9月2日にイタリアで開幕する世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭で最高賞・金獅子賞を争うコンペティション部門に、塚本晋也監督(66)の3年ぶりの新作「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」(9月11日公開)の出品が決まった。映画祭事務局が23日、会見で発表した。
塚本監督は、ベネチア映画祭の常連として知られ、監督作がコンペ部門に出品されるのは、09年「鉄男 THE BULLET MAN」、14年「野火」、18年「斬、」に続き4回目(全部門通じては8回目)。日本映画が同部門に出品されるのは、23年に審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した、濱口竜介監督(47)の「悪は存在しない」以来3年ぶり。
「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」は、18歳で海兵隊に志願してベトナム戦争に従軍した帰還兵アレン・ネルソンさんの自伝「『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』ベトナム帰還兵が語る『ほんとうの戦争』」(講談社文庫)が原作。ネルソンさんは、自らの体験を元に日本全国で1200回以上の講演を行い「ほんとうの戦争」を語り続け、同書では加害者の視点から、戦争の恐ろしい現実と拭いきれない精神的痛みをつづった。
塚本監督は作家・大岡昇平氏の戦争文学を映画化した「野火」を、父の遺産も注ぎ込んで自主映画として製作し、自ら主演したが、製作過程で「加害者の目線で描くことの大切さ」を痛感。18年1月に「ネルソンさん-」の原作に出会い、プロット(あらすじ)を書き始めた。18年に「斬、」でベネチア映画祭に参加した際、企画の打診を受け、企画のプレゼンと取材を続け、20年2月に木下グループにプレゼンし、映画化のGOサインを得た。その後、海外の出資も探ったが困難で、22年1月に木下グループ単独での製作となった。
企画は23年にスタートしたが、企画承認の条件が「世界中の誰でも知る俳優をキャスティングすること」だった。そこで主人公のアレン・ネルソン役には、ブロードウェーミュージカル「RENT」オリジナルメンバーのミュージカル俳優ロドニー・ヒックス(52)を起用。ネルソンに寄り添うニール・ダニエルズ医師役には、96年「シャイン」でアカデミー主演男優賞を受賞したオーストラリアの名優ジェフリー・ラッシュ(75)、戦争体験者でPTSDを患った父親を持つ黒井役には「野火」で安田を演じたリリー・フランキー(62)を起用。青年期のアレン役には、映画初出演となるマーク・マーフィーを抜てきし、ベトナム戦争による心の傷に苦しむアレンを献身的に支え続ける妻リンダ役に、米俳優・歌手のタチアナ・アリ(47)を起用。撮影は25年2月からタイ、米ニューヨーク、日本、ベトナムと世界4カ国で行った。登場人物が米国人中心で、俳優が話すセリフは、ほぼ英語になった。
脚本・撮影・編集も兼任した塚本監督は、日本兵による人肉食にも触れた「野火」、戦争で家族をなくし、焼け残った居酒屋で体を売って生きている中、戦争孤児と出会い、希望を見いだす女を趣里(35)が演じた23年「ほかげ」と近年、戦争をテーマに映画を作ってきた。「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」は、一連の戦争をテーマにした作品の、1つの到達点とも言える作品となる。