小柳ルミ子(73)が歌手デビュー55周年を迎えた。その節目を前にした昨年7月22日に、かけがえのない存在だった愛犬の5代目ルル(11歳、犬種チワワ)が急死した。悲しみの中、それでも55周年記念曲の制作に入った。並行して6代目となってくれるチワワを探した。すると不思議な偶然がいくつも重なった。小柳の55周年を3回連載で振り返る最終回は「愛犬5代目ルルの奇跡」です。【笹森文彦】
小柳が赤ちゃんの時から、家には常に家族同様の飼い犬がいた。
初代の犬種はスピッツ、2代目はマルチーズ、3代目がポメラニアン。小柳自身が飼うことになる4代目、5代目はロングコートチワワ。名前はすべて「ルル」だった。
5代目ルルは保護犬だった。保護犬は飼い主に見放されるなど、さまざまな理由で施設などに保護された犬である。4代目が亡くなって、20年秋に初めて保護犬を飼うことにした。
「最初はおびえていて、本当に暗い目をしていました。とにかく絶対怒らない。いっぱい声をかけて、私から距離を縮めて、信用してもらうために努力しました」。
その深い愛情で、5代目ルルは小柳をそばで支えるかけがえのない存在になっていった。
25年7月22日、ドラマの収録を終えて帰宅した。「ルル、ただいま」と呼びかけたが、応答がない。寝ているのかなと思い、リビングに行った。サークルの中で動かなくなっていた。
すぐに動物病院に向かったが、手遅れだった。死因は心臓病だった。出会いから4年10カ月での突然の別れに、溺愛(できあい)していた小柳は絶望した。
「毎日、死にたい、死にたいと思っていました。ベランダから飛び降りようか、このまま食べなければ死ねるかなとか、そんなことを考える毎日でした」
それでも翌年の55周年に向けて、始動しなければならない時期が迫った。
スタッフは記念曲のために、何人かの著名な作家を候補に挙げた。だが交渉が進まず、小柳が自身のボイストレーナーで、シンガー・ソングライターの向井浩二(45)を指名した。
向井は、小柳の代表曲「瀬戸の花嫁」の作曲家・平尾昌晃氏に紹介されてボイストレーナーになった。
「『向井君、死ぬ気になって書いてみてよ』って言ったんです。今から思えば(彼を指名したのは)必然だったと思います」。
会議を重ね、記念曲は小柳の生きざまと重なる「愛は輪廻転生(りんねてんしょう)」と、5代目ルルへの追悼歌「あなたがいたから」の2曲に決まった。
12月初旬、小柳は突然に6代目ルルを探し始めた。全国のショップ、ブリーダー(犬や猫などの繁殖・販売の専門家)、保護犬の施設などから、写真や動画の情報を集めまくった。
「何かに取りつかれたみたいに、何かに引っ張られるみたいに探しました。そして年が明けた1月13日に、ネットの写真を見てビビッと来たのが、今の6代目ルルなんです」。
記念曲のレコーディングは2日後の15日に決まっていた。ブリーダーに確認すると、その子を15人が検討中と言われた。
「15人じゃ無理…」と思ったが、14日にブリーダーから「会えますよ」と連絡を受けた。
小柳はレコーディングを終えると、すぐに駆けつけた。そして検討中の15人よりも速く、即決した。
5代目と同じロングコートチワワで、昨年の9月8日に生まれた生後4カ月の女の子だった。小柳はこの「月日」が妙に気になった。
「よくよく調べたら、9月8日は5代目ルルの四十九日の日だったんです。鳥肌が立ちました」。
仏教で四十九日とは「故人の魂の行き先が決まり、最終的に成仏を迎える節目の日」。また「生き物が亡くなってから生まれ変わるまでの期間」をさすともいう。
5代目ルルが9月8日に、6代目ルルに生まれ変わったのか。不思議な偶然はそれだけではなかった。
「後日、向井君に話したら、『9月8日って僕の誕生日です』って。もう『え~っ!』です」。
その向井が作詞作曲した記念曲「愛は輪廻転生」の「輪廻転生」とは、生き物が新しい命に生まれ変わりながら、生死を繰り返すことである。
まるで「9月8日」の不思議な因縁に導かれるように、物事が進んでいたかのようにも思える。
小柳が向井を指名したのも、突然に6代目を探し始めたのも、その前兆だったのかもしれない。
小柳は「奇跡とか、自然の力とか、いろんなことが重なったような気がします。6代目ルルと出会えなければ、まったくやる気が出なかったと思います」と振り返った。
もう1つ、『偶然』がある。小柳は55周年記念曲の発表会を、3月2日に都内で行った。数多くの取材陣が詰めかけた。
3月2日は、渡辺プロダクション創業者で、小柳を育て上げた故・渡辺晋氏の誕生日だった。
「意図したわけでなく、びっくりしました。デビューから55年やらせていただいて、またもうひと花咲かせたい。やっぱりルミ子さんって歌って踊って、キラキラしてかっこいいよね、と言われるアーティストでいたい。これが今の素直な気持ちです」。
歌手として女優としていくつもの花を咲かせてきた小柳ルミ子の、新たな花が楽しみである。(終わり)
◆小柳ルミ子(こやなぎ・るみこ) 本名・小柳留美子。1952年(昭27)7月2日、福岡市生まれ。宝塚歌劇団での芸名は「夏川るみ」。同期は麻実れい、東千晃ら。デビュー曲「私の城下町」(71年)で第13回日本レコード大賞最優秀新人賞。4作目「瀬戸の花嫁」(72年)で第3回日本歌謡大賞。ヒット曲は他に「京のにわか雨」「冬の駅」「星の砂」「お久しぶりね」「今さらジロー」など多数。映画初出演作「誘拐報道」(82年)で、第6回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞。映画「白蛇抄」(83年)で、第7回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。NHK紅白歌合戦は71年から18年連続出場。身長157センチ。