<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
芸は身を助ける-。吉本興業を担当するようになって4カ月、特に7月は、その言葉をつくづく感じることが多かった。「安心してください、はいてますよ!」でおなじみ、とにかく明るい安村(44)は7月15日、外務省にいた。パンツ一丁のスタイルが、言葉の壁を越えて海外でも人気。そんな国際的な活躍に白羽の矢が立った格好で、ガンバレルーヤのよしこ、まひるとともに「『たびレジ』サポーターズ委嘱式」に臨んでいた。
「たびレジ」は、海外旅行先でも日本語で安全情報が届く、外務省の無料メール配信サービス。広く利用を訴えたい同省から、その役割に適任と判断された。ただ、いつものパンツ一丁ではなく、上下スーツ姿でネクタイまで締めた正装。出迎えた茂木敏充外務大臣と対面するなり「安心してください、はいてますよ!」と言い、笑いを誘った。
委嘱状を受け取った後、報道陣には非公開だった懇親の場を振り返り、安村は「大臣は『裸で来られるのかなと思って、ちょっと心配してました』とおっしゃってました」と明かした。裸で外務大臣に接見という、前代未聞の事態には至らず、茂木大臣をはじめ、外務省関係者を本当に安心させていた。ホッとした安心感もあってか、安村は「一番ウケましたね。いろんなところでやりましたけど、大臣が一番笑ってました」と、かつてない手応えを口にした。秀でた一芸が、政府にも認められた格好だ。
一芸に秀でている点では、お笑いコンビ、サバンナの八木真澄(51)も突出したものがある。「ブラジルの人、聞こえますかー?」の持ちネタ、24年10月に取得したファイナンシャルプランナー1級という難関国家資格以上に、八木の身を助けているのは「営業力」。昨年1年間、全国各地で96回もこなした営業出演回数は、約6000人も在籍する吉本興業の芸人の中でも2位だという。なぜ、これほどまでに営業の仕事が舞い込むのか。
最新著書「ウケる現場のつくり方」を7月1日に発売した八木は、翌2日に都内で行った「サバンナ八木流 吉本営業マニュアル」と題し、会見も兼ねたミニ講演会で持論を展開していた。営業に力を入れるのは「46歳の時に、テレビのレギュラーが全部なくなって。その時は32年ローンを組んだばかりで、小学生の子どもが2人。『ヤバいぞ』と頭が真っ白になった」という時に、吉本興業の営業部に、地方営業の仕事を入れてもらったことへの恩返しの思いが強いという。その中で「営業の決まり方を知る」と、社会の仕組みを学んだ。
ミニ講演会では「吉本はギャラを半分、持っていかれるというけど、営業部の人が、営業をできる場をつくるためのコンペに出向いて、それで取れないことだってある。経費がかかるから仕方ない」と、社員の苦労を代弁した。例えば大型商業施設のイベントスペースで、集客を目的としたコンペで争うのは、他の芸能事務所ではない。「ライバルは北海道物産展!」。強敵に勝ってコンペを勝ち取った営業部のために、八木は「最後まで熱量高くやり切り信頼を勝ち取る」という。毎回、全力だから、次の仕事も舞い込む。
ただ全力でやるだけではない。「営業はイスの位置で9割決まる。伝わる距離感の見極め方」と、観客を巻き込んで笑いを起こすための研究に余念がない。事実、観客も入った会見兼ミニ講演会でも、特注包装のアメをプレゼントするなど、観客との距離を詰めながら、随所で笑いを取った。テレビ番組などでは「ブラジルの人、聞こえますかー?」と、地面に向かって叫んだ後、共演者がノーリアクションの“スベリ芸”のイメージがあるかもしれないが、営業での目の前の観客を満足させる能力は突出している。
もう1組、一芸に秀でていると強く感じたのが「ダンソン」「ニーブラ」でおなじみ、お笑いコンビ、バンビーノの石山タオルと藤田ユウキ(ともに41)だ。7月28~30日の3日間、東京・ルミネtheよしもとで企画ライブ「ファミリー向け特別企画ダンソンキッズ大集合!! みんなで踊れ! 真夏のジャングルアドベンチャー」を実施。入場料は大人1500円、小学生以下500円で、子どもの来場を呼びかけていたとあって、親子連れを中心に連日超満員だった。
2014年に披露したコントのイメージが強烈すぎて、ジャングルを探検しているような、その時のコントの衣装が通常スタイルと化している2人。ただ、進行役の石山が「12年も前なのに…。歴史をつむいでくれたお父さん、お母さん、ありがとうございます!」と、思わず感激の声を漏らすほど、現在の小学生以下の子どもたちが「ダンソン!」を大合唱。当然のような慣れた動きで、一緒にダンスしていた。
子ども相手のイベントはお手の物で、石山は「通路に出て一緒に踊っていいけど、周りに気を付けてね。隣の子とぶつからないように! 分かった子は、大きなお返事して!」などと呼び掛け、「は~い!」の大合唱を返される姿は、さながら保育士や小学校教諭のようだった。ライブでは、2人の持ちネタをモチーフとした「ダンソン・エクササイズ」などで体を動かし、大盛り上がり。最後まで子ども目線を忘れなかった石山は「お父さん、お母さん、ご安心ください。この子たち、今日の夜、すぐ寝ます」などと、随所で付き添いのお父さん、お母さんに向けたトークで笑いを取っていた。
いずれも定番の衣装を身に着ける「一芸」を強調したスタイル。芸人を志したころ、駆け出しのころは、この姿を想像していなかっただろう。外務大臣の前で持ちネタを披露することも、営業について熱く語ることも、親子をターゲットとしたライブをすることも、予想していない未来だっただろう。それでも、他の芸人がマネできない、1つのポジションを確立している。テレビの出演回数では、レギュラー番組を多く持つ芸人よりも少なくても、その場を盛り上げる能力に関しては、客層や対象次第では勝るとも劣らない。お笑いや芸能界とは全く違う、相撲などを取材していた、ほんの4カ月前までは知らない世界を知った。テレビやYouTubeなどの映像だけでは分からない「現場に強い」一芸に秀でた芸人の存在感を、強く感じた1カ月だった。【高田文太】