20年間試合に出ずにプロサッカー選手を続けた男の話 W杯年に公開される「カルロス・カイザー」

映画の1場面。右がカルロス・カイザー(C)2017 NODS AND VOLLEYS PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

5年前のTBS系「ワールド極限ミステリー」など、日本の情報番組でも何度か取り上げられているので、ブラジルの元プロサッカー選手、カルロス・カイザー(63)のことをご存じの方もいるだろう。

約20年にわたってブラジル、フランスなどのプロサッカークラブを渡り歩いているので、経歴だけを見ればなかなかのツワモノだ。だが、元ブラジル代表レナト・ガウショは「サッカーをしなかったもっとも偉大なサッカー選手」と独特の言い回しで彼を評する。英国のドキュメンタリー監督、ルイス・マイルズがそんな異色の存在に迫った「カルロス・カイザー サッカー史上最も奇妙な成功者」が14日に公開される。W杯の余韻が残る中、その半生は信じられないほどユニークだ。

映画は当時を知る関係者や本人のインタビュー、記録映像に加え、再現VTRを交えて人物像を浮かび上がらせる。

インタビューに応じたジーコは「彼はプロサッカーの面汚し」と突き放す。ありていに言えば経歴詐称や詐病を繰り返した「詐欺師」なのだ。が、引退から13年を経た2011年に本人が告白するまで、そのジーコを含め彼のウソに気づきながらも誰ひとり告発しようとはしなかった。映画はそんなカイザーの不思議な魅力に迫っている。

リオデジャネイロの4大ビッグクラブであるボタフォゴやフラメンゴのユースでサッカーを始めたカイザーは、16歳の時にメキシコのプエブラとプロ契約を結ぶが、すでに能力の限界を自覚し「筋肉の痛み」を訴えて短期間で退団する。

アスリートにとっては第二の人生を模索する厳しい時期となるはずだが、話術巧みな彼は、サッカー選手が出入りする夜のクラブで当時のブラジル代表ガウショと知り合い、しだいにトップ選手の間に人脈を広げていく。体形が自分に似た選手のゴールシーンを収めたVTRを利用して、有名選手に紹介してもらったプロサッカークラブとの短期契約を結んでは、ケガを理由に試合に出ないままの移籍を繰り返したのだ。

再現VTRでは、彼が練習中に故意に他の選手とぶつかり、転倒して脚の痛みを訴えるシーンや、マフィアがオーナーのクラブで試合に出ざるを得なくなったエピソードが紹介される。この時はさすがにピッチに立たざるを得なくなるのだが、その寸前に客席のヤジに「過剰反応」してスタンドに飛び込み、乱闘騒ぎの末に退場処分を受けて出場を回避する。丘サーファーのように格好だけは「トッププロ」としてクラブを渡り歩く処世術に思わず笑ってしまう。

ペレ、ジーコ、ロナウドなどスター選手だけが出演するブラジルのトーク番組「ジョ・ソアレス・ショー」にも出演を果たし、名物司会者を下ネタで笑わせた実際の映像も紹介される。

カイザーの本名はカルロス・エンヒキ・ラポーゾ。幼い頃にフランツ・ベッケンバウアーに似ていたことからその愛称(カイザー=皇帝)をそのままいただいたそうだが、周囲から文字通り皇帝とあがめられたベッケンバウアーと違い、自ら名乗ってしまうところが彼らしい。

そんなカイザーは、インタビューでも全盛期の女性関係などを自慢げに語っている。が、マイルズ監督がそれだけで許すはずもなく、後半は偽りの人生の「原点」に迫っていく。すべてを明かす終盤の独白は妙に感動的だ。

当時はなかったMRIによって今なら彼の詐病は簡単にバレるだろうし、記録映像がネットにあふれる時代に彼が移籍の武器にした遠景のVTRは役に立たないだろう。

おおらかな時代、そしてある意味ブラジル・サッカー界の懐の深さも改めて感じさせられる作品だ。【相原斎】