ニセ情報の拡散で身に覚えのない「殺人犯」に仕立て上げられる。SNS時代の恐ろしさを描く映画「俺ではない炎上」(山田篤宏監督)がヒット中だ。ボロボロになりながら逃走を続け、しゃにむに真相を追い求める会社員役で、主演の阿部寛(61)が体を張っている。劇中の衰えない肉体美でネット上をざわつかせている阿部に聞いた。
-最初に台本を読んだ時の率直な感想は?
阿部 SNSの用語がたくさん出てきて、最初は意味わからなくて(笑い)。リツイートするとどうなっていくのかとか、その仕組みを聞きながら、理解していったんですね。あっという間に犯罪者に仕立て上げられてしまう。改めてこういう時代なんだな、台本を理解しながらだんだん実感がわいてきました。
-追い詰められる男の心理がじわじわ伝わってきました
阿部 いつも、やったことのない役をやりたいという思いがあるので、台本を一読してもなかなか分からなかった今回は、まさにやりたい作品でもあったんですよ。完成した作品にも驚きがありましたね。(ネット投稿の)文字が画面上にどんどん出てくるじゃないですか。あれ監督が2カ月かけて編集したらしいんですけど(笑い)台本では想像できませんでした。
-阿部さん自身はSNSに象徴される今のネット社会をどう思いますか
阿部 フェイスブックの個人情報流出事件はよく覚えていますし、この映画に類するようなことが今後どんどん起きてしまう気がします。SNSで自分発信はしませんね。作品で表現して、番宣でテレビに出たり、こうして取材を受ければ、これ以上出すものがありませんから(笑い)。いろいろ小さいことはあったのかもしれませんが、エゴサーチもしないから苦い思いをしたこともありません。
-実際に演じてみて、難しかったところは?
阿部 僕の役は何度か死体を発見してしまうわけじゃないですか。普通に考えたら、すぐに警察に通報しますよね。ところが、しない。ま、通報したらそこで(物語は)終わってしまうわけですからね。その時の気持ちの作り方には悩みました。この人は日ごろ虚勢を張っているわけだし、時間に追われてパニックにもなっている。監督と話しながらそのパニクった感じをいかにリアルに見せるか。ずいぶん考えましたね。
-妻役の夏川結衣さんは初顔合わせから20年、今回が7度目の共演です
阿部 慣れるというより、毎回新鮮な驚きのある人です。台本を読みながら、夏川さんの演技を想像するんですけど、現場ではそれとは全然違うやり方をされて、すごく刺激されます。今回は絡むシーンは少なかったのですが、例えば警察の聞き込みを受けるシーンを後から映像で拝見して、そうくるのか、と。僕にとっては一番信頼している女優さんです。
-芦田愛菜さんとは初共演でした
阿部 子役としての活動が印象的だったこともあって、最初の印象は、あっ大人の女優さんだな、と。端からテンションの高い役なんですけど、ディスカッションしながらしっかり作られていました。そんな姿を見て、たくましいな、これからどんどんやっていく方だな、と思いましたね。
-「テルマエ・ロマエ」(12年)で圧倒されましたが、今回も肉体美を披露されてますね。この年齢で、ということでネット上でも話題になっています
阿部 「テルマエ」は外国人の役だったので、はたして外国人に見えるのか、というのが最初の課題でした。カツラ、付け鼻、それに裸になるので胸毛とか…いろいろ検討したんですけど、結局はまんまで出ましたね。
-その分、肉体美が際だった
阿部 何も付けない分、胸板は厚くみせようと(筋肉を)ガッツリつけました。もともとモデルだったのでジム通いはしていたんですが、あの時は2カ月かけて集中的にやりましたね。で、2年後に続編があって、その頃はもう(筋肉が)落ちちゃってましたから、また鍛えなおした。2回目だったから定着したのか、それからは落ちなくなりましたね。今は(ジム通いは)月1、2回ですが、あの時のままです。顔は老けるけど、体は変わらないのかな。
-一線級の俳優の中ではとりわけ出演頻度が高い方だと思います
阿部 けっこう隙間はあるんですよ。たまたま3本重なったり、公開時期が近かったり、ですよ。今はCMをやらせてもらっているから、そんな風に見える。忘れられずにいられるんだと思います。(3年前に)事務所を独立したりしたから、最初は頑張んなきゃなとか、それはありましたけど(笑い)
-今回は寒風の中、4年前にマレーシアで撮影した「夕霧花園」では炎暑の中。タフですね
阿部 いやいや。厳しいといえば、「TRICK」(00年)とか、1日2時間しか眠れないようなハードな撮影でしたからね(笑い)。「夕霧-」の撮影は夏でしたっけ。そうそう、ロケ地のそばにせせらぎがあって、休憩のたびにそこに行って足をつけていましたね。気持ち良かったです(笑い)あの作品は9カ国くらいからキャスト、スタッフが集まっていて、動きだけで互いに理解していた。見えない共通言語というか、映画の現場では言葉はいらないなって思いましたね。海外の仕事には必ず新しい発見があって、それが楽しみです。
-役柄の方もどんどん幅が広がってきました
阿部 同じような役が続くのはちょっと嫌だなという気持ちがあります。まったく違う役をやりたい、発見をしたいと常に思っています。20代の頃はモデル出身というイメージもあって役幅がほとんどなくて辛かったですから。それが染み込んでいます。
-カリスマモデルから華々しくデビューした後、イメージが固定化されて、確かに不振の時期もありましたね
阿部 それもあって、30代になっていろいろ習い事(古武術など)を始めたり、仕事に出向いたりして(高倉健主演ドラマに端役志願など)、それがだんだん実になってきたのが30代中盤くらいですかね。そんな時「凶銃ルガーP08」(94年)という、これは単館公開の映画なんですけど、それでマニアが選ぶGun大賞をいただいたんですよ。役者として初めての評価でした。うれしかった。今考えても一番うれしかった。努力したものが報われた。あの時の思いが今につながっている気がします。【相原斎】
◆阿部寛(あべ・ひろし) 1964年(昭39)6月22日神奈川生まれ。大学在学中に「ノンノボーイフレンド大賞」に優勝して「ノンノ」「メンズノンノ」のモデルとして人気に。87年、南野陽子主演の映画「はいからさんが通る」で俳優デビュー。93年のつかこうへい作・演出「熱海殺人事件」、95年のNHK大河ドラマ「八代将軍吉宗」などを転機に演技の幅を広げる。「TRICK」(00年~)「結婚できない男」(06年~)など多くの人気シリーズがある。