<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
10月22日から配信中のNetflixシリーズ「俺のこと、なんか言ってた?」に主演の、役所広司(70)を取材した。世界から忘れ去られてしまった大俳優・高瀬川玄が、エキストラから頂点を目指す作品で、ホームレスやバイト先のサウナの熱波師、時代劇俳優など“七変化”とも言える、多彩な姿を演じた、作品に関するインタビューは、配信前の同18日付紙面に掲載され、ウェブにも配信された。取材では、作品のみならず、日本におけるドラマ、映画といった映像作品の今後についてまで、話が及んだ。
役所は、23年7月期にTBS系で放送され、現在、第2シーズンが放送中の日曜劇場「VIVANT」(日曜午後10時)ではノゴーン・ベキを演じ、話題を呼んでいる。ただ「『VIVANT』は地上波でやっていますけど、ほとんど地上波のドラマをやっていない。長いこと、映画しかやっていなかったですからね」と語るように、映画に軸足を置いて活動を続けてきた。17年10月期に放送された同系日曜劇場「陸王」が、02年のフジテレビ系「盤嶽の一生」以来約15年ぶりの連続ドラマでの主演だった。
19年には「いだてん~東京オリムピック噺~」で、94年「花の乱」以来、25年ぶり6度目のNHK大河ドラマへの出演を果たした。同作で脚本を手がけた宮藤官九郎(56)の作品は、以前から見ており「繊細なところと、ぶっ飛んだところがある、面白い作家だと…ファンだった。楽しみだった」と、待望の巡り合わせとなった。打ち上げの場で、宮藤から「また、ぜひ一緒にやりましょう」と声をかけられ、再タッグを待ち焦がれていたものの、なかなか話が来ず「社交辞令かな?」と思っていたところ、磯山晶プロデューサー(59)からオファーが来たのが「俺のこと、なんか言ってた?」だった。
役所は、23年のNetflixシリーズ「THE DAYS」に主演し、配信ドラマにも進出していた。同作は、福島第一原発事故を題材に、門田隆将氏の著作「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」を原案に、入念なリサーチに基づき、3つの異なる視点から事故を克明にとらえた作品。フジテレビ系ドラマ「救命病棟24時」「コードブルー」「白い巨塔」などを手がけ、同社を退社した増本淳プロデューサー(50)が手がけた。
同年7月に日本外国特派員協会で開かれた会見の席上で、役所は「まず、地上波のドラマでは、内容的に企画は100%、通らないと思います。(ドラマの)内容を伝えるのには、配信が一番、自分たちが思ったものを表現できるんじゃないかと思う」と断言。「プロデューサーの増本さんは、フジテレビという立派な会社にいらっしゃったんだけど、そこを退職して、第1作目で地上波では出来ないドラマを作ったんだと思う。地上波では出来ない物語を、配信サービスが出来て、僕たちの表現の場は広がったと思います」と歓迎した。
「俺のこと、なんか言ってた?」も、24年にTBSを退社した磯山プロデューサーが企画。自身がプロデュースした00年の同系「池袋ウエストゲートパーク」、02年「木更津キャッツアイ」、05年「タイガー&ドラゴン」、24年「不適切にもほどがある!」などに脚本として起用した“盟友”宮藤と、TBSの金子文紀氏を演出に迎えて、作り上げた。役所は、磯山氏とは初タッグだった。
取材中、役所に「THE DAYS」のような社会派の大型作品と比較し、「俺のこと、なんか言ってた?」は英ロンドンのグローブ座で撮影するなど、大きな規模感で制作したとはいえ、コメディーであり、ホームドラマでもあると指摘した。その上で「地上波で放送して欲しい類のドラマでは?」と投げかけた。
すると「予算的な問題は大きいし、企画の自由さは、ありますよね。やっぱり、地上波のように(テレビをつければ自然に)お茶の間に飛び込むものではないので。(配信は、見たい作品を)視聴者が自分で選んでくれる世界だから、かなり地上波ではできない物語、表現ができる。出演する俳優としては魅力的ですね」と、改めて配信作品における表現の自由度の高さを、表現者として歓迎した。
