シダレザクラ、卒業式中止も親子2人で記念撮影

満開となった六義園のシダレザクラ(撮影・加藤諒)

<それでも、桜は咲く~東京・六義園~>

日本の地に脈々と息づいてきた、桜。新型コロナウイルスが世界中に暗い影を落としている今だからこそ、あらためて桜の美しさ、力強さ、人との関わりを感じてみたい。「それでも、桜は咲く」と題した写真連載を今日からスタートします。お花見気分でお楽しみください。【桜プロジェクト取材班】

枝から零(こぼ)れんばかりの花が柳のように揺れる六義園のシダレザクラ。美しい庭園の景観で知られ、春になると大勢の花見客が列をなす都心のオアシスだ。しかし、都内屈指の桜の名所も新型コロナウイルスの影響をもろに受けた。

来園者は平年に比べて10分の1程度。例年行っていた夜桜のライトアップも中止となった。ライトを設置し、来園者を迎える準備を整えたにもかかわらず、苦渋の決断を迫られた。さらに、感染拡大を防ぐため28日から4月12日まで臨時休園することとなった。

来園者も新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)された。はかま姿で同園を訪れたのは大学4年の池田遥香さん(22)。大学付属の私立中学に入学して10年間通った学校で迎える節目の卒業式が中止になった。「仕方がないのは分かっています。ただ、親に申し訳ない」。

3人きょうだいの末っ子で、小学3年の時に母が他界した。父子家庭で育ち、高校生の時には父雅紀さん(60)に冷たく接した時期もあった。

3月初旬の段階では卒業式に代わり、学位授与式が行われるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、学校から式典の中止が伝えられた。友人とは、2月のクラスで会って、いつも通り「バイバイ!」と別れたのが最後。卒業を共に迎えるはずだった友達と再会する機会さえ奪われ、「何もかも、なくなってしまった気分だった」。

卒業式で着るはずだったはかまは、大学の生協を通じて予約していた。しかし、構内への立ち入りが禁じられ、予約もキャンセルとなった。「ぬるっと卒業して、ぬるっと入社する。メリハリがなくなっちゃった」。はかまを着ることさえ諦めかけ、離れて暮らす父に「どうします?」とLINEをした。

父は言った。「はかまを着た姿を見たい」。

そんなことを言うタイプではなかったから、驚いた。そして気づいた。「私の卒業式は、父にとっても子育てが終わる節目だったんだ」。

男手ひとつで育て上げてくれた父に、ハレの姿を見せたい。遥香さんは3月中旬でわずかな在庫しかないレンタル業者10社以上に当たった。気に入った柄でもサイズが合わなかったり、予約ボタンを押そうとした瞬間、予約が埋まったり。「時間との闘いでした」。六義園近くで着付けをしてくれる美容室の予約も取り付け、当日を迎えた。

園を訪れた20日、東京の空は快晴。園からシダレザクラの開花宣言も発表された。顔を合わせるのも年に数回の父。久しぶりに再会して花束を渡した時も「今渡されても」とつれないそぶりだった。

サークルの仲間と六義園で合流し、父と2人で記念写真を撮ってもらった。帰り際、父がぽつりとつぶやいた。「いい友達ができたね」。遥香さんの笑顔が春風に揺れた。【加藤諒】

<撮影データ>3月20日午後0時6分撮影 ソニー「α9」 20ミリ ISO感度100 シャッタースピード1000分の1 絞り2・8(撮影・加藤諒)