濱口竜介監督、カンヌで「急に具合が悪くなる」上映 14分間拍手「こういう反応になるのか」

カンヌ映画祭のレッドカーペットを歩く、コンペティション部門出品作「急に具合が悪くなる」の、左から長塚京三、岡本多緒、濱口竜介監督、ビルジニー・エフィラ(C)Kazuko WAKAYAMA

フランスで開催中の世界3大映画祭の1つ、第79回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを競うコンペティション部門に出品された、濱口竜介監督(47)の新作「急に具合が悪くなる」(6月19日公開)の、ワールドプレミアとなる公式上映が15日、行われた。

エンドロール中から起きた拍手とスタンディングオベーションが14分にも及び、濱口監督は「素晴らしいキャストとクルーのおかげで完成しました。そして、この映画には原作があります。磯野真穂さん、そして、宮野真生子さんに感謝を申し上げたい」と感謝。同席した原作者の1人、磯野真穂氏は涙で目を真っ赤にして会場に手を振った。同監督は、囲み取材で「ようやく観客に届けられる日が来て。こういう反応になるのか、というのが1番、感じたことですね。たくさん笑いが起きたり…そういう映画なのか、と思ったりしました。最後には、非常に温かい拍手をいただけて良かったです」と率直な思いを語った。

「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子氏と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂氏が交わした20通の往復書簡を元にした、19年の同名共著(晶文社)を原作に、濱口監督が脚本を執筆。パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルー・フォンテーヌと、がんで闘病中の日本人演出家・森崎真理との交流を描いた。マリー=ルーをベルギーの俳優ビルジニー・エフィラ(48)真理を女優・モデル・映画監督のTAOこと岡本多緒(40)が演じた。

濱口監督は「考えていたのは、本当に1点。素晴らしい原作がありますけども、哲学者と文化人類学者の往復書簡で私自身、非常に心震えたところがあったので、自分が本を読んで陥ったような…起きたことが、観客にも起きて欲しいと思いました」と製作意図を説明。その上で「人と人が言葉を介してここまで深くなれるということと、偶然にかけると言うか…生きる方法というか、それが、ちゃんと映画に移し替えられたら良いとやっていました。どの程度のものになるかというのは、全くやっていて分からず…身体化して表現してくれた俳優の皆さんの力だと思います」と俳優陣に感謝した。

濱口監督にとって、23年9月に世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭(イタリア)で審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞し、24年4月に公開した映画「悪は存在しない」以来の新作で、フランス、日本、ドイツ、ベルギーの国際共同製作の作品。カンヌ映画祭コンペ部門への出品は18年「寝ても覚めても」、脚本賞を受賞した21年「ドライブ・マイ・カー」に続く3作目で、初の海外での撮影となるフランス・パリで撮影した作品となった。パリでの撮影、特に異言語の中での演出で難しかった点があったかと聞かれると「違う言語の演出は今までも経験があったので、そこがすごく大変だとは思っていなくて」と即答。「声を聞けば、俳優がどういうふうな体の状態なのか、集中しているかリラックスしているかある程度分かると思うので、今までの経験を生かして頑張ろうと思いました」と続けた。ただ1点「大変だったのは、フランスは日本とは全然違うわけですよ。フランスは自由な国。日本は規律がはっきりしている中、ずっとやってきて、雰囲気の違いは適応に時間がかかったかも知れないです」と国民性の違いには、やや戸惑ったと語った。

エフィラは「何より仕事熱心で的確に演出してくださる。柔らかく温かく、現場では誰をも等身大に扱ってくださる、個々をすごく尊重してくれる監督。見ていて熱心に働きたくなった」と濱口監督を絶賛。一方で、演出について「監督がくれた言葉が2、3あって…時に謎の言葉もあったんですけど、そのおかげで演じ切ることができました」とも語った。「いただいたコメントの1つが『脚本を使って演じてようとしている気がする。使うのではなく、テキストの中にに入り込んで欲しい』と言われました。最初は、これって、どういう意味だろう? と思ったけれど、しまいにはできてしまった」と言い、笑った。

公式上映には、エフィラと岡本のほか、真理が演出する舞台に出演する俳優の清宮吾朗役の長塚京三(80)吾朗の孫の窪寺智樹を演じた黒崎煌代(24)も参加。黒崎は25年の前回に、フランス監督協会が主催し、カンヌ映画祭に併設して開催される独立部門・監督週間に初主演映画「見はらし世代」(団塚唯我監督)が出品されたのに続き、2年連続でカンヌ映画祭に参加し、レッドカーペットを歩いた。

◆「急に具合が悪くなる」 フランス、パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、日本人の演出家・森崎真理(岡本多緒)に出会い、がん闘病中の真理の描く演劇に勇気をもらう。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、交流を始めた2人だったが、ある時、真理が「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、2人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる。