子どもの心つかむ東北ヒーロー、ライブ開催強く願う

ユニオンフォームの破牙神ライザー龍(NPO法人HERO提供) 

東北発のヒーローが子どもたちの心をつかんでいる。ご当地キャラクターの「破牙神(ばきしん)ライザー龍」(以下、龍)が笑顔と勇気を届けている。2011年の東日本大震災を機に「リュウプロジェクト」が発足。仙台市を拠点に活動するNPO法人HEROが制作を手がけたオリジナルヒーローだ。

毎年、被災3県(宮城、福島、岩手)の幼稚園、保育園等を中心に、200回以上の訪問を行っている。16年からは、病気やケガで髪の毛を失った全国の子どもたちにオリジナルウィッグを届ける「ヘアドネーションプロジェクト」も始めた。発足メンバーで代表理事の佐藤真実さん(28)にスタートの経緯や現在の活動などを聞いた。【取材・構成=佐藤究】

   ◇   ◇   ◇

子どもたちの心を熱くさせるヒーロー誕生のきっかけは9年前。震災後に避難所の保護者から、立ち上げメンバーが勤めていた制作会社にかかった1本の電話だった。「こどもの日に、避難所の子どもたちのために、テレビヒーローに無償で来てもらいたい。みんなヒーローに会いたがっている」。切実な頼みを伝えられたメンバーは、実現に向けて全力を尽くすも、さまざまな事情でかなえることはできなかった。佐藤さんは「それなら、自分たちで自由に動かせるヒーローを作って、被災地の子どもたちに会いに行こう」と同プロジェクトに踏み切った。

大きな壁は資金面だった。目標資金を集めるため協賛企業を募ったが、「当初の見積もりは980万円。現実的に考えて無理だと思っていたら業者の協力もあり、500万円で作ることができました」。ショーに必要な最低限のキャラクター数と、安価な素材でクリアできた。それでも、クオリティーにはこだわっている。「テレビヒーローを待っていた子どもたちのためにも、テレビヒーローに劣らないことが必要だった」と、有名キャラクターとも遜色はない。龍は震災から7カ月後の同10月、一般公開のショーでデビューした。

瞬く間に龍の存在は広まった。避難所や幼稚園、保育園への無償訪問の依頼が予想以上に増え、龍は駆けめぐった。「当時、保育園が津波で流されて、近所の工場の会議室で保育をしていたところもあった。満足に遊ぶこともできなかったときに、龍とゲームをしながら、触れ合うことはすごくマッチした。子どもたちや、先生方からも感謝の手紙をたくさんいただきました」と振り返った。被災した子どもたちにとって、名実ともに心の支えとなるヒーローになった。

現在は交通安全教室や防犯教室など、訪問先の先生からの要望も聞きながら交流を続けている。訪問後に「先生方から『子どもたちが散歩に行く時に、龍に教えてもらって左手を挙げるようになりました』って聞いたりすると、やってて良かったなと思います」。龍の存在は、子どもたちの成長のきっかけにもなっている。

13年には新たな試みとして、津波被災地での無償ライブ開催に動いた。きっかけは、宮城・気仙沼市の避難所に住む保護者との会話だった。「子どもがテレビヒーローの仙台開催ツアーをテレビの宣伝で見て、行きたがっている。連れて行きたいが、仮設住宅暮らしでは経済的にも厳しい」と嘆声を漏らした。実情を聞いて、被災地の子どもたちの思いに応えることになった。

ただ、またしても資金面の問題が直面した。1回のライブ開催費用が約350万円。「被災者の方にお金を払ってもらって開催しても意味がない」と、スポンサーの協力が不可欠だった。メンバーの奮闘もあって14年2月、スポンサー獲得のめどが立ち、同7月に宮城・石巻市でスーパーライブが実現した。1608人の子どもたちと家族を無料招待。ライブ中には龍がピンチになると、観客席から「がんばれ!! がんばれ!!」と応援する声がやまず、会場全体に一体感が生まれた。ライブは大盛況で幕を閉じた。

それでも、抽選で漏れた子どももいたため、16年と18年のスーパーライブは1公演増やし、2日間で5公演を行った。ヒーローを演じるアクターたちは日々、ライブに向けて体作りに励む。50代のアクターは「毎日1時間以上は自転車をこいでいる。ウエートトレーニングも欠かさない。体形を維持しないとヒーロースーツのチャックに締め付けられて、体力的にもたなくなりますよ(笑い)」と話した。子どもたちが熱狂するライブの裏側には、大人の努力の積み重ねがあった。

16年5月には「ヘアドネーションプロジェクト」が発足した。龍は小児がんで闘う子どもたちを少しでも勇気づけるために、東北大学病院小児腫瘍センターに年に数回ほど訪問している。同病院の医師はあるメンバーに、「退院して社会復帰する上で、抗がん剤や放射線治療によって失った髪の毛が理由でふさぎ込んでしまう子が多い。だからと言って、親御さんに40~80万円もする高価なウィッグを買ってあげて下さいなんて、とても言えない。医療費もかかっているので」と実情を明かされた。同プロジェクトを立ち上げるきっかけだった。

新プロジェクトも困難の連続。ウィッグメーカーに問い合わせるも「素人にはできない」と断られるケースが続いた。専門的な美容知識がないメンバーにとって、オリジナルウィッグの採寸と型取りは不可能に近かった。それでも新潟にあるメーカーが「研修を行い、メジャーリング(頭の採寸など)の審査に我々が合格だと思ったら、協力してあげてもいい」と条件付きでの協力に手を挙げた。メンバーは毎月、日帰りで新潟に通い、仙台に戻って復習する作業を続け、翌17年2月に「合格」をもらった。3カ月後には初めて、全頭脱毛症で悩んでいた女子高生にウィッグをプレゼントした。これまで約50人にウィッグを届けた。佐藤さんは「受け取った1人の女の子が『浴衣を着て、初めて髪飾りを買いに行きました。うれしかったです』とメッセージをいただきました。ヘアドネーションの活動をやってて良かったなと思いました」と、やりがいを感じた瞬間でもあった。

現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2月から訪問は自粛を余儀なくされている。一般ショーも8月まで中止が決まった。今後も先行きが不透明だが、初めて仙台で予定する10月のスーパーライブ開催に向けて準備を進めている。佐藤さんは「早くコロナの状況が落ち着いて、子どもたちに会いに行きたいです」と終息を願った。子どもたちの輝く笑顔のために、龍もスポットライトきらめく舞台を待っている。【佐藤究】

◆破牙神(ばきしん)ライザー龍 陸上自衛隊を除隊後、仙台市内の「めだか保育園」に勤める保育士の主人公・宮城タケルが変身するスーパーヒーロー。封印されてきた傲魔(ごうま)一族が震災によって目覚め、式神の勾玉(まがたま)でフォームチェンジを行いながら戦う。また、多彩にバージョンアップしたキャラクターも存在。<1>ユニオンフォームは龍とカムイが1つになった形。左腕に宿ったカムイが戦いをサポート<2>アルディナフォームは大地の精霊の力を宿した戦士。岩も砕く強力な「ブラドゲン」の武器を操る<3>ブラストフォームは風の精霊を宿した戦士。軽やかなスピードを持つ<4>アクアフォームは海の精霊を宿した戦士。龍とカムイのさらなる融合で誕生。武器は広大な海を切り裂く二刀流の「ドラゴンブレイド」。