10月7日に東京・シネスイッチ銀座で公開された、深川栄洋監督(50)の新作映画「あなたの息子ひき出します!」製作・配給のスタンダードフィルム合同会社は28日、27年春からミニシアターと呼ばれる全国の単館の映画館とイオンシネマを巡回する「Movie ワゴン」プロジェクトを始動すると発表した。
その先駆けとして、11月27日からイオンシネマ板橋、新百合ケ丘での上映が決定した。
「あなたの息子ひき出します!」は、深川監督が約10年かけて企画、取材して作り上げた。同監督の妻で主演の宮澤美保(52)は、都会から離れた平穏な街に幼い息子・颯太(小野光南翔)と2人で暮らす小林典子を演じた。典子は社会から孤立している、ひきこもりを支援する活動を展開し、つながりを必要としているさまざまな葛藤を抱えた人々と一心に向き合う。そんな典子の元には、他に行くあてのない人や相談が集まってくる。25年9月2日に90歳で亡くなった吉行和子さんが、同2月に撮影に参加し、最後に演技をした作品でもあり、吉行さんは大森南朋(54)が演じたひきこもりの息子・三浦雅彦を持つ数子と、同じ読みの名前の役どころを演じた。
テーマとして引きこもり、犯罪者更生、小児性愛者を3つの柱として描き、商業映画を製作、公開するというチャレンジングな企画だったが、撮影1カ月前に出資者が降りてしまった。そのため、宮澤がプロデューサーも兼務し、夫妻が製作費、配給、宣伝費も含め、3500万円の予算を自分でまかない、自主映画として作り上げた。
深川監督は「撮影1カ月前に、全額出資すると言った出資者がいなくなった。キャストも決まっていた段階で、自分たちでお金を出そうと借金して映画を初めて作りました。自主映画になってしまったんですけど」と、当時を振り返った。そして「自主映画でないと、こういう題材の映画は作れないという日本の現状もあるんだなと思いながら、途中で止めたくなかった」とも語った。
1955年(昭30)9月に開業も、建物の老朽化等を理由に25日に閉館し、71年の歴史に幕を下ろしたシネスイッチ銀座1館で公開されると、SNSを中心に「絶対に見るべき映画」「今年、1番の衝撃作」といった感想が広がった。そうした観客の口コミが作品の認知を押し広げ、上映初週には映画の余韻を持ち帰ろうとパンフレットを求める観客が相次ぎ、上映開始から1週間で増刷が行われた。同館閉館までの3週間の動員は3100人超を記録し、累計動員4000人を突破した。
連日、終映後のロビーでは深川監督と宮澤が観客と言葉を交わす光景が見られ、作品を観た感想や思いを直接伝え合う時間が生まれていた。そうした劇場での出会いや、上映後も続く観客との交流を通じ、スタンダードフィルム合同会社は「映画は見て終わるものではなく、観客が感じたことを言葉にし、誰かと共有することで、その体験がさらに広がっていくという可能性」を見出した。この熱気を1つの劇場にとどめず、全国各地の観客へと届けていきたい。そして、映画を見た人が自ら考え、作り手と語り合う機会を各地につくりたい。そんな思いが劇場関係者にも届き「Movie ワゴン」プロジェクトが始動することとなった。
具体的には、作品を届けるだけでなく、監督・キャストが全国の劇場へ自ら足を運び、対話・熱狂を生み出す「体験型・全国巡回ロードショー」を展開する。インディーズバンドがワゴン車で全国を巡業するように、深川監督、キャスト、スタッフが自ら全国の劇場(イオンシネマおよび各地のミニシアター)を巡り、単なる舞台あいさつにとどまらない、新たな映画体験の創出を目指す。
スタンダードフィルム合同会社は「本作が大切にしているのは、映画を観客に見てもらうことだけではありません。作品を見た人が何かを感じ、考え、自分の言葉にしていく。そのきっかけをつくることも、映画が持つ大切な可能性だと考えています」と企画意図を説明。「そのため、各地の劇場で上映を行うだけでなく、上映後には監督・キャスト・スタッフが観客と直接言葉を交わす機会を可能な限り作ってまいります。作り手との出会いが、作品や社会について誰かと語りたくなるきっかけになるそんなひとつひとつの機会を積み重ねながら、全国各地に映画の熱気を届けること、それがこのプロジェクトの挑戦です」とした。
巡回劇場、実施日程、参加者、具体的なイベント内容については、決定次第、順次発表していく。
◆「あなたの息子ひき出します!」 ある時、いつものように依頼を受けた典子が任されたのは、長い間ひきこもったままの三浦雅彦(大森南朋)だった。初めは一切の関係を拒んでいた雅彦も、典子の地道な働きかけにより徐々に周囲と言葉を交わし始める。このまま順調に外の世界へとつなげることができるはずだった。しかし、彼には決して引き出したくない過去があった。