横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)の引退に、故郷茨城県牛久市の支援者もショックを受けた。稀勢の里も行きつけで、休場中も客に食事券を還元してきた中華料理店「甲子亭」は、感謝の意を込めた「横綱夢をありがとうコース」を作る考えを明かした。母校の龍ケ崎市立長山中の関係者も、12年に校内に設置した「稀勢の里資料室」を引退後も存続する考えを示した。

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引退の一報を聞き、甲子亭の池辺昭子店長は「残念というか寂しいというか…ひと言では難しい。車の中で涙が出てきちゃった」と吐露した。甲子亭は稀勢の里が付け人を連れ訪れたり、大関時代には後援会総会も開くほど縁が深かった。

甲子亭をはじめ牛久市内の飲食店や商店(現在は27店舗)は、稀勢の里が幕内、小結だった08年に池辺勝幸前市長の「あいつは強くなる。何か応援できないか」との提案を受け、観光協会のもとで「稀勢の里応援団」を結成。本場所ごとに勝ち星予想を行い、当選者に抽選で商品などをプレゼントする共通企画に加え、本場所に勝った翌日の買い物でのポイント加算や食券の配布など、各店舗独自の応援企画を行ってきた。

応援団を始めた当初は、稀勢の里の知名度が低く反響は薄かった。そうした中、応援し続けた裏には、食事中にファンから声をかけられても気さくに応じ、市内のイベントの際も市民に笑顔で握手するなど優しい人柄があった。

11年3月に東日本大震災が発生し、牛久市も震度5強で大きな被害を受けた。その中、市民の心の支えは、1月場所で白鵬を押し出しで破り連勝を23で止めた稀勢の里の相撲だった。応援団に加盟する菓子店「かっぱ本舗」の村松慎次店長は「震災で明るいニュースがない中、優勝争いが、どれだけ明るい話題になったか。感謝しかない」と繰り返した。

稀勢の里の活躍で、牛久市に全国からファンが訪れ応援団の各店舗も客足が伸びた。甲子亭では稀勢の里が愛したエビチリ(1900円)にファンが舌鼓を打った。甘辛い中にもスッとした酸味が利いたチリソースが絡んだえびの食感はプリプリで話題を呼んだ。さらに予約のみの「横綱応援コース」も提供してきた。

横綱昇進後は、多忙や故障もあり牛久市を訪れる機会は減ったが、応援団の心は1つだった。稀勢の里が度重なる故障を押しては本場所に出場し、休場を重ね、引退に追い込まれた姿に「いくら休んでもいいじゃない…全部休んでも(万全で)やって欲しかった」という声が多かったという。

池辺店長は「次は『横綱ご結婚おめでとうコース』だと思っていた。でも、相撲に集中したいから結婚は、もう少し先と聞いていた。だったら『横綱夢をありがとうコース』を作りたい。エビチリは入れます」と誓った。 【村上幸将】