濱口竜介監督が初海外、パリ撮影新作「急に具合が悪くなる」で長塚京三と黒崎煌代が出演

濱口竜介監督の新作映画「急に具合が悪くなる」の撮影でセーヌ川付近で演じる、岡本多緒(左)とビルジニー・エフィラ

長塚京三(80)と黒崎煌代(23)が、濱口竜介監督(47)初の海外撮影となるフランス・パリで撮影した新作映画「急に具合が悪くなる」(26年公開)に祖父と孫役で出演することが3日、分かった。「敵」(吉田大八監督)で24年の第37回東京国際映画祭で、自身の最優秀男優賞、監督賞と東京グランプリ/東京都知事賞併せて邦画19年ぶりの3冠を獲得した長塚と、1月29日に発表された2025年 第99回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞を受賞した黒崎ともに、濱口監督作品への出演は初めて。

パリ大(ソルボンヌ)に留学し、1974年(昭49)のフランス映画「パリの中国人」(ジャン・ヤンヌ監督)でデビューした長塚は「大量のフランス語パートが気がかりでしたが、初心に返って勉強し直しました」とフランス語を学び直して出演。黒崎は「初めての海外スタッフとの海外での撮影で、フランスの映画撮影文化と、日本の映画撮影文化の違いに驚くこともありましたが、根幹にある良い作品を作るという最も大事な部分が共通している事がとてもうれしく、感動しながら撮影に臨みました」と大きな収穫を得た。

「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子氏と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂氏が交わした20通の往復書簡を元にした、19年の同名共著(晶文社)を原作に、濱口監督が脚本を執筆。パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルー・フォンテーヌと、がんで闘病中の日本人演出家・森崎真理との交流を描く。マリー=ルーをベルギーの俳優ビルジニー・エフィラ(48)、真理を女優・モデル・映画監督のTAOこと岡本多緒(40)が演じる。長塚は真理が演出する舞台に出演する俳優の清宮吾朗、黒崎は吾朗の孫の窪寺智樹を演じる。マリー=ルーと真理、2人の主人公を引き合わせる重要な役どころだ。

長塚は「あの原作がこのホン? あまりに自由な想像力の奔流に圧倒され、しまいには感動していました。吾朗役には、早くから私を想定してくださったようで、演技者としてこんなうれしいことはありません、喜んでお受けしました」と、濱口監督の脚本を絶賛した。

黒崎も「圧倒されました。素晴らしすぎる脚本で、文字だけで既にとても心にくるものがありました」と、濱口監督の脚本の素晴らしさに驚嘆の声を上げた。「この脚本の世界に関わることができる幸せを感じると同時に、現時点での自分史上最高で臨まなければ通用しないことも読んだ瞬間に感じました。責任を持って智樹を演じるぞと改めて気合を入れ直した瞬間でもありました」と脚本を読んだ時の心境を語った。

濱口監督は、感情を入れずに脚本を何度も何度も繰り返し、セリフが自動的に出てくるくらい、俳優の体に染み込ませる「本読み」など、独特の演出で知られる。ただ、長塚は「ユニークな演出法として、ことさらミステリアスに取り沙汰されることも多いようですが、僕は濱口監督の演出は、古典的なまでにオーソドックスだと思っています」と評した。「『原点回帰』というか、テクストに返るという大原則ですね。答えは既にテクストの中にある。役者は書かれたそのままを伝えればいい。ひたすらシンプルに、清澄に。(私の場合は)『熾火に薪をくべるように』と、イメージはひと夫々でしょうが」と極めて基本に則ったものであることを強調した。

黒崎は、濱口監督の演出を「魔法のような体験でした」と評した。「リハーサルが特に印象に残っています。監督が緻密に設計したリハーサルの流れに身を委ねていると、気づけばゴールの目前に立っているような。一見すると断片的に思えるリハーサル同士も、最終的には結びついていく。そんな不思議な体験に何度も静かな驚きを覚えました。濱口監督のリハーサルには、演出の精密さだけでなく、私たち役者への信頼が織り込まれていました」と熱く語った。「リハーサルの内容は詳しくは言えませんが、言えることがあるとするならば、濱口監督からすべてを指示されたわけではない。かといって、すべてを委ねられていたわけでもない。ただ、監督と結んだ約束のようなものがありました。私はその約束を守り続けることで、智樹を演じきる事ができました」と同監督と、特別なもので結ばれた実感があったと感謝した。

濱口監督は「長塚京三さんはいつかお仕事をしたいと願っていた方であり、その機会を得られて心よりうれしく思いました。これほどのキャリアがありながら、リハーサル時点から信じられないぐらい謙虚で、熱心で、感動してしまいました」と長塚との初タッグが実現した感激を口にした。そして「黒崎煌代さんとも一緒にたくさんリハーサルもしましたが、単純に人間として、とても好きになってしまいました。どの声も、動きも、名前の通りにきらめいているような、そんな印象を受けます」と、同じく初タッグの黒崎を絶賛。「おふたりには祖父と孫を演じていただいたのですが、現場ではそれぞれの知性と誠実さがそのまま現れていて、どの瞬間も胸が震える思いで見ていました。撮らせていただいて、とても幸せでした。早く多くの方にご覧いただきたいと気がはやります」と、2人の演技を1日も早く作品として披露したいと胸を躍らせた。

撮影を終え、長塚は「いろいろ楽しみが満載です。自分事で恐縮ですが、早く地のセリフと舞台上のセリフの機微を、聞き比べてみたい、とか。なんだか濱口組の『短期留学』から帰ったような気分です」と、独特の言い回しで完成に期待を寄せた。

黒崎は「ビルジニー・エフィラさん、岡本多緒さん、長塚京三さんに支えられ、濱口竜介監督に引っ張ってもらいながら撮影に臨みました。この面々にお世話になって、駄目になる方が難しいです。正直言って、自信満々です。間違いなく面白い映画になっていると思います。公開をお楽しみに」と作品への、あふれる自信を迷うことなく口にした。

「急に具合が悪くなる」は、濱口監督にとって、23年9月に世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭(イタリア)で審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞し、24年4月に公開した映画「悪は存在しない」以来の新作で、フランス、日本、ドイツ、ベルギーの国際共同製作の作品。長塚と黒崎の出演発表に併せ、エフィラ演じるマリー=ルーと岡本演じる真理が、夜のセーヌ川に並んで座る姿を捉えた、作品の場面写真1点が初公開された。

◆「急に具合が悪くなる」 パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、日本人の演出家・森崎真理(岡本多緒)に出会い、がん闘病中の真理の描く演劇に勇気をもらう。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、交流を始めた2人だったが、ある時、真理が「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、2人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる。