「私はオーディションに落ち続けてきた女優であります」松本まりかの本気の言葉は宝物

横浜国際映画祭 新人オーディションで最優秀賞を受賞し、特別審査員を務めた松本まりか(左)と記念撮影に納まる酒井希愛(2026年5月撮影)

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

「私はオーディションに落ち続けてきた女優であります」。この一言を聞き、パソコンを打つ手が止まった。声の主は近年、主演作が途切れることがない松本まりか(41)である。3日に横浜市内で開催された「東京彼女presents横浜国際映画祭新人女優オーディション」で、松本は特別審査員を務め、冒頭であいさつを求められた。開口一番、出てきたのが、この言葉だった。

続けて「今、26年目になりますけども、15歳の時に最初のオーディションに受かってから、落ち続けた私がオーディションの審査員をするなんて、おこがましいと思ったんですけど」と、女優人生の苦しかった日々を赤裸々に吐露。その上で「オーディションに受かる女優さんというのは、数少ないと思います。落ちる人、子たちが多くいる中で、私はその子たちのこと…才能や魅力というものもを見てほしいと思いますし」と訴えた。

「東京彼女presents横浜国際映画祭新人女優オーディション」は、世界に通用する新人女優を発掘し、映画業界に貢献することを目的に開催。今回は、13~28歳の女性を対象に募集した約2000人の応募者の中から選抜された、20人のファイナリストを会場で審査した。

目玉の1つが、松本が所属する研音、エー・プラス、エイベックス・マネジメント・エージェンシー、ジャパン・ミュージックエンターテインメント、ホリプロ、ワタナベエンターテインメント、プロダクション尾木、アニモプロデュース、officeMUGIの大手芸能事務所9社が参加した「スカウトタイム」だ。9社の関係者は、ファイナリスト20人の自己紹介と課題演技を見守り、興味がある人材がいれば、日本テレビ系の往年のオーディション版気味「スター誕生」のように事務所名が書かれた札を掲げる。

松本は、本番に入る前に、オーディションに落ち続けた“先輩”として、各事務所の関係者に一声かけずには、いられなかったのだろう。さらに「受かるだけが、全てじゃなくて…」と口にしたところで、言葉が詰まった。

この日、司会を務めた、元ニッポン放送のフリーアナウンサー吉田尚記(50)が「挑戦するだけでも、今回はすごいことですよね?」から助け舟を出されると「ごめんなさい。あまり、うまくしゃべれなくて」と吉田に感謝。「私はとにかく、女優という生きものが、すごく面白いと思うので、一人一人の魅力を見出していただきたいですし、受ける女優のみんなたちも、本当にはみ出してもいいから自分の表現を自分らしく楽しんで出してもらえたら、いいなと思います」とエールを送った。

これまで、インタビューを含め、松本を何度も取材したきた。作品や企画、イベントの大小に関わらず、1つ1つにしっかりと向き合い、考えた自分の言葉を語る人だと、ずっと思ってきた。24年2月に千葉市内で行われた千葉のさつまいもPRイベントで、千葉県の熊谷俊人知事(48)から「千葉のさつまいもアンバサダー」に任命された際は「生まれてから小学4年生まで育ったんですけど、千葉県とお仕事させていただくのは初めて。うれしかった。小学校の時、さつまいも掘りがあった。掘って、アルミホイルで巻いて焼いていたイメージ」などと、子どもの頃の思い出まで語った。

そんな松本が、3分強のあいさつの中で何度も言葉を詰まらせた。「すごく上手な言葉じゃなかったですけど、今日、1日が皆さんにとって何かの始まりの日になるように…」と公開オーディションを控えたファイナリスト20人にエールを送った。その姿を見て、ファイナリスト20人に、26年前の自分を重ねているのだろうと、思わずにはいられなかった。

松本は、オーディションの最後に講評を求められた時も「えぇと…私は、うまくしゃべることが全然、できないんですが…」と、言葉が出なかった。少し、時間を置いてから「そんな私でも今、女優として仕事ができています。女優という生きものは、本当に面白くて尊いものだと思っています。もちろん俳優さんも、そうです。本当の女優になりたいという純粋な思いを持って、ここに立たれ、勝ち抜いて来られたと心を打たれました」と20人に呼びかけた。集まった芸能事務所9社の関係者と観客にも「このピュアな彼女たちの個性というものを、どうぞ見つけて、伸ばして、否定しないで育てていって欲しい」と期待した。

そして「私の経験上なんですけれども、他者からの視点だったり、あれはダメ、これはダメ、みたいなふうになってしまうと、すごく自信がそがれていって私も長らく、女優として表に出られない期間があって」と自信の過去も告白。「今素晴らしい、今から芽が出る、ピュアで輝かしい原石を、皆さんで見つけて輝かせて欲しい。彼女たちの個性を否定しないで、一緒になって夢を実現させていただけたら、うれしい」と熱っぽく語った。

大物だったり人気の俳優が、若手や一般の学生にエールを送る姿を何度も取材し、見てきたが、ここまで若手に心を砕き、声を震わせ、親身になって語った人は、そういない。26年目を迎えた女優人生で、時に自分の個性や表現を否定され、傷つき、何度も心が折れかけながらも、自分を信じて前を向いて生き抜いてきた…痛みも、苦しみも、それに勝る喜びも味わってきた人だからこそ、ここまでのことが言えるのだろう。この日の松本の言葉は、ファイナリスト20人の心に、きっとかけがえのない財産として残るだろう。こうして原稿を書いている、記者の心の深い部分にも、1つの宝物として輝いている。【村上幸将】