渡辺大の激白 舞台「下谷万年町物語」で父渡辺謙が演じた役に初挑戦

舞台「下谷万年町物語」で父渡辺謙が演じた役に初挑戦。稽古場でインタビューに応じた渡辺大(撮影・川田和博)

俳優の渡辺大(42)が11月1~10日、東京・都立明治公園内特設“紅テント”で公演する舞台「下谷万年町物語」で主演する。

同作は唐十郎さん作、蜷川幸雄さん演出による戯曲で、81年の初演では父渡辺謙(67)が研究生ながら主演に抜てきされ、舞台デビューを飾った作品。父が演じた役を初めて息子として演じることになる。このほど、日刊スポーツの取材に応じ、その心境を語った。

同公演は大鶴義丹(58)が父・唐十郎さんの代表作を演出・出演する「令和状況劇場」の旗揚げ公演として開催。昭和23年の戦後直後、東京・上野の片隅に実在した男娼街「下谷万年町」を舞台に、混沌(こんとん)の中でたくましく生きる人々の夢と狂騒を、美しくも過激なセリフと幻想的な世界観で描き出している。大は主人公の洋一、大鶴が洋一と逃げ回る少年文ちゃん、男装の麗人キティ・瓢田を凰稀かなめ(44)が演じる。

オファーを受けた際を「なんか不思議な気持ちでしたね」と振り返った。中村梅雀(70)が、父・梅之助さんが演じた時代劇「伝七捕物帳」の主人公“黒門町の伝七”をBS時代劇でリメイクした際に共演。同様の状況を目にしている。今回は自身が演じることとなり、「親がやってきたものを次の世代が紡ぐというのは、歌舞伎の世界ではあるとは思いますが、なかなか多くはない」とすると、「『なるほど。こういうことか』と思いながらやっています」。

インタビュー時は稽古の大詰めを迎えた時期。それでも、唐作品は「難しい。難解です」とした。関係者から「唐さんは推敲(すいこう)したことがないと聞いていて、多分降りてくるって感じなんでしょうね。それで言うと、もう“演劇の神事”みたいなものと捉えている」。その上で、「今回、令和でやるからには、僕たちなりの解釈をして、初めて来られる方もいらっしゃると思うので、『何がなんだか全く分からなかった』にしたくはない。ちゃんと義丹さんなり、僕なり、凰稀さんなりが、かみ砕いたもので発表したい」と胸を張った。

父が演じた洋一を、自身を通して解釈し、令和の時代に届ける。「おやじが21歳ぐらいにやっていて、僕はもう今42歳。全然立場も違うし、そこに至るまでの筋も違う。そういうのも含めた上で、楽しんでいただければ」とし、「逆にこれを見てから、過去はどうだったのだろうと振り返ってもらえるとありがたい」。

若い頃は“渡辺謙の息子”と言われることに抵抗があった。「昔はちょっとやゆして言われることもあったので」とすると、「『おやじさんだったらこんなことしない』みたいなことをいう人もいたので、そういう芝居の修正のされ方が嫌だった」。

さまざまな経験を積み、42歳となった今は「あまり気にしないし、良い意味で使えるものは使えば良いし、良いものを残していけるならと思っている」とした。「おやじが作ったものはいっぱいあって。でも、終わっていくものもある。それを掘り起こしたいという気持ちもある」と続けると、「それこそ『御家人斬九郎』シリーズとか」と具体例を挙げ、「時代劇は逆にやりたいと思っていて。良いものをただ変な理由だけで見ないというのも嫌。もちろんそれを自分流にリブートして、残していけたらという気持ちもある」。

演劇関係者やファンには父の初演を見ている者もいる。「もちろん、今そういう人の目もあるし、新しい人が入ってきた時の異物を受け入れるという両方があると思う。この2つを同時に納得させるというのは、ちょっとドキドキします」。

81年に父が演じた際の映像は残っていない。12年に東京・渋谷のシアターコクーンリニューアル記念として再演された藤原竜也(44)主演時は映像が残っている。同映像は実際に見ているが、「今回は規模が全く違うので…」。現代の舞台は、主にエンターテインメントとしての商業演劇が盛んだ。そんな中で今回は“紅テント”公演となる。「見ることはあってもやることがなかったので。演じる側とみる側で、どこまでお互いを許容し合えるかという勝負もある」とし、「劇場がなかった時代の創意工夫の塊みたいなものですから。台本の中にも“無手勝流”というのがあって、まさに、がむしゃらにやるしかない」。また、「アングラの底知れぬパワーや芝居に魅力を感じている人たちも増えているし、それをやりたがる俳優も多いと感じているので、本当にいいタイミングじゃないかな」。

同公演は大鶴にとっても初の試みとなる。「義丹さんは役者でもあるので、役者が困っているところを分かってくれている。演出家と俳優と2つの顔を持っていらっしゃるのは非常にありがたい」。

また、凰稀とは舞台「罠」、「TARKIE~伝説の女たち~」で共演。そして27年公開予定の映画「水色に染めろ!~川崎の街をスポーツで一つにした男~」でも共演する。直前まで同作の撮影だったが、「ある意味助かった。ちょっと複雑なスケジュールの中で、お互いの人間性も分かった上で入れたからこそ、このスケジュールで行けた」とし、「お芝居に関しては全く委ねられるのが助かっています」。

唐作品を演じることで“気付き”もあったという。「お客さんが分からないまま迫力に圧倒されることがあっても、演じる側が迷っていてはダメ」とすると、「だから、どういう解釈で、何をしゃべっているのかをとにかく聞いて回った。そうしていくと、『これってそういうことを言っているんだ』と後で気づく。これは今までに経験したことなかったですね」。

同公演を「なかなかない機会。多分、そんなに簡単に毎年やれるとは思っていない」とし、「だからこそ役者さんは魂を削ってお届けすると思う。その熱量を本当に間近に見られるので、記憶に残る作品になると思う」とした。その上で、「多分違和感だらけ。公園にテント張ってですから。この泥臭さというか、令和のこの世に解き放つエネルギーを感じに来てほしいですね」と呼びかけた。

【川田和博】