こんな夢を見た 楽しい夢の球宴/ニュースの教科書

オールスターの中止を報じる5月12日付日刊スポーツ1面

先日、夢を見ました。新型コロナウイルスの影響で中止になったはずの「オールスター」の夢でした。ロッテのルーキー、佐々木がオールスター新記録の最速163キロをマーク! 西武松坂と阪神福留が「元メジャー&中日OB」対決! など、興味深い対決ばかりでした。文字どおりの「夢の球宴」は、意外にも「オールスターはなぜ、楽しいのか?」を教えてくれました。実況中継をもとに、お届けします。【夢想実況=玉置肇】

  ◇   ◇   ◇  

-その「夢」は、今年のオールスター第2戦の舞台になるはずだった、ナゴヤドームでのゲームでした。実況アナウンサーは僕(玉置)、解説は「Xさん」。

実況 ナゴヤドームは早くも、応援のボルテージが最高潮に達しています! オール・パシフィック(全パ)先発は、注目のルーキー、ロッテ佐々木朗希(ささき・ろうき)投手(18)。一方、オール・セントラル(全セ)は地元中日の大野雄大(おおの・ゆうだい)投手(31)の先発です。1回裏、佐々木がいきなり試練を迎えています。2死二塁で広島の主砲、鈴木誠也(すずき・せいや)外野手(25)と真っ向勝負です!

Xさん 「最速163キロ右腕」対「侍ジャパンの4番」。こんな対決が実現するのも、オールスターの醍醐味(だいごみ)でしょう。

実況 さあ佐々木、足を高~く上げて第1球を投げた。外角低め、ストライ~ク。おっ、今日1番の160キロだ! 2球目も真っすぐ。今度は161キロ! どよめくスタンド。鈴木追い込まれた。

Xさん 今日の佐々木クン、球速も出ていますが、ストレートに伸びがありますよ。体格も一回り大きくなった。

実況 なるほど。さあ、佐々木、足が上がった。第3球を投げた。内角高め、ビュンと来た! 空振り三振。おおっー、出たっ、163キロ!! オールスター最速だ! 胸を張ってベンチに戻る佐々木。ナインから声をかけられ、白い歯がこぼれます。片や鈴木は苦笑い…。

Xさん あな恐ろしや。日本ハム時代の大谷翔平(おおたに・しょうへい)投手(エンゼルス=25)が162キロをマークした(14年)のが記録でした。それに佐々木クン自身にとっても自己最速タイです。

実況 さて、次の主役が登場。阪神近本光司(ちかもと・こうじ)外野手(25)です。昨年のオールスターに初出場。初打席から本塁打、二塁打、安打、二塁打、三塁打と、史上2人目のサイクル安打達成。しかも1試合で初の5打席連続安打でした。マウンドにはソフトバンクのアンダースロー、高橋礼(たかはし・れい)投手(24)。

Xさん 近本クンは連続打席安打の記録をどこまで伸ばすか? 相手の高橋礼クンは「侍ジャパン」が世界に誇るアンダースロー。来年の東京五輪でも出番はあるでしょう。

実況 その高橋礼、第1球。おっと、近本セーフティーバント! 三塁手ダッシュ、ボールをつかんで一塁送球! セーフ、セーフ。近本、スタンドの拍手喝采に照れ笑い。これで昨年から6打席連続安打だ。

実況 さて、お次の目玉対決は-。全セはヤクルトの山田哲人(やまだ・てつと)内野手(27)が四球で一塁出塁。そして全パの捕手がソフトバンク甲斐拓也(かい・たくや=27)と来れば、「快足山田」対「甲斐キャノン」!

Xさん 山田クンは50メートルを5秒82で駆け抜けます。昨年のシーズンで連続盗塁成功記録「38」の日本新記録を樹立しました。一方、甲斐クンの二塁送球に要するタイムは1秒72。両リーグの平均が1秒96ですから、技の極致の激突です。

実況 ピッチャー、クイックモーションから第1球! いきなり走った! 甲斐が二塁送球。山田、足から滑り込んだ。砂ぼこりが舞っている…。セーフ、セーフだ。盗塁成功!

Xさん 2人にアッパレ! あっ違った、ケッパレ! 2人ともさわやかな笑顔じゃないですか。

実況 試合は大詰め。10対9、全パがリードして9回裏を迎えました。全セは2死二、三塁とサヨナラのチャンス。マウンドには14年ぶりに西武に戻った松坂大輔(まつざか・だいすけ)投手(39)、打席には代打の阪神福留孝介(ふくどめ・こうすけ)外野手(43)です。松坂、第1球。福留打った。ライトへ大きいが、ポールの右だ。

Xさん ともにメジャーリーガー同士。メジャーでの対戦はありませんが、国内での対戦成績は昨シーズンまで16打数3安打、打率1割8分8厘。松坂クンが抑えています。

実況 松坂第2球、新球の「スプリットチェンジ~」。打った! ライトへ大きい! ライトバック、なおバック。フェンス際、ジャンプ一番! 捕ったか!?…。捕った、捕っています。パ・リーグ、逃げ切ったぁ。松坂が福留と握手で言葉を交わしています。敬意を表すように、いい笑顔です…。

-空が、白み始めました。夢見心地で思ったことがあります。選手たちが勝敗を超えて行う「笑顔の交歓」こそが、オールスターなのだ、と。佐々木も、山田も、松坂も、みんな笑っていました。ファンも、一流のプレーだけじゃなく、選手たちのそんなグラウンドでの笑顔を、たくさん見たいのです。それが日本シリーズとはまた違う、オールスターの魅力なのでしょう。いつまでもさめてほしくない、「真夏“前”の祭典」ではありました。

<球宴雑学あれこれ>

▼きっかけは投書 オールスターは1933年、メジャーで初めて開催された。シカゴに住む少年野球ファンの新聞社への「投書」がきっかけだった。「ベーブ・ルースとカール・ハッベルの対決が見たい」-。アメリカン・リーグの主砲とナショナル・リーグのエースによる「対決」を望んだもの。日本のオールスターは2リーグ分立翌年の1951年(昭26)から。過去の通算成績はパ85勝、セ79勝、11分け。

▼ファン投票 出場選手は各部門のファン投票1位、選手間投票、監督選抜、プラスワン投票で選ばれる。

▼賞品 最初のころの最優秀選手賞(MVP)の賞品は、なんとボストンバッグ。以後、自転車、オートバイなどからクーラー、ステレオの家電製品へ。冠スポンサーの自動車を経て最近は賞金300万円。

◆玉置肇(たまき・はじむ) 83年入社以来20年以上、主にプロ野球の取材にかかわる。その経験を買われ? 当欄では野球のほかスポーツ関連の記事、用語などについて説明します。大学時代はアナウンス研究会に所属。夢はあながち?