劇団新派の女優水谷八重子さんが87歳で亡くなって1週間ほどたった9月上旬、ともに新派を率いてきた波乃久里子が都内で、朗読劇に出演した。演劇ユニット「新派の子」の特別企画「Salon De Marron ~木挽町番外編~」に出演した。
波乃に、八重子さんへの思いを聞ければという気持ちで赴いた。
公演の2日前に八重子さんの葬儀が終わり、波乃は「先逝っちゃって、お骨の前で怒りました」と言いつつ「やっぱり好きです。きょうだい(のよう)ですね」としみじみと話してくれた。
2日間の公演は完売、満席だったため、公開通し稽古を見せてもらったのだが、すばらしかった。新派で何度も上演されている名作「十三夜」「風流深川唄」の2演目。新派は芝居巧者がそろっており、演目は情緒にあふれ、しみじみとくるものが多い。
波乃が出演したのは「風流深川唄」。老舗の料亭を舞台に、恋物語、義理人情を描いたもの。波乃は料亭を切り盛りする娘を演じ、板前との恋がどうなるのか、人手に渡りそうな店はどうなるのか、本当にハラハラとしながら見た。波乃が演じる娘は、ちゃきちゃきとしながらも純情で一途でいじらしい。娘らしいかわいらしさと、店を回しているプライドとが共存してとても気持ちのいい役だった。
見る人が情景を想像できるかどうかに委ねている部分もある朗読劇。2演目とも、ありありと登場人物たちが生きる風景が浮かんできた。
新派は、本当にいい芝居が多いし、それを見せる力を持っている。波乃は「新派は残してほしい」と話していたが、記者も大きくうなずいた。
今回は、篠井英介ら新派以外の俳優も参加する公演だったが、それも良かった。波乃は「八重子姉ちゃまは『新派、新派って言うけど、ジャンルはないのよ。演劇は1つよ』と言っていたんですが、本当にジャンルはないと思いました。当たってた」と、八重子さんをしのびながら、手応えを語った。
新派をもっと見たいと思ったし、見てほしいと思った公演となった。【小林千穂】