佐野史郎「『VIVANT』福澤監督は『ずっと-』セカンドAD」小泉八雲朗読のしらべ/連載3

小泉八雲朗読の調べ「思ひ出の記~セツが語ったヘルンの怪談~」に出演する佐野史郎はまっすぐな目でカメラを見つめる(撮影・増田悦実)

俳優佐野史郎(71)が、ロックバンドBOW WOW/VOW WOWのギタリスト山本恭司(70)とのユニットで2007年(平19)から続ける朗読公演「小泉八雲朗読のしらべ『思ひ出の記~セツが語ったヘルンの怪談~』」が11月16日に東京・有楽町のアイマショウで行われる。島根・松江出身の佐野と山本が、松江を愛した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と妻セツの物語を中心に、怪談と音楽を融合させたステージを届ける。佐野に聞いた。3回連載の最終回。【小谷野俊哉】

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1975年(昭50)に劇団「シェークスピア・シアター」に創設メンバーとし参加。演劇の世界に踏み込んだ。

「シェークスピア劇に取りつかれて、面白いと思って熱中したんです。でも、子供の頃から怪獣映画やドラキュラ、フランケンシュタインなども好きでした。シェークスピア作品には幽霊などが登場することも、興味を引かれました。他の人はアカデミックな演劇として捉えていたかもしれないけれど、僕は最初から特撮のつもりで見ていました。舞台の役者になりたいというより、バンドをやっていて幻想的な世界を表現したいという気持ちがあった。そこは今も変わっていないんじゃないでしょうか」

ドラマ、映画の仕事でも、現実の中にある不思議さや幻想性を感じさせる作品に心が躍る。出演者として、制作者との共同作業者としての期待も大きい。

「ドラマをやっていても、そういう題材に出合うとワクワクします。普通のホームドラマやラブストーリーであっても、そこに人が存在しているということ自体が、ある意味では奇跡なんですから。そういう捉え方は、ずっと変わらないですね。フジテレビの『世にも奇妙な物語』には10本以上出ました。TBSの『ずっとあなたが好きだった』の冬彦さんとかも、そうですね。プロデューサーの貴島(誠一郎)さんとの相性は良かったですね。ああいうものはやっぱアイデアがどんどん湧いててくる」

1992年(平4)にTBS「ずっとあなたが好きだった」でマザコン男の冬彦さんを演じて大ブームを起こした。その頃からの“ドラマのTBS”の土壌は今も生きていると言う。

「(『ウルトラマン』の)実相寺昭雄監督とか、どっちかっていうとリベラルなサイコ的な思想の監督も多かったですけど。攻めてましたよね。そういう土壌、伝統が時代に即した形で、いろんな形で表れている。『VIVANT』の福澤(克雄)監督は『ずっと-』のセカンドのADでしたからね。BS-TBSの伊佐野(英樹)社長は『ダブル・キッチン』(93年)の演出のサードでした。今は昔の作品でも、配信で見られる。そういう意味では、作り手にチャンスは増えています。でも映画でも舞台でも、生存競争は厳しい」

21年(令3)、66歳の時に多発性骨髄腫を患った。現在は体調良好だが、大病を経験したことで、生きることへの思いが変化した。

「完治する病気ではないので、この先どうなるか分からない。もちろん不安がないわけではありませんが、今のところ体調はずっといいです。正直、いつまで生きるんだろうと思うこともあります。実際に死の淵に立って、死ぬかもしれないと思ったけど、それを乗り越えると何でもない。でも、一度そういう経験をしたことは、いい経験だったと思います。長く生きたいという欲は、やっぱり出てきます。それは、やりたいことがあるから。歴史やものの考え方を通して、人間が存在することの意味を見つめ直したい」

現代は生産性や効率、目に見える価値が重視される。文学や哲学は、時には軽視される。

「自分の正当性や権利を主張するために、うそをついたり、都合の悪いことを隠したりする。政治だけではなく、世界中でそういうことが起きています。本当は、人間が特別な存在で素晴らしいものだと思いたい。でも、その辺にいる他の生き物と同じように、ただ存在している。そういうことを考える哲学や文学が排除されてしまう。なぜなら、生産性がないし、自分の正当性や権利を無に帰してしまうから」

芸能や文学は、人間が存在する喜びを伝えてくれる。

「本当の幸せをみんなで共有するためには、ただただ、何の意味もなくここに存在していることの喜びを共にすることだと僕は思います。そのために芸能がある。文学もそうです。大事なことだと思います。そういうことを、僕ら芸能に携わる人間は伝えなければいけない。ただ説明していてもしょうがない。聞く耳を持たない人にも、作品を見たり、何かを感じたりしてもらう。説明はできないけれど、分かってもらえる。そういうことが浸透するといいですね」

エンターテインメントは、人生や社会を考えるきっかけになることもある。

「エンターテインメントと哲学、エンターテインメントと文学。そのバランスが大事なんだと思います。どちらかに極端に行き過ぎてもいけない。芸能の仕事は、そういうものを伝えることが大切なんじゃないでしょうか」

小泉八雲が愛した松江。その文化や空気が、佐野史郎の表現活動につながっている。

「生産性だけではない、楽しみのようなものがある。お茶の文化もそうですし、なかなか言葉にできないものがある。目に見えない力が働いているのかもしれません」(おわり)

◆佐野史郎(さの・しろう)1955年(昭30)3月4日、島根県松江市出身。山梨で生まれ、東京を経て、6歳の時に松江へ。74年、シェークスピア・シアター創設に参加。80年、状況劇場へ。86年、林海象監督の「夢見るように眠りたい」で映画初出演で主演。92年、TBS「ずっとあなたが好きだった」。93年にTBS「誰にも言えない」、NHKのドキュメント「ウルトラマンを作った男」、映画「ゲンセンカン主人」主演。07年から「小泉八雲・朗読のしらべ」。18年、フジテレビ系「限界団地」で連続ドラマ初主演。175センチ。血液型B。

佐野史郎「クリムゾンやピンク・フロイドが好きだった」「小泉八雲 朗読のしらべ」/連載2