是枝裕和監督「箱の中の羊」カンヌ公式上映スタンディングオベーション中「樹木希林さんの顔が」

カンヌ映画祭のレッドカーペット上で手を振る、コンペティション部門出品作「箱の中の羊」の、左から大悟、桒木里夢、綾瀬はるか、是枝裕和監督(C)Kazuko WAKAYAMA

フランスで開催中の世界3大映画祭の1つ、第79回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを競うコンペティション部門に出品された、是枝裕和監督(63)の新作映画「箱の中の羊」(29日公開)の公式上映が16日、行われた。

上映後は、9分ものスタンディングオベーションが起きた。その印象を聞かれた是枝監督は「スタンディングオベーションはもちろんありがたいですけれども、途中から僕はもう樹木希林さんの顔が浮かんじゃって…」と、パルムドールを受賞した18年「万引き家族」の際、5月の公式上映に一緒に参加し、同年9月に亡くなった樹木希林さんの名を挙げた。「早くああいう時に『とにかく物欲しげに手を振っているのがみっともないから、早く帰りましょう、早く帰りましょう』とずっと言われていたものですから」と口にして、笑った。

「箱の中の羊」は是枝監督にとって「万引き家族」以来、日本映画では8年ぶりに自らオリジナル脚本を執筆した作品で、カンヌ映画祭コンペ部門への出品は、23年に坂元裕二氏(58)が脚本賞を受賞した「怪物」以来3年ぶり8度目。24年春に中国で死者のよみがえりビジネスが人気という記事を読んだ是枝監督の中に湧いた「最新のテクノロジーで死者をよみがえらせる」という発想が出発点となり、同年秋にビジネスをしている人に会い原案・脚本から手がけた。そう遠くない未来が舞台で、綾瀬はるか(41)が演じた建築家・音々と、千鳥の大悟(46)が演じた工務店の2代目社長を務める健介の甲本夫婦が、息子を亡くして2年のタイミングで、桒木里夢(くわき・りむ=10)が演じた息子・翔の姿をしたヒューマノイドを自宅に迎え入れる物語。

是枝監督は、これまで家族を1つのテーマとして作品作りをしてきた。「万引き家族」では、家族ぐるみで万引して生計を立てるも実は血縁がない家族を、22年にコンペ部門に出品した初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」では、子どもを産みながら事情があって母になることを諦め、ベビーボックスに赤ん坊を預けた女性と、その赤ん坊を子どもを求める夫婦に紹介するブローカーを描いた。

「箱の中の羊」では、2年前に息子を失った音々が希望し、息子・翔の姿をしたヒューマノイドを自宅に迎え入れる。音々が「おかえり」と駆け寄り喜ぶ一方、健介は戸惑いを隠せず、ヒューマノイドから「パパだよね」と問いかけられても「おじさんでええよ」と答えるなど、夫婦の間には温度差が生じる。生前の翔のデータを元に作り上げ、翔本人のようにしゃべり、振る舞うも、人間ではないヒューマノイドを迎え入れた2人の姿から、人とは何か? という人間性を問う物語となっている。

是枝監督は、囲み取材で「あまり自分で今回は、ファミリードラマだと思って作っていたわけではないので、実は」と明かした。「家族という箱としては使いましたけれども。自分としては人間とヒューマノイドが出てくる話ですが、むしろ人間性ってなんだろうか、最後に残る人間らしさというのは何なんだろう、ということに向かって物語が進んでいくというようなことは考えていました」と作品に込めた思いを語った。

劇中では、ヒューマノイド同士が繋がって、人間から離れていき、独自のコミュニティーを作っていく様も描かれる。是枝監督は「ヒューマノイドというのが人間が生んだ子供だとして、それが人間を超えて親離れをしていく時に、どういう存在になるのかなと思った時に、多分こちらだと大体人間を支配するディストピア(反理想郷)みたいな前提の映画とか物語が多いと思います」と、まず口にした。

その上で「むしろもっと人間から遠くに存在して、そうなった時に、もしかするとその在り方としては生に近いのではないかという、森に近いのではないか、そことの親和性みたいなものへ向かっていった時に、そこには人間は入れないので、残された側の、要するに子供が巣立った後の親が残りの人生をどういうふうに生きていくんだろうなというような、そんなことを重ねあわせながら描いてみました」と、さらに深く語った。

◆「箱の中の羊」 息子を亡くして2年。建築家の音々(綾瀬はるか)と工務店の2代目社長・健介(大悟)の甲本夫婦は、息子・翔(桒木里夢)の姿をしたヒューマノイドを迎え入れることになる。到着した日、「おかえり」と駆け寄り喜びを隠さない音々と、戸惑いを隠せない硬い表情の健介。「パパだよね」と問いかけられた健介は、「おじさんでええよ」と答える。ほどなく予期せぬ事態が起こり、夫婦がそれぞれに抱く息子の死への思いがあらわになっていく。夫婦が大きな決断に迫られる中、ヒューマノイド翔はひそかにヒューマノイドの仲間たちとつながり始める。