京アニ被害25人新たに公表 摘まれた…若い芽

京都市伏見区の「京都アニメーション第1スタジオ」で起きた放火殺人事件で、京都府警は27日、亡くなった同社社員35人のうち、これまで身元が公表されていなかった男女25人の実名を新たに発表した。今月2日に10人の身元は公表されていたが、遺族の心情や会社側の意向を配慮し、7月18日の事件発生から1カ月以上を経て、犠牲者全員の身元の公表を終える異例の対応となった。この日公表された25人のうち、20~30代が20人と若手アニメーターが8割を占めており、ファンや関係者らは悲しみを新たにした。

新たに身元が発表されたのは21~49歳の男女25人(男性8人、女性17人)で、人気作品「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」の総作画監督で京アニ取締役の寺脇晶子さん(44)らが含まれる。身元公表がこの時期になった理由について、京都府警の西山亮二捜査1課長は「大変凄惨(せいさん)な事件で、ご遺族が死を受け入れるまでに時間がかかっていると認識した。最後の葬儀を終え、今日の公表になった」と説明した。

府警によると、25人のうち、20人の遺族が実名公表を拒否し、匿名を希望したという。それでも公表に踏み切った理由について、西山課長は「事件の重大性に加え、社会的関心が非常に高く公益性があるため、公表した方がいいと判断した」と述べた。

また匿名にした場合、臆測の情報が流れ、誤った氏名や経歴が広がり犠牲者や遺族の名誉が傷つけられる他、報道機関の取材対象が広範囲に及ぶなどの懸念があるとしている。

未来ある多くの若い人材が、無残に夢と命を絶たれた。アニメ業界では即戦力の人材を重視する傾向にある中、京アニでは若手育成に力を入れていた。前回公表された10人を含む計35人の犠牲者(男性14人、女性21人)のうち、20~30代の若い社員が27人で、8割近くを占める。2日に身元が明らかになった大村勇貴さん(23)、笠間結花さん(22)は3月に、大学を卒業したばかりの新入社員。この日新たに名前が公表された25人の中にも、最年少の大野萌さん(21)や森崎志保さん(27)ら、20代が14人いた。

18年の業界団体による調査では、アニメーターの平均年齢は全国で39・26歳。一方、今年3月の京アニの従業員数は165人で平均年齢は33・6歳と若手人材が活躍する会社だった。4月3日付の京アニのスタッフブログには「この春も、いろいろな個性を持った新人スタッフが入社した」「みんな健康で幸せな人生を歩んでいってほしい」と、新しい仲間たちへのメッセージが投稿されていた。

◆京都アニメーション放火殺人事件 7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオから出火。中にいた社員70人のうち男性14人、女性21人の計35人が死亡、34人が重軽傷を負った。1人は無事だった。京都府警は青葉真司容疑者(41)の身柄を確保。ガソリンをまいて放火したとして殺人や現住建造物等放火などの疑いで逮捕状を取った。重いやけどで入院しており、回復を待って逮捕する方針。青葉容疑者は、さいたま市に自宅アパートがあり、事件3日前に京都入りして周辺を下見していた。警察庁によると、殺人事件の犠牲者数としては平成以降で最悪。

※日刊スポーツでは今回の事件について、遺族の方々のお気持ちを鑑み、匿名を希望される方の実名は伏せて報じています。