千葉県松戸市のベトナム国籍の小学3年生レェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9)が殺害された事件でわいせつ目的略取・誘拐、強制わいせつ致死、殺人、死体遺棄の罪に問われた渋谷恭正被告(47)の裁判員裁判第8回公判が14日、千葉地裁(野原俊郎裁判長)で開かれ、被告人質問が行われた。

 警察の捏造による冤罪(えんざい)として無罪を主張している渋谷被告は、遺族の目の前で「子どもから目を離さないのは親の義務」「守れるなら守ってあげてほしかった」などと話した。

 被害者参加人として公判を見続けているリンさんの父レェ・アイン・ハオさん(35)の代理人弁護士の佐川明生氏が「あなたの娘が性暴行を受け殺害されたら犯人を許せるか」と質問。渋谷被告は「許すことはできませんけども」と一言触れた上で「その前に私は(登校時)子どもに付いて行っている。子どもから目を離さないようにしている。それは親の義務だ」と主張した。

 さらに見守り活動について「やる人とやらない人がいるのは不公平だと思いませんか」と佐川氏に逆質問。殺害されたリンさんへの心情を問われ「すごくかわいそうだなと思うけど、自分が犯人ではないので、それしか答えられない」とし、遺族への言葉を問われると「お悔やみを申し上げる程度のことしかできないですね」と話した。

 午前中の弁護側の被告人質問では、いずれも事件当日に、見守り活動に来なかった理由を被告が「母親の介護」と話していたと証言した当時の校長や、松戸東署で行われた少年補導活動の研修会の欠席理由を被告が「不幸ができて」と話していたとする補導員男性らの証言について「話していない」と淡々とした口調で次々と否定。渋谷被告の軽自動車で検出された血痕からリンさんと同型のDNA型が検出されたことについては「なぜそれが付いたか分かりません」と供述した。

 弁護側質問の最後に自由意見を求められると、突然声をうわずらせ、「私が犯人と思われている中で私が行った募金を受け取ってもらい、ありがとうございました。忙しくて仏前にお参りに行けずすみません。見守りしてた時に守ることができなくてすみませんでした」と謝罪。顔は傍聴席からは見えなかったが、眼鏡を外して涙をぬぐうようなしぐさを見せた。

 ただ、午後の検察側の質問には早口で持論を展開した。保護者会長としてリンさんを探そうと思わなかったか問われ「思わなかったというより、何でいなくなったか分からず、最後の最後にめんどくさい事件が起きたのかなと思いました」などと供述。当時の学校長は前日の公判で、リンさんの行方が分からなくなった事件当日午後1時ごろから複数回にわたって渋谷被告に電話したが、夕方までつながらなかったと証言したが、渋谷被告は捜索に加わらなかったのは「やってほしいという依頼がなかったからやりませんでした」と話した。

 遺族の質問を代弁した佐川弁護士の質問に「子どもから目を離さないのは親の義務」としたやりとりには、裁判長も「一番悪いのは犯人では。それを親に向かって糾弾するような言い方はどうか」と質問。しかし、渋谷被告は質問にかぶせるように「そうですけど、糾弾したわけではないが、自分のことは自分で守るのが持論だ」とさらに主張を続けた。

 裁判長も重ねて「持論は結構だが、子どもを殺害された親がいた時、どう考えるか考えないのか」と聞いたが、渋谷被告は「守れるなら守ってあげてほしかった。(リンさんの)お父さんは時間があったのに1人で行かせた」などと述べた。