大谷で再び脚光 二刀流って何?/ニュースの教科書

打って投げて二刀流の大谷翔平

日刊スポーツの野球記事には、「二刀流」という見出しや言葉をよく見かけます。先ごろも米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手(25)が「二刀流開幕へ、マウンド投球開始」や、「元祖二刀流」のプロ野球OBが亡くなったことを報じています。二刀流をめぐる「何?」「いつから?」「どこで?」「誰が?」「なぜ?」「どのように?」に迫ります。【玉置肇】

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<どのように?>

新型コロナウイルスの影響で開幕が心待ちにされる日米のプロ野球。大リーグでは二刀流に取り組むエンゼルス大谷の動向が注目されますが、どうすれば二刀流の選手になれるのでしょう? プロ野球巨人の元エースで、打撃も得意(9年間で13本塁打)だった野球評論家の江川卓(すぐる)氏(64)に大谷の才能を分析してもらいました。

江川氏 「二刀流には2種類あると思う。『投手対打者』の能力比率が『6対4』の選手と『4対6』の選手で、大谷君は後者でしょう。投手力のほうに目が行きがちですが、彼は打者のほうの比重が高い二刀流です」

少年野球のころから「エースで4番」の二刀流予備軍は大勢います。でも、そのうち両方の技術を高めることが難しくなって、だいたいの選手は投手か打者かの選択を迫られます。

江川氏 「高校野球レベルなら『5対5』でも両立できるけど、プロは『5対5』では二刀流を継続出来ない。どちらかの能力を6割に伸ばし、さらにキープしなければならない。『1割増やすなら簡単では?』と言われそうですが、プロは投打ともに練習の質・量が数段上がり、力の配分を保つのが難しい。どちらかの能力を6割にするには、どちらかを1割減らして他方に上積みするから2割増やす努力をしなければならないのです。二刀流を続ける大変さは、そこにあるわけです」

<何?>

そもそも、二刀流って何でしょう? 辞書の「大辞林 第4版」(三省堂刊)には、こうありました。

にとうりゅう【二刀流】<1>剣術で左右の手に1本ずつの刀を握って戦う刀法。宮本武蔵の二天一流(にてんいちりゅう)が有名<2>酒も飲むし、甘い物も食べること<3>野球で投手と野手と両方で出場すること。

最後の<3>は以前は載っていませんでしたが、大谷の活躍で「『投手と野手』という新たな意味での使用例が増えたことから採録しました」(大辞林編集部)。元々の意味は、剣豪宮本武蔵の刀法に由来しています。左右2本の刀を野球の「投手」と「打者」にたとえた言葉が二刀流です。

<いつから?>

大リーグが1876年に誕生すると、1910年代に登場したベーブ・ルースのように、投手でも打者でも有能な選手がどんどん試合に出場するようになりました。ルースは18年のレッドソックス時代、投手で13勝7敗、打者で11本塁打。これは現在もメジャー唯一の「10勝&10本塁打」の記録です。ちなみに英語で二刀流は「Two Way Player(ツーウエープレーヤー)」です。

<誰が?>

日本ではプロ野球草創期に、多くの二刀流を輩出しました。まず1940年代の野口二郎(元阪急)。投打でシーズンのフル出場を示す「規定投球回数」と「規定打席」の両方を満たした年が、6度ありました。50年代には、先だって亡くなった関根潤三(元近鉄)が、投手、野手の両方でオールスターに出場しました。

<なぜ?>

プロ入りと同時に多くの選手は「投手か野手か」を選択します。なぜなら、プロ球団はチームの補強ポイントに照らして、専門的に優れた能力の持ち主を求めるからです。世界のホームランキング王貞治(79)は早実時代センバツ甲子園の優勝投手でしたが、巨人入りと同時に打者転向。2018年中日に入団した根尾昂(あきら、20=大阪桐蔭)も野手一本に。PL学園時代に投打で甲子園を沸かした桑田真澄(52)は巨人入団とともに投手を選びました。再度、江川氏に登場願いました。

江川氏 「先ほどの『投手対打者』の比重でいえば、プロに進むほどの選手は『7対3』や『2対8』と高い能力の持ち主。そのレベルでならどちらか専任で戦力になれる」

また、子どもたちに野球を教える「NPO(非営利組織)法人 日本少年野球研究所」の佐藤洋氏(57=元巨人)は、子どもの二刀流の「芽」の伸ばし方について「小さいときはポジションを1つに固定せず好きなように練習させることができれば、結果として二刀流を可能にする選手に育つことはある」と話しています。

<どこで?>

大谷のケースを見ると、その素質が開花したのは、岩手・花巻東高時代でした。当初から打撃に非凡さを見せていましたが、投球でも3年夏の県大会で高校生史上最速の「160キロ」をマーク。当時進路を聞かれると、高校通算56本塁打の打者より「世界一の投手」を目標に、いったんは大リーグ行きを希望しました。そこへドラフト1位指名した日本ハムから、二刀流として育てることを提案され気持ちが揺らぎます。「1度投手をあきらめてしまうと、2度と後戻りできないから」と日本ハムでの二刀流着手を表明。調整の難しさを克服して実績を積み、大リーグでチャレンジを続ける今に至ります。

大谷にとって、右肘靱帯(じんたい)の再建手術や左膝手術からの復帰をかけた大事なシーズン。2年ぶりの二刀流に思いをはせると、今から心が高鳴り、ワクワクしています。

◆玉置肇(たまき・はじむ) 83年入社以来20年以上、主にプロ野球の取材にかかわる。その経験を買われ? 当欄では野球のほかスポーツ関連の記事、用語などについて説明します。近年は夏の高校野球各地区大会の取材に飛び回る。狙うは、原稿を書きカメラもできる記者の「二刀流」。