ノーベル化学賞吉野氏「リチウムイオン電池の父」

会見場で祝福される中、花束を抱え満面の笑顔を見せるノーベル化学賞受賞を決めた旭化成名誉フェローの吉野彰氏(撮影・河田真司)

スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、19年ノーベル化学賞を旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)ら3氏に授与すると発表した。スマートフォンなどに広く使われるリチウムイオン電池を開発。現在の情報化社会を支える成果として高く評価された。日本人のノーベル賞受賞は27人目となる。

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吉野氏は受賞決定後、都内の旭化成本社で会見を行い、「いろいろな分野で若い人たちが研究している。大きな励みになると思う」と笑顔を見せた。日本人のノーベル賞受賞は昨年、医学生理学賞に選ばれた本庶佑京都大特別教授(77)に続く快挙。化学賞は10年の鈴木章北海道大名誉教授(89)と根岸英一米パデュー大名誉特別教授(84)以来で8人目となる。

携帯電話やパソコンに使用される「リチウムイオン電池」の開発者の1人。今年6月に欧州特許庁主催の「欧州発明家賞」(非欧州部門)を受賞。同特許庁から「リチウムイオン電池の父」と呼ばれるなど、世界的にも知られる存在で、近年は毎年、ノーベル賞候補に挙げられてきた。吉野氏は「先ほど、電話で家内に電話いたしました。時間が取れないから『決まったぞ』とだけ伝えました。腰を抜かすほど驚いていました」と明かした。

共同受賞は、米テキサス大オースティン校のジョン・グッドイナフ教授(97)ら。グッドイナフ氏はノーベル各賞を通じ、最高齢受賞となる。ストックホルムの王立科学アカデミーは、吉野氏らが開発したリチウムイオン電池について「1991年の実用化以来、私たちの生活に革命をもたらし、人類に偉大な貢献をした」とたたえた。

リチウムイオン電池は何度も充電して使える2次電池。正極と負極の間をリチウムイオンが移動して充電や放電する。吉野氏は80年代、炭素材料の負極とコバルト酸リチウムの正極を組み合わせ、基本的な構成を確立した。

リチウムイオン電池は90年代に商品化され、小型軽量で高性能のためスマホやノートパソコンなどモバイル機器の普及に貢献した。旅客機やハイブリッド車に使われるほか、再生可能エネルギーの拡大にも役立ち、地球温暖化の切り札として再び脚光を浴びている。

授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金900万クローナ(約9700万円)が贈られる。日本出身のノーベル賞受賞者は、長崎市生まれの英国人作家カズオ・イシグロ氏を含めると28人となる。(共同)