世界3大映画祭の1つ、 第79回カンヌ映画祭(フランス)で、日本人初の女優賞を受賞した「急に具合が悪くなる」(6月19日公開)主演の岡本多緒(41)とベルギー出身のフランスの俳優ビルジニー・エフィラ(49)と濱口竜介監督(47)が26日、都内の日本記者クラブで会見を開いた。
濱口監督は、フランスで9割、撮影し、スタッフも9割、フランスの人員だったことに触れ「良かったのは休みがあること。当たり前のことだけれど、それが(日本では)難しい」と語った。その上で「フランスでは1日、休憩を挟んで8時間労働と決まっている。残業があれば(スタッフにギャラを)1時間で125%払うと協定で決まり、土日に撮影した場合、2日分を1日で払う。当然、撮影は規定の時間で行ってくれ、と」と、フランスは労働時間について、きちんと決まっていると説明。「(作品の)クオリティーとのバランスを取らなければならないが、撮影は肉体労働。体を使う行為で当然、ものすごく疲れる。そのことに対し、回復の時間が用意されているのがシステムにくみ込まれているのが大事。(そうしないと)持続可能な映画製作はできない」と続けた。
日本映画界の現状に話しを向けられると「日本が、すぐ同じレベルにいくとは思わないけれど」と指摘。その上で「現場で小話として言われたことですが、日本で1のお金でできることが、フランスでは3かかる。1日の撮影時間を限定すれば、それだけ撮影は長期的になる。押さえるとなると、どういう人件費がかかるか」と続けた。
さらに「給料の基準も全然、違う。だから3倍かかる。日本で予算を3倍にするのは、同じプロジェクトで急に3倍は難しい。1つ言えるのは、同じ予算でスケールを3分の1にすることはできるのではないか?」と投げかけた。「そうすると、恐らく身体の回復は保たれる。撮影期間は、その分、短くなってしまうかも知れないが、どこまで映画の面白さに直結するかは難しいところ」と言及。「物量があれば少なくともスペクタクルは作れるが、必ずしも、観客の人生観が変わる体験になるかには、直結しない」と指摘。「日本の映画界全体で、こんな環境で仕事しているんだと胸に留めながらやっていくべきで、できれば改善されていくべきだと思う」と語った。
「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子氏と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂氏がかわした20通の往復書簡を元にした、19年の同名共著(晶文社)を原作に、濱口監督が脚本を執筆。パリ郊外の介護施設の施設長マリー=ルー・フォンテーヌと、がんで闘病中の日本人演出家・森崎真理との交流を描く。マリー=ルーをエフィラ、真理を岡本が演じた。マリー=ルーと真理を引き合わせる重要な役どころとして、真理が演出する舞台に出演する俳優の清宮吾朗をた長塚京三(80)、吾朗の孫の窪寺智樹を黒崎煌代(24)が演じた。
◆「急に具合が悪くなる」 フランス、パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌ(ビルジニー・エフィラ)は、入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、日本人の演出家・森崎真理(岡本多緒)に出会い、がん闘病中の真理の描く演劇に勇気をもらう。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、交流を始めた2人だったが、ある時、真理が「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、2人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる。