安倍晋三首相は6日、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、7日にも緊急事態宣言を発令する準備に入った。

政府内はこれまで発令へ調整を進めつつも、国民生活や日本経済への影響を重視。慎重な立場を崩さなかったが、政府が煮え切らない間に都市部で感染が急増。東京の小池百合子知事や、日本医師会の「医療危機的状況宣言」など、“外圧”の危機感に追い込まれた。1カ月という期間も延びる可能性があり、首相が指摘した「長期戦」は現実のものになりそうだ。

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「人と人の接触を極力減らすためにこれまで以上の協力をいただき、医療態勢を整える。そのための宣言だ」。安倍首相は6日夕、政府の対策本部会議に先立ち、報道陣の前で緊急事態宣言を出すと、初めて明言した。関係者によると、7日夜の首相会見を経て8日午前0時発効の見通しで、準備が進んでいるという。

緊急事態宣言は、国民の私権の制限を伴う。首相はこれまで「必要な状況と判断すれば、ちゅうちょなく行う」としながらも、発令には慎重な姿勢を崩さなかった。最大の懸案が経済のさらなる冷え込みだ。「国のお墨付き」(野党関係者)によるさまざまな自粛は、「強制ではない」と政府が訴えても国民生活に大きな影響を及ぼす。加えて、それを支える経済活動への打撃も不可避だ。安倍1強政権運営のエンジンだった好調な経済は、すでに後退しているが、自粛ムードがさらに強まれば日本経済への影響ははかりしれない。

首相は3日の参院本会議でも「ギリギリ持ちこたえている」と答弁していたが、これにかみついたのは感染拡大が急速に進む都市部の首長。感染者数が全国最多で、この日も83人の感染が確認された東京の小池知事は、危機管理が身上の元防衛相。首相に早期の発令を再三迫り、吉村洋文大阪府知事らも同様だった。

現場の態勢が逼迫(ひっぱく)する医療界の危機感も相当だ。日本医師会の横倉義武会長は1日、緊急事態宣言を待たずに「医療危機的状況」を宣言。その後、東京で連日、100人を超える感染が確認された。政府関係者は「東京の感染者数の悪化が、大きかったのではないか」と話した。発令を前提に、60兆円規模の緊急経済対策や医療態勢支援をまとめ、何とか準備を整えた格好の首相。しかし、首相が周囲の声に押されるうちに、国民の間にも相当危機感が広がった。国のトップとして先手を打った宣言とは言い難く、追い込まれた感は否めない。

首相は先月の会見で、新型コロナウイルスとの闘いを「長期戦を覚悟してほしい」と表現した。緊急事態宣言のめどとされた1カ月は大型連休最終日と重なるが、収束しているかは見通せない。医療従事者の間では「1カ月で済むのか」との声も上がり、首相はさらに検討を迫られる可能性もある。【中山知子】