吉沢亮(31)の主演映画「国宝」(李相日監督)が、6月6日の初日から24日までの公開172日間で興行収入(興収)173億7739万4500円、動員1231万1553人を記録。03年「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(本広克行監督)が同年に記録した173億5000万円の実写日本映画の興収記録を、22年ぶりに塗り替えた。配給の東宝と作品の公式SNSが25日、発表した。
「国宝」は、公開初週の週末3日間の成績は興収3億4608万1800円、動員24万5358人。同5億6300万円の米映画「リロ&スティッチ」、同4億3000万円の「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」に続く、3位スタートだった。公開初日前後に複数の映画関係筋を取材する中で、配給の東宝サイドが想定している最終興収は、30億円前後との声が聞こえてきていた。
そうした見通しの背景には、若者になじみが薄いとみられた伝統芸能の歌舞伎が題材であることが第一にあった。映画自体、上映時間が175分と長尺で、TikTok(ティックトック)やYouTubeショートなど、短時間の配信企画が、ますます普及する中、観客のハードルは高いとみられた。原作本も「-上 青春篇」「-下 花道篇」と長大で目覚ましい売上を上げていなかった。
それが、公開2週目の興収は4億5100万円と、前週比130%で2位に浮上。そして、公開3週目にして興収5億1500万円を記録し、ついに首位に立った。その時点で累計の興収は21億円、動員は152万人を突破。それから7月6日までの公開31日間で興収44億8322万2200円、動員319万145人を記録。東宝配給作品としては、興収を発表している00年以降、史上初めて4週連続で金土日前週比を上回り、興収135億円を突破した18年の米映画「ボヘミアン・ラプソディ」と並んだ。
公開2週目以降の急伸の裏には、SNSを中心とした口コミがあった。Xには「#国宝」「#国宝観た」といったハッシュタグが並んだ。そうした口コミがムーブメントを巻き起こすに至った中心でささやかれていたのは、歌舞伎俳優ではなく経験すらなかった吉沢と横浜流星(29)が、歌舞伎俳優でも所作、歩き方などが難しいと言われる女形を、本職と見まごうばかりに演じていることに対する、驚嘆の声だった。
吉沢は任きょうの一門に生まれながらも抗争で父を亡くし、上方歌舞伎の名門の当主に引き取られ、芸の道に人生をささげた主人公・立花喜久雄、横浜は渡辺謙(66)が演じた喜久雄を引き取った花井半二郎の実の息子で生まれながらに将来を約束された御曹司・大垣俊介を演じた。2人は、我妻千五郎役で映画にも出演した歌舞伎俳優の中村鴈治郎(66)から歌舞伎の指導を受け、基本のすり足からはじめ「鷺娘」「二人道成寺」「曽根崎心中」といった演目を1年半にわたって稽古した。
そのことも大きく報じられた。吉沢や横浜が「国宝的イケメン」などと、そのルックスが話題を呼び、ファンが劇場に足を運んだ中で、演じた歌舞伎自体が素晴らしいと評判を呼び、さらなる観客を呼び、社会的ムーブメントに発展。原作本は公開後、急激に売上を伸ばし、公開後の4カ月間で164万部超が重版され、10月31日には単行本と文庫、電子版などの上・下巻を合わせた累計発行部数が200万部を突破。奥寺佐渡子氏の脚本の全文と創作ノートを掲載した、8月1日発売の「月刊シナリオ」(シナリオ作家協会)9月号も異例の増刷となった。
吉沢と横浜が歌舞伎の稽古に1年半もかけたことに、映画業界からも驚きの声が相次いでいる。10月30日に第38回東京国際映画祭のイベントの一環として李相日監督(51)と対談した山田洋次監督(94)は「(歌舞伎の稽古に)1年半、かけちゃうんだ…でも1年半でできる。本職の女形が悔しくなっちゃうね」と笑顔交じりで語った。同監督は「普通、スターは情熱を持っていないけどね。これだと思ったんだろうな」と、21年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で主演を務めるなど、人気、実力ともに認められた吉沢が、1年半もの歌舞伎の稽古に取り組んだこともたたえた。李監督は「映画で記憶に残るものをやりたいという強い意欲を持っていた。撮影の5、6年前から声をかけていた」と明かした。
李監督は、10年の監督作「悪人」公開時に歌舞伎の女形を中心とした映画を構想した経緯もあり、同作の原作者・吉田氏が17年に朝日新聞で「国宝」の連載を開始する段階で話を聞き、実際に作品を読み映画化に着手。吉沢を主演に起用するありきで企画を立ち上げた。歴史的大ヒットについて「人ごとのように聞いてしまいますけど…人ごとだと思えば記録は常に、いつかは更新されます。その時代に、観客の皆さんに求められている作品が記録を作っていくと思っている」と語っている。そして「美しい映画として届くことを願っていた。数字が騒がれたりしますけど、たくさんの心に届いたこと、皆が喜んでいます」とも語った。
美しいものを届けたい、女形の映画を作りたい…李監督はその一心で、「悪人」、16年「怒り」でタッグを組んだ吉田氏の原作を映画化し、そのために必要な人材を「ありき」とまで口にした吉沢らを集めた。「関わった皆さん、1人、1人と背負い合って、やればできた」(李監督)珠玉の1本が、映画の力を示し、観客の心をわしづかみに、22年ぶりの快挙達成に結実した。【村上幸将】