感動与えたリアリティー番組も/ニュースの教科書

月とオオカミちゃんには騙されない(C)AbemaTV,Inc.

人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さんが22歳の若さで亡くなりました。SNSでの誹謗(ひぼう)中傷が原因と言われています。SNSについては法的規制の議論が始まりましたが、「リアリティー番組」に抱くイメージは人それぞれに違うのではないでしょうか。70年を越える歴史をひもといてみましょう。【相原斎】

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リアリティー番組の定義は「事前の台本や演出のない、現実に起こっている予測不可能で困難な状況に(中略)一般人出演者たち(無名の芸能人なども含む)が直面するありさまをドキュメンタリーやドラマのように楽しめるとうたったテレビ番組のジャンル」(weblio辞書)とされています。

1948年(昭23)に始まったアメリカの長寿番組「Candid Camera(キャンディードカメラ=どっきりカメラ)」がその起源とされ、現在の日本でも放送されている多くの「どっきり」ものや「ニンゲン観察バラエティ モニタリング」(TBS系)がこれに連なります。リアリティー番組の古典的な形といえるでしょう。

一方で、離婚寸前の核家族に密着した「アメリカン・ファミリー」(73年)をきっかけに、家族の愛憎や恋愛を題材にした番組が主流となりました。「テラスハウス」や、かつての「あいのり」(フジテレビ系)「痛快! ビッグダディ」(テレビ朝日系)などがこの流れをくんでいます。

「月とオオカミちゃんには騙されない」などのオリジナル作品を制作しているABEMAの広報は「作られたストーリーでは感じることができないリアリティーさを通して、視聴者のみなさまが、共感、応援、あこがれを感じることができ、恋愛観・結婚観などに対する気づきや発見がある点が、最大の魅力だと感じております」と話します。

視聴者の「のぞき見願望」に応えるという側面も否定できません。アメリカの番組に顕著ですが、家族が恥部をさらし、ケンカを始める姿が話題となり、視聴率アップにもつながりました。良くも悪くも、それこそがリアリティー番組の魅力でもあるのです。

一方で、SNSが広がった現在では、出演者が誹謗(ひぼう)中傷の対象となるきっかけになりかねません。アメリカでは04年からの12年間で、少なくとも21人がリアリティー番組にまつわる問題で自殺したと言われています。最近では若者への影響を考える放送倫理が強く意識されるようにもなりました。

「嫌がらせへの調査・法的手続きに関する相談窓口を開設するなど、今後も安心して出演いただける環境作りを強化します。弊社の恋愛リアリティーショーには作品によって独自のルールが存在します。その中で出演者の意向を最重視した上で等身大のリアルな姿をお届けできるように作品作りを行っています」(ABEMA広報)と、制作サイドも対策を練り、抑制的な演出が心掛けています。

「どっきりカメラ」を始め、視聴者参加型のゲーム番組「ザ・ゴングショー」、警察密着の「コップス」など、リアリティー番組の原型のほとんどはアメリカで生まれました。日本では一般人の代わりに名の知れたタレントが出演するなど、独特の味付けがなされてきました。「他社さまとの共同制作、ライセンスを受けて配信しているものもありますが、『オオカミちゃんには-』などオリジナル作品に関しては権利を保有しております」(ABEMA広報)と日本発のオリジナル作品も生まれるようになりました。

テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞を受賞したリアリティー番組もあります。ダウン症の若者7人が、友情や恋愛を通して成長する姿を追ったアメリカの番組「Born This Way」(15年)です。出演者の1人アッシュモア・英玲奈さん(当時29歳)は日刊スポーツの取材に「(受賞に)大興奮した。こんな素晴らしいことはない。ぜひ、日本の方にも番組を見てもらいたいです」と話しました。

リアリティー番組に登場する「ありのままの姿」が人々に感動や共感を与えることも少なくないのです。

アメリカのトランプ大統領の知名度アップにおおいに貢献したといわれるのも、実はリアリティー番組です。トランプ氏は04年から大統領選出馬直前の15年まで、「アプレンティス」という番組のホストを務めました。ゲーム脱落者に「お前はクビだ」と宣告する決めゼリフで人気となりました。トランプ氏の発言は物議を醸すことも多いですが、「本音の人」のイメージは、リアリティー番組そのままといえるかもしれません。

さかのぼると、初めてのテレビ討論が行われた1960年(昭35)の大統領選を制したのはケネディ大統領でした。この討論をラジオで聞いた人の多くは「(内容で対抗馬の)ニクソンが勝っていた」との印象を持ったそうですから、モノクロテレビを意識した濃い色のスーツや綿密なメーキャップをしたケネディ大統領はテレビ時代の到来を象徴していたのでしょう。

イランのアメリカ大使館人質事件で、弱腰の姿勢が批判された当時のカーター大統領を破ったのがレーガン元カリフォルニア州知事でした。映画俳優出身のレーガン新大統領に、カーター氏とは正反対の「ガンマン」のイメージを期待した人が多かったようです。ケネディ以降の大統領には否応なく、映像イメージがついて回っているのです。

リアリティー番組には功罪ともにあると思いますが、最近のトランプ大統領には「罪」の部分ばかりが重なって見えてしまいます。

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◆テラスハウス 複数の男女がシェアハウスで暮らす様子を記録したリアリティー番組。12年からフジテレビで放送され、15年からはネットフリックスで世界配信されている。5シーズン目として19年5月にスタートした「-TOKYO 2019-2020」のキャストの1人だった木村花さんが今年5月23日に死去。死因は公表されてないが、この番組での言動に対する誹謗中傷を苦にして自殺を図ったものとみられている。この事態を受け、同27日にフジテレビが制作中止を発表した。

◆相原斎(あいはら・ひとし) 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、仏カンヌ映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。「元祖どっきりカメラ」以来のどっきり好きで、「モニタリング」の「心霊バス」コーナーは録画保存している。