フランスで開催中のカンヌ映画祭で最高賞パルムドールを競うコンペティション部門に出品された、濱口竜介監督(47)の新作「急に具合が悪くなる」(6月19日公開)の公式会見とフォトコールが16日、行われた。
会見では、カンヌ映画祭で日本映画初の脚本賞を受賞した21年「ドライブ・マイ・カー」でも話題を呼んだ「多言語での会話」と濱口メソッドとも呼ばれる「感情を排した本読み」について話が及んだ。初の海外での撮影となるフランス・パリで撮影を行った濱口監督は「俳優が言葉の情報ではなく、体からあふれてくる感情の情報を使って演技ができるのではないか。俳優の集中力を非常に高めてくれるものだと期待して取り入れています」と意図を語った。
「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子氏と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂氏が交わした20通の往復書簡を元にした、19年の同名共著(晶文社)を原作に、濱口監督が脚本を執筆。パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルー・フォンテーヌと、がんで闘病中の日本人演出家・森崎真理との交流を描いた。マリー=ルーをベルギーの俳優ビルジニー・エフィラ(48)真理を女優・モデル・映画監督のTAOこと岡本多緒(40)が演じた。真理が演出する舞台に出演する俳優の清宮吾朗を長塚京三(80)吾朗の孫の窪寺智樹を黒崎煌代(24)が演じた。
黒崎は、濱口監督への印象を聞かれると「経験が浅い中で、このような素晴らしい作品に参加させていただいて、ただただ無我夢中でした」とまず口にした。その上で「濱口スペシャルメソッドでトレーニングメニューを組んでくれて、私は乗っかれば自然とたどり着いている、魔法のような演出をうけたという印象でした」と語った。
フランスで俳優デビューし、キャリア50年を数える長塚も「大変、勉強になりました」と語った。「フランス語のテキストを書き写しまして、書斎に貼ってその前を通るごとに黙々と読むということを日課にしました。そうやってセリフを覚え、一言一句間違えずに、そのまま、ただ声にする」とプロセスを明かした上で「今回の現場で、私は「ああ、演技というのはまだこんなにも奥深く、新しい発見があるものなんだな」と語った。
日本語での演技に挑んだフランスのトップ女優エフィラは「私はまず『ひらがな』を読むことから習得するように言われました」と笑った。「子供のように読みながら、本当に早口でテキストを繰り返しました。大変な作業でしたが、それができて本当に幸せでした。これは単なる撮影ではなく、別の世界へ連れて行かれるような、人間としての深い経験でした」と振り返った。
フランス語での演技に挑んだ岡本も「短い役者人生の中で、これほど豊かな時間をいただけたことはなかった」と振り返った「毎日、次の日のテキストを何回も何回も読む作業を繰り返すことで、母語ではない言語が体に染み付き、恐怖なく現場に行ける段階まで持っていっていただけました。言語の壁を越えて、身体的・エネルギー的に『本当に通じ合えている』と感じられる瞬間が多々ありました」と語った。
◆「急に具合が悪くなる」 フランス、パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、日本人の演出家・森崎真理(岡本多緒)に出会い、がん闘病中の真理の描く演劇に勇気をもらう。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、交流を始めた2人だったが、ある時、真理が「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、2人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる。