吉永小百合(81)が、浅田次郎氏(74)の22年の小説を実写化した「母の待つ里」(前田哲監督、27年秋公開)に主演することが27日、分かった。1959年(昭34)に「朝を呼ぶ口笛」で映画デビュー以来125本目の作品で、同氏原作作品への出演は初めて。脚本は米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」で知られる小山薫堂氏(62)が手がける。吉永は「浅田先生原作の映画に初めて出演させて頂くことになり、うれしくて舞い上がっています」と語った。
「母の待つ里」は、孤独な大企業の社長・松永徹。定年と同時に妻から離婚された室田精一、親をみとった医師・古賀夏生が人生に疲れ、ふるさとへ里帰りし〈母〉の、ちよと過ごす。故郷を持たない3人は、故郷提供サービス「ユナイテッド・ホームタウン・サービス」を利用し、設定された架空の故郷と実家を訪ねており、ちよが本当は誰かを知らないが、いろり端に並ぶ手料理や昔話を交わす中で、少しずつ変わっていく。東京出身の浅田氏から見た地方の豊かさ、幸福を現代社会の問題を織り交ぜ、描いた作品で、映画は吉永が演じる、ちよの目線で描かれる。
原作の出版直後に、製作のセディックインターナショナルの中沢敏明、厨子健介の両氏が映画化のオプション権を押さえ、企画が始動。20年「老後の資金がありません!」と24年「九十歳。何がめでたい」を手がけた、前田哲監督(53)に白羽の矢を立て企画・脚本を開発し、吉永にオファーした。吉永は、25年の前作「てっぺんの向こうにあなたがいる」(阪本順治監督)の準備中で「原作を読み、ちよさんに憧れましたが、スケジュール的に無理なのでお断りしました」と1度は断った。それでも「プロデューサーの中沢さんが『待つ』と言ってくださったのです。うれしかったです」と製作陣の熱意に心が動いた。「前作の終了後、改めて台本を読み、出演を決めました」と出演を決断した。
浅田氏は「思い起こせば高倉健さんに『鉄道員』の佐藤乙松を演じていただいてから、四半世紀あまりの歳月が流れました。そして今、吉永小百合さんに『母の待つ里』のちよを演じていただくのは、昭和の時代に生まれ育ったひとりの小説家として望外の幸せを感じます」と吉永の主演を喜んだ。その上で「私たちは人間らしい自然な営みを忘れて、便利さと快楽の追求でしかない不自然の中で生きています。ちよさんはそんな私たちにとって、虚も実もない、あらたかな自然そのものです」と自作のポイントを語った。
吉永は、脚本について「日本の伝統的な生活やさまざまな生き方が描かれていて、とても感動しました。この脚本の中にはいろいろな要素があって、ファンタジーでもありますし、ミステリーというものも感じましたし、それが最後に向かって、どういう形に映画としてでき上がるのだろう? というような、演じる者にとって、ワクワクするようなものがあります」と評した。その上で「ご覧になる方も、どういう映画なのかな? と引き付けられて見てくださるのではないかしらと思っています」と期待した。
吉永は劇中で、ちよが口にする東北弁のセリフにも挑戦した。撮影は、浅田氏が取材し、舞台として描いた岩手県の、遠野を中心に5月にスタートし、春夏編は7月でクランクアップ。今後は秋、冬の期間も撮影し27年1月に撮了予定だ。吉永は「大変です」と口にしつつも、高倉健さんと初共演した80年の「動乱」のように、往時の日本映画で行われていた、1年近くをかけて春夏秋冬を時間をかけ、丁寧に映画を作る今回の撮影に「9カ月かけて撮影をやりるんですけども体力をつけて頑張らなければ」と意欲を見せた。
前田監督とは、初タッグとなる。「前田監督の若々しいエネルギーをしっかり受け止め、『心の母』をひたむきに演じたいと、祈る様な思いです。5月にクランク・インして、これから秋編、厳しい寒さの中での冬編の撮影に入って行きますが、スタッフ、キャストの皆さまと共に、来年秋の公開に向けて力を尽くします」と意気込んだ。
前田監督、企画・プロデュースの岡田有正プロデューサーのコメント全文は、以下の通り。
前田哲監督 今回映画作りをご一緒してつくづく感じたことは、吉永小百合さんは心の中にいつも他者へのギフトを持ってられる方であるということです。
それは、映画『母の待つ里』の主人公ちよが、悲しみも苦しみも寂しさも包むように全てを受け入れて、命ある限り懸命に「母」として生きていく姿そのものであります。
損得もなく見返りも求めず、切実な思いに駆られて行動する姿そのものが希望であり、暗闇にさす光だと思っています。
浅田次郎先生の原作にあるスピリットをしっかりと引き継ぎつつ、多くの方達にギフトを届けることができるよう丁寧に制作しております。
映画の完成までしばしお待ちください。
岡田有正プロデューサー 圧倒的な美しさと気品で時代を彩り、日本映画界の光であり続ける吉永小百合さんを主演にお迎えし、浅田次郎先生の「母の待つ里」を映画化できることを大変光栄に思います。
不寛容さと孤独感が漂う現代において、本作は傷ついた人々に寄り添う母を通じて描かれる「誰もが思い当たる節のある現代の物語」です。
どれほど時代が変化しようとも、決して失われてはならない人と人とのつながり、移ろいゆく日本の美しい四季や自然とともに、かけがえのない暮らしを時間をかけて丁寧に描き出し、映画館のスクリーンを通じて、「こころのふるさと」を世界の皆様へお届けいたします。
「母の待つ里」は、東宝が配給する。吉永が東宝配給作品に出演するのは、映画出演100本記念特別企画作品であり、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した88年「つる-鶴」(市川崑監督)以来、38年ぶりとなる。
○…小山氏は、吉永と親交が深い二宮和也(43)が活動した嵐の楽曲「ふるさと」を作詞した経緯もあり「『ふるさと』への思いをクリエーティブの根幹にしてきた田舎者の自分が、『ふるさとを持たない人たちの心を描く』…これは1つの大きな挑戦でした」と率直な思いを語った。「しかも原作は、敬愛する浅田次郎先生。そして主演はまさかの吉永小百合さん! この作品はいわば、都会の暮らしに疲れた大人たちを癒やす現代のおとぎ話ですが、この夢のような座組での映画に携わること自体が、自分にとってのいちばんのおとぎ話」と感慨を口にした。