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女優菊地凛子(45)が、三谷幸喜氏の新作舞台「いのこりぐみ」(30日から、東京・IMM THEATERなど)で舞台デビューする。映画を中心に国内外でグローバルな活動を続ける中、40代で演劇という新たなキャリアの扉を開く。自称「イタい新人」と胸を張り、新境地にわくわくしている。【梅田恵子】
■「いつかやれたら」
映画「バベル」(06年)で米アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ話題を呼んで20年。主に映画、ドラマの映像作品でキャリアを積んできた。舞台は「いつかやれたら」というあこがれの世界だったという。「目の前の役者さんからすごいエネルギーをもらえるし、出ている人たちをより好きになる。映画とはまた別の志を感じて、私が足を踏み入れていいんだろうかと、どこかで後回しにしてきた」と話す。
三谷氏脚本のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22年)で共演した小栗旬(43)の主演舞台「ジョン王」(23年)を見て、長年の思いが動き出した。「大河で1年間主演していた人がもうシェークスピアをやっていて、ただただ尊敬しちゃって。頼りになるし、いつか一緒にやってみたいとお話しして。近くに三谷さんもいらして、みんなの気持ちがそろうと物事って本当に実現するんだなって」。
挑戦にちゅうちょはなかったか尋ねると「好奇心が勝つとジャンプを高く飛べるタイプなんですけど、飛んだ先で不安に襲われる(笑い)。好奇心旺盛な心配性なんです」。「緊張感マシマシですが、舞台はみんなで試験勉強して本番に挑む感じで心強い。安心して飛び込んでいます」。
演じるのは、放課後の小学校の教室にやってきて「担任を代えてほしい」と主張するモンスターペアレントな母親の役どころ。若手教師(小栗)、担任(平岩紙)、教頭(相島一之)とともに、笑いあり、時にスリルありのディスカッション劇を繰り広げる。
「本当にモンスターで、出会いたくない感じの人」と笑いながらも、キャラクターへの愛という三谷作品らしさを感じるという。「どんな嫌な人にも理由があってそこに立っている。演じる側もそのキャラクターを大好きになっていくんですよね」。「鎌倉殿」では、夫に毒を盛る3番目の妻を演じた。「この人にもそれだけのさみしさや苦しみがあったんだなって、最後にハグしてあげたくなるというか」。
キャラクターは三谷氏のアテ書き。「私のどこをどう思ってこれをアテ書きしてくれたんだろう」と大笑いする。「私の会話ってどうもズレてるらしいんですよ。それが、教師と全然かみ合わない感じに出ているのかな」とし「見る人が、最後に4人の人物をハグしてあげたくなる感じになると、いい作品になるんじゃないかと思います」。
■2児の母としては
自身も2人の子を持つ母親だが、モンスターペアレントとはむしろ対極だ。
「心配性なので、何かあったらウチの子がしたんじゃないかという方向性で不安になるタイプ。あいつ、やったな? って(笑い)」。女優業とのオン、オフも特にないという。「毎日お弁当作って送って、という家庭の日常があっての仕事なので。お父さん(夫)はすごくしっかりしている人なので、2人で一生懸命子育てしています。毎日、子どもたちには本当に癒やされています」。
家庭と子どもという大切なものがあり、40代は気持ちがラクになったという。今は、自分を「新人」と自覚し、楽しんでいる。「40からテレビの仕事が増えたのですが、監督がどこにいるのかも、ギョーカイ用語も分からなくて、新人なんだと気持ちを新たにしたんです。40になってイタい新人だねって(笑い)」。
「分からないことを分からないと素直に言えるようになった。舞台挑戦もその一環ですよね。刺激を受けたまま飛んでみたい」と目を輝かせ、「なのでどうか、どぉ~か優しい気持ちで見ていただけると。新人だからしょうがないなと、母親のような気持ちで」と底抜けの笑顔。45歳の新人は、いかにも楽しそうだ。
■アカデミー賞ノミネートから約20年ぶり再び快挙
映画「バベル」で日本人女優として約50年ぶりに米アカデミー賞にノミネートされたのは25歳の時。以来、「ノルウェイの森」(トラン・アン・ユン監督)、「パシフィック・リム」(ギレルモ・デル・トロ監督)、「47RONIN」(カール・リンシュ監督)など国際的な作品に数多く出演。国内外問わず幅広いフィールドで活躍を続けるトップランナーだ。
今年もうれしいトピックで幕開け。昨年、主演で参加した米映画「Ha-Chan,Shake Your Booty!」(ジョセフ・クボタ・ウラディカ監督)が、22日から米国で開催される「サンダンス映画祭2026」のコンペティション部門に選ばれた。社交ダンスのパートナーでもある夫を失った妻が、再びダンスで生きる力を取り戻していく再生の物語。「めちゃくちゃ社交ダンスしてるんですよ私。サンダンスは快挙だと思うので、とてもうれしいです」。
国際派女優としてスペシャルな経歴を持つが、国際派路線を目指したことはないという。「面白そうと思えれば日本でも海外でも飛び込んできただけ。『ハリウッドの方ですよね』とか言われることもありますが、どこでそうなった? って(笑い)。ハリウッドには行ったけど、ハリウッドの方ではないといつも思ってます」と明快だ。「そもそも『バベル』ではひと言もしゃべってない役なのに。英語ペラペラみたいに思われていて、必死ですよこっちは(笑い)」。
「いのこりぐみ」のけいこでは、三谷氏から演出を受けるのが楽しいという。「てにをはのニュアンスも細かくチェックしてくださって、日本語の奥深さってすてきだなと。日本語でお芝居する楽しさを満喫しています」。
新藤兼人監督の「生きたい」(99年)でデビューして27年。今の自分を「悪くないというか、よくやっている方だと思います」と語る。「人にも自分にも厳しくするのが嫌なので、うまくやっていると思いたいし、世間さまにも優しくしてほしい(笑い)」。
これから先も「こつこつと丁寧に、一喜一憂しながらやっていきたい」という。「初舞台の私に旬くんが『初めてのことがあるって素晴らしいじゃん』と言ってくれて、そっか、私はまだまだ知らないことがいっぱいあるな、自分の好奇心で体験していけるんだなってすごく楽しみなんです。年齢が上がればまた全然違う役があるでしょうし。今の自分が持っているものを、一生懸命やれたらいいなと思います」。
◆菊地凛子(きくち・りんこ)1981年(昭56)1月6日生まれ、神奈川県出身。映画「生きたい」(99年)でスクリーンデビュー。「バベル」で米アカデミー賞助演女優賞を含む多数の映画賞にノミネートされ、「パシフィック・リム」シリーズなど海外の作品にも多数出演。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、連続テレビ小説「ブギウギ」、「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(フジテレビ)などドラマ出演も多数。
◆舞台「いのこりぐみ」 放課後の小学校の教室。2人の教師が面談のため残っていると、ある児童の母親がやってくる。息子が担任に嫌われているから担任を代えてほしいと主張すると、当の担任教師も現れる。教師たちは、母親と担任の2人から詳細を聞き取り、解決の糸口を探そうとする。作、演出三谷幸喜。出演は、三谷舞台初出演の小栗旬、舞台初挑戦の菊地凛子、平岩紙、相島一之。30日から、東京ドームシティ内・IMM THEATERで東京公演後、新潟、兵庫、愛知、大阪で公演。