<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
歌舞伎俳優尾上松緑(51)中村時蔵(38)が24日、「錦秋十月大歌舞伎」(2~20日、東京・歌舞伎座)第3部「義経千本桜 渡海屋・大物浦」について合同取材を都内で行った。
平家の武将平知盛を描いた人気場面で、松緑は14年ぶりに渡海屋銀平実は新中納言知盛を、時蔵も配信を除くと11年ぶりに女房お柳実は典侍(すけ)の局をつとめる。
役や演目についていろいろ聞かせてもらった後、それぞれの息子が歌舞伎で活躍していることについて聞いた。
松緑の長男尾上辰之助(20)は、26年5月に3代目として辰之助を襲名し、立ち役、女形を兼ねる役者として活躍中だ。松緑は「思い返せば、私が知盛を初役でやった(15年前の)時の安徳帝がうちの息子だった。片言で『知盛さらば』って言っていた人が、歌舞伎座で大きな役をさせていただけるようになり、まあ何でしょうね。親はなくても子は育ちます」と感慨を語った。
さらに「彼はこれからの役者人生を歩んでいっているので、今、それほど何か口うるさくものを言うことはありません。これからは彼は彼で考えて、彼の力で歌舞伎の大地を踏みしめていくんでしょうから、なるべく余計なことは言わないようにもしております」とも話した。
辰之助が、祖父である初代辰之助、つまり松緑の父に大きなあこがれを抱いていることに触れ「あこがれるのはもちろん大事なことだと思いますし、初代辰之助はそれだけ偉大な役者だと思いますが、幻影にとりつかれすぎてしまうと、ここからの数年、十数年、数十年というものが取り返しのつかないことになってしまう可能性がある。現代っ子ですから、加減は分かっていると思いますが、あこがれを持ちながらも違う人間であるということ、初代辰之助には誰もなれない、3代目辰之助は彼なんだから彼の辰之助像を作っていってほしいというふうに思っております」。
自身の経験を重ねながら辰之助へ向けた言葉だった。
時蔵は、長男中村梅枝(10)について「彼が今後、歌舞伎役者になると仮定して」とした上で「時々せりふがたくさんある役がついたりする年齢。周りには褒めてくれる人しかいないので、どんどん鼻高々になっていくような時が来るかもしれません。そでも、誰かが鼻っ柱をへし折ってくれると思います。その時、鼻っ柱をへし折られたのが分かるような人間でいてほしいなとは思います」と話した。「役者としてというよりも、人間としてきっちり育ってほしい」とも語った。
2人の言葉は、舞台に立つ者同士として、親として、それぞれが温かく、厳しく、印象に残った。【小林千穂】