政府が推進する映画を海外に売る国家戦略に「乗る」と答えた最も勢いあるPの言葉に映画を考えた

「凡人プロデューサー 日本映画で世界をかえる!」発売記念トークイベントを開いた松橋真三プロデューサー(左)と高橋文哉(2026年8月撮影)

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

高橋文哉(24)の主演映画「ブルーロック」(瀧悠輔監督、7日公開)を製作した、製作会社クレデウスの松橋真三プロデューサー(56)が2日、都内の代官山 蔦屋書店で初の著書「凡人プロデューサー 日本映画で世界を変える!」(小学館)発売記念トークイベントを開いた。同氏は「キングダム」「ゴールデンカムイ」といった、人気漫画を実写映画&シリーズ化し、ヒットを続けている今、勢いがある映画プロデューサーの1人だ。

松橋氏を、継続して取材してきた。19年の「キングダム」第1作の公開時に発行した「キングダム新聞」のために、佐藤信介監督(55)との対談を行い、掲載した。Amazonプライムビデオ「沈黙の艦隊」シリーズでも、同氏とタッグを組む主演・プロデューサー兼任の大沢たかお(58)のインタビューを含め、松橋氏が絡む作品を取材し、企画を展開してきた。

トーク後に質疑応答の時間があったので、ぜひ聞きたいことがあった。政府が33年までにエンターテインメント・コンテンツ産業の海外売り上げを、自動車産業(24年は21兆6000億円)並の20兆円まで成長させると官民目標を掲げ、推し進める国家戦略をどう考えるか…具体的には、それに乗るか? ということだった。質疑応答の最後に、国家戦略に乗っかり大型企画を展開する気はあるか? と聞くと、松橋氏は「誰かが、やらないとできない。先陣を切ると僕は思っている」と即答した。期待通りの答えだった。

国家戦略については、6月10日付の日刊スポーツ芸能面及びウェブで、経産省の文化芸術コンテンツ・スポーツ産業の海外展開促進事業に向けた新たな補助金について、企画を掲載した。経産省は、製作費3~8億円の中規模作品へ2億円を上限に公的支援する補助金「JLOX+」に代わり、今年から支援の対象が製作費8億円以上の大型作品となる「IP360」の公募を始めた。現状の日本映画界を考えると、それだけの規模の作品は、数が限られてくる。現実的な線で言えば「キングダム」シリーズをはじめ、松橋氏が手がける海外でも人気がある漫画の実写化作品は「IP360」の対象に当てはまると考えたからだ。

松橋氏は、質疑応答前のトークで、高橋に「一緒に世界に行きたい」と語りかけていた。「日本の映画界は、過渡期にある。人口が減っていく社会になる、と考えると世界に出て行く、ということ」と、日本映画は世界を目指さなければならないと強調。「1番の近道は、役者の皆さん。役者の皆さんのパワーって、誰が考えるかというと、私のような人間が企画を考えないと。一緒になって良い物を作らないと、世界に行けない。いろいろな手段があるので、良いものさえ作れば気付いてくれるし、無理にでも担いでいかないといけない」と訴えていた。

その上で、日本をFIFAワールドカップ(W杯)優勝に導くFWを育成するため全国から集められ、サバイバルを繰り広げる300人の高校生たちを描く「ブルーロック」を引き合いに「エゴ、ストライカーが必要だよねと国民が思うのって、すごく大事なことだと思っていて」と強調。「同じようなことで、エンタメを、日本から世界に持っていこうと、国一丸で意識することが大事。国家戦略があることは素晴らしい」と言い、笑みを浮かべた。

松橋氏のように「IP360」を大歓迎する映画製作者がいれば、懸念を示す映画人もいる。6月10日付企画のインタビューの主役・是枝裕和監督(64)だ。政府は、エンタメ政策5原則として

<1>大規模・長期的・戦略的に支援する。

<2>日本で創り、世界に届ける取組を支援する。

<3>作品の中身に口を出さない。

<4>真っ直ぐ届ける。

<5>挑戦者を優先する。

を掲げているが、同監督は「(支援対象の)製作の形態に偏りがある。内容に口を出さないと言っておきながら、かなり口を出している。国策化する方向に寄りかかり過ぎると失敗する」と警鐘を鳴らした。

さらに、6月29日の「芸能番記者」に掲載した「ミニシアター閉館、若手監督は生活ままならず…その中、国が大作映画へ投資することに感じる矛盾」と題した原稿では、是枝監督が「コンテンツ産業に予算を増やすんだったら、文化庁の予算も増やしていただいて」と言及したことも紹介した。具体的な予算の使い道として、映画、関連資料の収集・保存・研究・復元等を行う日本で唯一の映画専門機関・国立映画アーカイブが「ちゃんと仕事できるようにしていく」ことや、大手シネコンチェーンとは対極にある、ミニシアターと呼ばれる単館系の映画館を「どう守るか」の2点を挙げた。

映画も産業である以上、松橋氏のように大きな企画をどんどん打ち出し、エンターテインメント・コンテンツ産業の海外売り上げを上げたい、政府の国家戦略に乗るのは1つの在り方だ。一方で、映画は文化であり、是枝監督のように文化としての映画を守る、という考え方も重要だ。松橋氏にしても、漫画の実写映画化を多く手がけている一方で、吉田修一氏(57)の文芸作品を、李相日監督(52)が実写化した25年「国宝」もプロデュースした。作品は素晴らしく、興行成績も、邦画実写初の興行収入200億円を突破と、産業と文化、双方で結果を出していると言えるだろう。

映画記者として、作品規模の大小を問わず、報じなければならない、伝えたい映画を中心に取材している。その立場から見ると「IP360」で大規模作品を支援する=国策化する方向になってきていると主張する、是枝監督と近い考えを持っている。規模が小さくても、質の良い作品は少なからずあるし、そうした映画製作者に一定以上の資金を出せば、規模含め、それまでにない作品を作るケースも知っている。大作ばかり支援したら、映画の多様性は果たして守られるのだろうか? そうした疑問を持ちつつ、今後も注視し、取材していきたい。【村上幸将】