<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
座席数436と大きな東京・TOHOシネマズ日比谷スクリーン1の壇上で、カンヌ映画祭(フランス)で日本人初の女優賞を受賞した身として、スポットライトを浴びた岡本多緒(41)の姿をステージ下から見上げ、実に感慨深かった。わずか2年7カ月前、同劇場にほど近くのTOHOシネマズシャンテで行われた、映画作家の発掘、育成に取り組む企画の参加者の1人として登壇した岡本を、取材した数少ない映画メディアの1人として見ていたからである。
岡本は、1985年(昭60)5月22日に千葉県で生まれ、14歳で日本でモデルとしてデビューした。06年に渡仏してパリ・コレクションに参加。その後、TAO名義でミラノ、ロンドン、ニューヨークと数々のトップメゾンのショー、雑誌、ワールドキャンペーン広告に多数出演し、トップモデルとして活躍した。
13年に、真田広之(65)も出演した米英合作映画「ウルヴァリン:SAMURAI」(ジェームズ・マンゴールド監督)で、映画デビューを果たした。翌14年には、谷原章介(53)が主演のWOWOW連続ドラマW「血の轍」でヒロインを演じ、日本のドラマに初出演。15年には、元EXILEの黒木啓司さん(46)主演の映画「クロスロード」(すずきじゅんいち監督)で、日本の映画にも初出演した。その後は、16年「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」(ザック・スナイダー監督)を含め、米ハリウッド作品を中心に国内外で複数のドラマに出演したが、活動の拠点が海外だったため、日本国内では知る人ぞ知る存在だった。
17年には香港、中国合作映画「マンハント」(ジョン・ウー監督)で福山雅治(57)と共演。記者は翌18年1月30日に東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた「マンハント」ジャパンプレミアを、試写を見た上で取材した。TAO名義で登壇した岡本は、9人の登壇者の中で左端に立ったが、女性ながらひときわ背が高く「世界で活躍するモデルは違うな」と思い、見ていた。とは言え、取材でフォーカスしたのは、やはり福山や國村隼(70)だった。取材した芸能メディアの中には、岡本が脇役だったからと、集合写真からカットして掲載したメディアもあった。
23年から拠点を日本に移して、岡本多緒名義で活動をスタートし、大沢たかお(58)主演の映画「沈黙の艦隊」(吉野耕平監督)に出演した。同年6月にTBS系で放送されたドラマ「ラストマン-全盲の捜査官-」第7話では福山と再共演するなど、ドラマ、映画に出演も、脇役を地道に演じてきた。
その中、同年10~11月開催の第36回東京国際映画祭で、初めて企画・監督・脚本・出演を手がけた短編映画「サン・アンド・ムーン」が、Amazon Prime Videoテイクワン賞のファイナリスト8作品に選出された。同賞は、同映画祭がAmazon Prime Videoと共催して新たな映画作家の発掘、育成に取り組む企画だ。
その上映会が、東京国際映画祭初日の23年10月23日にTOHOシネマズシャンテで行われ、岡本は8名の1人として壇上に立った。レッドカーペット&オープニングセレモニー前の公式行事のトップバッター、しかも朝早くの開催だったため、集まったメディアも手で数えるほどしかいなかった。加えて、メーンの取材対象は審査員を務めた玉城ティナ(28)だっただろう。集合写真を撮った際も、ずいぶん背が高く、かつ目鼻も整った顔立ちで監督と言うより、どう見ても俳優だったため調べたところ、モデル・俳優としても活動していることが分かった。それでも「マンハント」に出演したTAOと同一人物だと分かるまでに時間を要した。岡本は受賞を逃し、スポットライトが当たることはなかった。
25年5月に「急に具合が悪くなる」の製作の第1報として、岡本が主演を務めることを書いたが、その時も、Amazon Prime Videoテイクワン賞のファイナリストの1人だと、すぐには気付かなかった。岡本は同月に都内で開催された、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)2025」でアニメーション部門公式審査員を務めたが、撮影準備中という理由でオープニングセレモニーにビデオレターを寄せた。その段階で、「急に具合が悪くなる」のパリでの撮影準備が進んでおり、そのために参加できなかったのだろうと踏んでいた。
映画記者として取材してきた中で、スポットライトが当たっていたのは「マンハント」のジャパンプレミアくらいだった。それでも、どこか、心の片隅に存在が刺さっていたから、最も輝いた瞬間を取材することができたのだろう。日本人初の女優賞を受賞した思いを聞かれた岡本が「たくさんの、おめでとう、という祝辞をいただき、オリンピックでメダルを取ったような…皆さんが元気をもらった、うれしいというか、感激しているという感じ」と口にした姿が、見ていて、まぶしかった。【村上幸将】