フランスで開催中の世界3大映画祭の一つ、第79回カンヌ映画祭授賞式が23日(日本時間24日)開かれた。最高賞パルムドールを競うコンペティション部門に出品された、濱口竜介監督(47)の新作「急に具合が悪くなる」(6月19日公開)に主演のベルギー・フランスの俳優ビルジニー・エフィラ(49)とダブル主演した女優・モデル・映画監督のTAOこと岡本多緒(41)が、そろって女優賞を受賞した。日本人俳優の女優賞受賞は、同映画祭79年の歴史で初めて。
濱口監督は授賞式後、岡本とエフィラと歓喜の抱擁をかわした。そして「本当にこの2人は…そもそも自分の映画にとって役者が本当に中心で。この映画は、ずっと2人を見る映画で。この2人が本当にこの映画の魂だなと思っていたので、2人が共同でもらった、ということが、本当に本当にこの映画そのものを(評価して)もらったっていう感覚があります」と主演女優2人そろっての受賞を喜んだ。そして「2人の仕事は本当に本当に(この賞に)ふさわしいです。演技が単に素晴らしいだけじゃなくて、2人がそのために重ねてきた努力というものも、私は見ていたので…本当にありがとうございました」と感謝した。
エフィラは受賞の瞬間について聞かれ「自分の名前を聞いた時はまさかと思って、本当に頭の中が真っ白になって、魂だけが離脱してしまったような感覚でした」と振り返った。そして「真っ先に濱口竜介監督の方を向いて、もちろん多緒さんともその場ですぐに心が通わせられた気がして。それから『とにかくうれしい』『おめでとう!』という気持ちでした」と続けた。
岡本は「私も本当に全く同じで、頭が真っ白になって、記憶がごちゃごちゃですけど多分、先に監督の方を向いたんだと思います。そしたらすごい、見たことのないような優しい顔」と受賞の瞬間の、濱口監督の表情を説明。「いつも、にこやかで優しいんですけど、でもすごく喜んでくれているのが伝わって、『本当に私の名前だったのかもしれない』みたいな。で、こっち向いたらビルジニーも『はー』ってなっていて本当なのかもしれないみたいなのが、だんだん現実に戻ってきたみたいな感じで、すごい時間かかりました」と振り返った。
「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子氏と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂氏がかわした20通の往復書簡を元にした、19年の同名共著(晶文社)を原作に、濱口監督が脚本を執筆。パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルー・フォンテーヌと、がんで闘病中の日本人演出家・森崎真理との交流を描く。マリー=ルーをエフィラ、真理を岡本が演じた。同監督は「原作の宮野真生子さんと磯野真穂さんの魂を引き継ぐような形で、おふたりが演じてくださった。それをカンヌ映画祭が評価してくれたのだと思います。本当にうれしいです!」と2人を祝福した。
岡本は、16年に結婚したスイス出身の編集者、クリエーターのテンジン・ワイルド氏との間の第1子を妊娠した身重の体でカンヌ映画祭に参加していた。濱口監督が、膨らんだおなかに向かって手をかざして祝福すると「もう、出てきちゃいそう。(受賞で)興奮して」と言い、満面の笑みを浮かべた。
◆「急に具合が悪くなる」 フランス、パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、日本人の演出家・森崎真理(岡本多緒)に出会い、がん闘病中の真理の描く演劇に勇気をもらう。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、交流を始めた2人だったが、ある時、真理が「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、2人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる。