首相会見は中途半端、志村さん示した危機/鎌田實氏

医師で作家の鎌田實さん(2020年3月13日撮影)

<鎌田實氏の目>

ザ・ドリフターズのメンバーでタレントの志村けんさんが29日午後11時10分、新型コロナウイルスによる肺炎のため亡くなった。

志村さんの訃報を受け、医師で作家の鎌田實さん(71)が、身近に迫った命の危険について警鐘を鳴らした。東京都結核予防会理事長の桜山豊夫さんも今できる感染防止について緊急提言した。

   ◇   ◇   ◇

感染症という病気は、誰が悪いわけでもなく、人の生き方をこうも無慈悲にへし折ってしまうものなのでしょうか。志村さんの訃報はとても悲しく、人間の無力さを感じます。同時に今を生きる私たちみんなが志村さんと同じような病気と関わる可能性があることを示したと思います。

だからこそ気をつけないといけません。若い人たちは「オレは大丈夫だ」と思うかもしれません。ただ、このまま社会がコロナウイルスの感染拡大に負けてしまうと、若い人の将来も危うい。近く就職氷河期に向かったり、生きる糧としての働き場が失われてしまう可能性もあります。

若い人が明け方までどんちゃん騒ぎをしているのを報道で見聞きすると胸が痛みます。休校中の子どもたちが遊んでいるのを近所のおじいさんが怒鳴ったという話を聞きましたが、感染拡大を防ぐためには、大人が子どもに丁寧に教えることが大事だと思います。休校要請により、子どもたちは学ぶ場所も自由に遊ぶ時間も奪われてしまいました。大人も子どももずっと閉じこもっていろということ自体が難しいことなのかもしれません。

かといって、世代間で批判の応酬を続けてばかりでは解決しません。もう1度、大人の側からしっかりとしたメッセージを送ることが大事です。安倍さんの3度の会見は残念ながら中途半端なものでした。英国のジョンソン首相、ドイツのメルケル氏は、命を守るための措置として国民にしっかり話しかけていました。安倍さんのメッセージは若者の心に届いているでしょうか。自宅にこれからいてもらう。緊急事態宣言を行うときに若者にどう納得してもらうかがカギです。若者はいったん大人のメッセージに理解を示してくれると大きな力になります。若者の行動で、自分の人生、社会がどういう方向に動くのか分かりやすくメッセージを出す必要があります。

既に知らない間に抗体ができている若者がいる可能性もあります。実際にどのぐらいの市民が感染しているのか、医師の判断を重視して今より少しでも多くの人がPCR検査と抗体の有無を調べる血液検査をモデル地区で実施することが急務です。そうすると、的確な政策や方針が出しやすくなります。こうした疫学的な調査をすることで、抗体がある人とない人の違いが分かります。

直近の課題として大事なのは、陽性反応が出た人を安全に隔離をすること、指定病院以外の場所を確保することです。治療が終わって検査結果待ちの人の隔離場所も考えないといけません。イタリアの精神科医がこんなことを言っています。「自宅待機は閉じこもりではなく、社会に対する友愛の表明である」。陽性になった人を差別するのではなく、社会秩序を守るため、隔離生活になったことをしっかり評価する世の中にならないといけません。今はくさい物にふたをしているような傾向が見られますが、陽性になったら居心地のいいところに隔離するという環境作りが大事です。今動いていないクルーズ船やオリンピック選手村、使われていない病棟なども利用すべきでしょう。そういう状況を作っていくのが政治家の仕事です。

野党も与党ももっと建設的な議論をしてほしいです。○か×かの問題ではない。お金の問題で言うと、医療関係者はもうアップアップです。医師や看護師は、時には身を投げ出して患者と向き合うもの。政府は自分の人気取りのためにお金を市中にばらまくことを考えているようですが、今は医療現場の人材が倒れないよう、病院関係者をしっかり守ることが大事です。医療、福祉の現場を崩壊させない。もう既に大変なことが起こり始めていますが、人の命、持続可能な社会を守るため、若者も高齢者も、政治家も一体となって日本を守っていかなければなりません。(医師、作家)