千葉県松戸市のベトナム国籍の小学3年生レェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9)が殺害された事件でわいせつ目的略取・誘拐、強制わいせつ致死、殺人、死体遺棄の罪に問われた渋谷恭正被告(47)の裁判員裁判の判決公判が6日、千葉地裁(野原俊郎裁判長)で開かれ、無期懲役(求刑死刑)の判決が言い渡された。犯人かどうかが争点だったが、判決は渋谷被告が「犯人と認められる」と認定。一方で、死刑と無期懲役を検討したが、検察側が主張した計画性について「場当たり的」などとし、死刑がやむを得ないとまでは認められないとした。父レェ・アイン・ハオさん(35)は即日、控訴の意向を検察側に伝えた。

 「被告人を無期懲役に処す-」。裁判長の判決言い渡しを、渋谷被告は身じろぎせずに聴き入った。被害者参加制度を利用して検察側席に入った父ハオさんは首を振るような仕草で納得できない様子だった。

 渋谷被告は、ズボンはこれまでの公判でよくはいていた迷彩柄のズボン。しかし、シャツは毎回羽織っていた黒いジャージではなく、初めて白い半そでシャツを着て出廷。服装には変化があったが、これまでの無罪主張をくつがえすような発言はなく、名前を確認され「えっと、渋谷恭正です」とだけ淡々と話した。裁判長は、主文を先に言い渡し、判決文を読み上げた。渋谷被告は黙って聞いていた。

 被告が犯人なのか、犯人でないのかが問われた裁判員裁判。渋谷被告は、DNA鑑定などの証拠について、警察など捜査機関による捏造(ねつぞう)だとして無罪を主張していた。しかし、判決理由で裁判長は、被告や弁護側が主張したDNA鑑定に汚染や故意の混入があったとの弁護側の主張は「抽象的で具体的な可能性がない」とし「認められない」と退けた。一方、遺体の腹部から検出された付着物のDNA型が被告とリンさんのものであるなどとした検察側の立証を支持。「証拠能力は極めて高い」と延べた。

 また、無罪を主張する被告が事件当日の昨年3月24日、登校時の見守り活動に行かなかったことを「都合が悪くなった」とし、補導員の説明会に行かなかったのを「具合が悪かった」、捜索に加わらず「釣りの下見に行った」とした主張について、「信用できない」と退ける一方、事件当日に被告と会話したとする証人たちが渋谷被告から聞いたと証言した「母の介護で行けなかった」「不幸ができまして」といった発言が実際にあったと認定。被告の証言について「DNA鑑定の結果とも、被告の証言は矛盾し、全体として信用できない」と退けた。

 犯人性について、裁判長は「被告人の指紋、足跡がなくても、被告が本件の犯人と認められる」と結論づけた。

 被害者1人の殺人事件で死刑が求刑された事件。量刑の判断にも注目が集まった裁判だった。裁判長は量刑について、裁判長は「両親の峻烈(しゅんれつ)な処罰感情も親として当然」とした上で、リンさんのランドセルや衣服などを分散して投棄し、ドライブレコーダーの記録も消去するなど、罪状隠滅も行っていると指摘。さらに、公判中、「親の責任だ、などと、無神経にも親を傷つける発言までしており、反省は皆無だ」とも指摘した。

 裁判長は、これらの事情を加味して、有期懲役ではなく、死刑判決または無期懲役判決を検討したと説明。ただ、究極の刑罰である死刑を選択するには、同様の事件の量刑との「公平性に配慮する必要がある」とも説明した。これについては「殺害状況が特異かつ冷酷か」また「強い計画性があったか」を検討したと明かした。

 この2点について、裁判長は「わいせつ行為の発覚を免れるための殺害は他の事件でもある」、計画性については、遺棄場所を探して車で走り回るなど「むしろ場当たり的」「意を決して計画していたとまでは言えない」と指摘。この2点について、「検察側の立証が十分立証ではない」とし、死刑を言い渡すのに「真にやむを得ないとまでは認められない」と、無期懲役判決を選択した理由を説明した。