<第38回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)>
興行収入(興収)181億4000万円(21日現在)を記録し、実写日本映画興収記録を22年ぶりに更新した「国宝」(李相日監督)が、第38回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)で史上最多の6冠に輝いた。日刊スポーツ映画大賞を初受賞した、主演男優賞の吉沢亮(31)は「日本映画の可能性を感じた。日本語の作品を届けたい」と、日本映画を「国宝」として海外に届けていくと誓った。
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公開から半年たっても「国宝」は社会現象を巻き起こしている。上映は続き、国内映画賞の受賞ラッシュの中、吉沢は「初めて経験することが多い。『興収邦画実写NO・1、おめでとうございます! すごいですね』みたいな。一観客として、どこか人ごととして捉える自分がいます」と笑った。
「映画で学んできた人間。映画で1つ、何か結果を出したいという思いは、ずっとありました。何か、形を残したかった」中、5、6年前に李監督から、自分ありき、と声をかけられた。「憧れの李監督。結果を出さないわけにはいかなかった。この作品で良い芝居ができなかったら何のために役者やってきたんだ、というほどの覚悟」で未経験の歌舞伎の稽古に臨んだ。
覚悟は、何度も折れかけた。日本舞踊家の谷口裕和氏に基本のすり足から習い始めたが、半年後に見学に訪れた李監督が「絶望した顔で帰っていった」姿は今も忘れない。「僕の前に女形の歌舞伎役者の方が稽古をしている。レベルが違いすぎて、これを見た後に、『どう踊りゃいいんだよ?』と。やればやるほど本物には届かない…苦しい思いも散々した」1年半だった。
「意地にはなっていた」という。李監督の16年「怒り」のオーディションを受けたが「僕に全く興味がなさそうだった」同監督の目に留まらなかった。「どう納得してもらえるか」。その思いだけで「死ぬほど、やった」と、7月の特大ヒット記念舞台あいさつの壇上で漏らした。公の場で「死ぬほど」と口にしたのは、共演陣がいなかったこの日が最初で最後だった。
30代での初仕事「国宝」は「役者人生の句読点」であり、「代表作と言われるのと、別な作品が生まれることを目指す」出発点にもなったという。米アカデミー賞ショートリスト入りなど世界にも広がる中で胸に湧いた思いがある。「日本語の作品が海外の方に受け入れられ、可能性を感じる。向こう(海外)の作品に出たいという思いもないことはないですけど、日本の作品を届けたいという思いの方が僕の中では大きい」。日本映画という「国宝」を世界に届ける男になる。【村上幸将】
◆国宝 任侠(にんきょう)の一門に生まれた立花(吉沢亮、黒川想矢)は抗争で父を亡くし、上方歌舞伎の名門当主・花井(渡辺謙)に引き取られ、花井の息子・大垣(横浜流星、越山敬達)と出会う。正反対の血筋で才能も異なる2人は、切磋琢磨(せっさたくま)し芸に青春をささげるが、多くの出会いと別れを経て運命の歯車は狂っていく。
◆吉沢亮(よしざわ・りょう)1994年(平6)2月1日、東京生まれ。09年アミューズ全国オーディションをきっかけにデビュー。19年NHK連続テレビ小説「なつぞら」でヒロインの幼なじみ、21年大河「青天を衝け」では主演の渋沢栄一を演じた。171センチ。血液型B。
◆日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞の同一年最多受賞作品 これまで91年(第4回)の「息子」が作品賞含む最多5冠(監督賞=山田洋次、主演男優賞=三國連太郎、助演男優賞=永瀬正敏、助演女優賞=和久井映見)に輝いた。4冠は93年「学校」、02年「たそがれ清兵衛」、06年「フラガール」、09年「ディア・ドクター」、23年「月」の5回ある。
◆昨年「侍タイムスリッパー」で主演男優賞の山口馬木也(52) ここまで俳優というものが役と同居し、存在できるということに深く感動し、驚愕(きょうがく)しました。吉沢さんの洞察力、卓越した表現力、そして圧倒的な存在感は、多くの人に感動と衝撃を与えたことと思います。このたびの賞はその偉大な功績の証しであり、心からお祝い申し上げます。今後もますますのご活躍を楽しみにしております。
■「ババンババンバンバンパイア」も対象に
吉沢は、もう1本の主演映画「ババンババンバンバンパイア」(浜崎慎治監督)も受賞対象作になったことを喜んだ。「『国宝』から1カ月後に撮った。全てを解放したというか楽しくて仕方なかった」。銭湯で働く450歳のバンパイアを演じた。「自分が好きだと思える作品しかやらない分、本気になれる」と言う通り、浴場で掃除し、裸になり「童貞喪失絶対阻止!」と絶叫する、針の振り切れた芝居で幅の広さを示した。
◆ババンババンバンバンパイア 銭湯で働く森蘭丸(吉沢)の正体は、「18歳童貞の血」を求める450歳のバンパイア。銭湯の息子、15歳の李仁(板垣李光人)の純潔を守るべく、あらゆる手を使って葵(原菜乃華)への初恋を阻止しようとする。