ただ、地上波のドラマも近年、放送されれば即、配信される時代だ。公共放送であるNHKのドラマまで、6月からNetflixで順次、配信されている。「VIVANT」では、TBSでの放送と並行し、U-NEXTで本編のみならず、スピンオフ作を配信している。そうした点も踏まえ、今後、ドラマは、どのような方向に行くか? と尋ねると「地上波のドラマも、少し変わってくるんじゃないですかね」と口にした。
さらに、映像、配信における日本の製作環境は、どうなっていったら良いか? と尋ねると「映画もドラマも、やっぱり多様なものが出てきて欲しいですよね」と語った。「やっぱり、ヒットしてくるものというのは、どうしても、そういう方向に、ずっと行ってしまう。もちろん、ビジネスだから、興行的にも視聴率的にも良い物はあるべきだし。でも、その影で、ずっとコンスタントに毛色の違うものを作る土壌が欲しいなと思いますね」と続けた。
その流れで具体的に挙げた作品こそ、自身が23年5月にカンヌ映画祭(フランス)男優賞を受賞し、作品も米アカデミー賞国際長編映画賞(旧外国語映画賞)にノミネートされた同年の主演映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)だった。
同作は、22年5月に東京で開かれた会見で製作が発表され、カンヌ映画祭監督賞を受賞した87年「ベルリン・天使の詩」で知られる、ヴィム・ヴェンダース監督(81)がドイツから来日。役所も主演俳優として登壇した。同監督は東京・渋谷区で20年から行われる、世界的に活躍する16人の建築家やクリエーターが個性を発揮して、同区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に、映像作品を制作すると説明。11年ぶりに来日してシナリオハンティングなどを行い、自ら脚本も担当した。撮影も全て東京で行い、役所は渋谷でトイレの清掃員として働く平山を演じた。
企画発案、出資、製作、プロデュースを手がけた有限会社MASTER MINDを率いたのは、ファーストリテイリングの柳井康治取締役・グループ上席執行役員だった。製作のきっかけとなった「THE TOKYO TOILET」も、同氏が個人で企画、出資までして行ったプロジェクトだ。共同脚本・企画・プロデュースを務めた高崎卓馬氏(56)も、JR東日本「行くぜ、東北」などを手がけたクリエーティブディレクターで、小説家の顔も持ち、ドラマの脚本も多数、手がけてきたが、CMの制作が本業だ。
映画業界の人間ではない2人が企画・製作した「PERFECT DAYS」は、23年12月22日にヴェンダース監督ゆかりの東京・TOHOシネマズシャンテなどで公開され、24年12月26日まで1年以上、ロングラン上映を続けた。ただ、22年5月の会見では、シナリオは構築中で、役所がトイレの清掃員を演じること以外、決まっていないとされた。後に役所の口から、当初は短編映画を想定した企画だったことも明かされた。
それらのことを踏まえ、役所は「『PERFECT DAYS』のように、映画館にかかるか、どうか、分からないようなものを経験したので。そういう作品でも、うまくいけば、世界に日本という国を発信できるようなものが、できるんだなというのを、すごく理解できましたね」と、かみしめるように口にした。
そして「もちろん、商業的で素晴らしいものは、たくさんあるんですけど、そうじゃなくて、小さくてもいいから、長く、日本全国の、どこかのミニシアターで上映してもらえるような作品に出会いたいな、と思いますね」と望んだ。その一方で「そもそも、ミニシアターが、どんどん減る一方なんですよね」と、20年のコロナ禍以降、苦境が続く、日本全国のミニシアターをおもんぱかった。
「ちょうど、フランスから友人が来ていて、話したんですけど『ミニシアターは国も観客も大事にしている。自分の町の小さな劇場で年間、何本も見る』と言うんです。日本みたいに、援助しないと成り立たないものでは、ないみたいです。何が違うんだろう? と、つくづく思いますね」と首をかしげた。
当初、取材は撮影込みで30分の予定だったが、取材だけで40分を超えてしまった。それでも、役所との話は尽きることがなく、さらに、その先へと広がりそうだったところを、ストップした面が多分にある。今後、また機会があれば、役所と、さらに深く語り、その内容を発信し続けていきたい。役所の言葉には、日本の映画、ドラマ、映像の世界の、この先の未来に関わる、あらゆるものがつまっていると感じるからだ。【村上幸将】