は本気で悔しがっていたように見えた。今回プロデュースした「セシル」は1960~1970年代頃に流行したセシルカットからインスピレーションを受け、現代の若い女性が同世代の女性に憧れる心境をつづった。フレンチポップスが軸のレトロな雰囲気漂う楽曲だ。
ある番組関係者は、これまでの秋元楽曲の特徴をうまくつかんだ王道アイドルソング「思い出スクロール」で勝負してきたAI秋元氏の動きを秋元氏は「読んでいたんじゃないか」と予想していた。実際に秋元氏は収録で「やっぱりAIはすごいですよね学習能力があるから。でもデータからだとある程度の予想はつきますし『セシル』という言葉は生み出せない」と語っていた。
加えて「AIはデータを学習するけど、そこから何を引っ張り出していくかはセンス。AIが何を引っ張ってきたのかの(構造などは)知りたいですよね」とも。もしかすると勝敗うんぬんよりも、投票した視聴者やファンらが今回の対決における“自分の作品”がどちらであるのかに気づけたのかどうか、その上で票でも上回れなかったことを悔やんでいたのかもしれない。
実際、別の番組スタッフによると業界関係者の間での予想では「セシル」が秋元氏の作品だという意見が多かったという。番組に出演していた“一番弟子”の指原莉乃も収録開始当初から「セシル」が秋元氏の作品だと予想し「思い出スクロール」については「秋元さんを凝縮しすぎ」と語っていた。
収録後の取材でも「新しい論点が見えた」とし、AIは平均80点ほどの作品を生み出すことは得意なのではないかと分析。今回の「セシル」のようにデータでは導きだせない要素はまだあり「『ヒット曲を出すためには』というのをAIが学んだら最強なんじゃないかなと思います」と話していた。
番組の企画プロデューサーを務めた日テレの柏原萌人氏は「この対決を『おもしろい』と言ってチャレンジさせてくれた秋元さんの懐の深さに感謝です」としつつ「今回は対決でしたが、その『先』にあるのは結局“人がどうAIを使うのか?”があると思っています」と話した。「AIが生み出したものから何を選ぶか、AIにどうゆうプロンプトをいれるのかは人間の『センス』『チョイス』だと思います」とし「秋元さんやヒコロヒーさんも本編で言ってましたが、AIが一般化してきたことで、そこの『センス』や『チョイス』がこれからより大切になってくるんだと思います。『AIを我々人間がどう使っていくのか?』そんなことを考えるきっかけに、この番組がなったらすてきだなと思っております」と呼びかけた。
番組出演者たちも収録途中までは少しAIを持ち上げながらも、結果として秋元氏本人も見守る中でAIが勝ってしまった時のあのスタジオの空気はまさに“ガチ”だった。それを一番感じたのはおそらく秋元氏本人でフォローを入れる周囲に「慰めるなよ…」とぼやいていたのもまた正直な感想だったと感じる。
楽曲プロデュースも、番組作りも、予想も、全てを“ガチ”で作り込んだからこそ見えたものがあった気がした。企画は今後も続編制作の可能性もあるといい、どんな展開になっていくのか注目していきたい。番組はTVerやHuluでも配信中となっている。【松尾幸之介】