都知事選争点にない築地跡地「巨人本拠地に」の声も

築地が争点にならない都知事選で街宣も少ないが、土曜の場外には客足が戻ってきた

都知事選(7月5日投開票)で築地が争点になっていない。過去の都知事選では、東京中央卸売市場の移転問題などもあって、築地は常に争点だった。

これまでの都知事選なら場外「築地4丁目」交差点で街宣の順番待ちができていた。しかし、今回は「あっ、そうか、今、都知事選だったよね」と近所の商店からのつぶやきも聞こえてくる。

市場跡地は東京都の管理地。23万836平方メートルの更地の運用は未定だ。来年に延期された東京オリンピック(五輪)では、競技を行う選手や各国役員らの乗車するバスの中継基地になる。旧市場の建物は壊され、がれきも撤去されて広大な更地になっている。

そこで、築地場外で働く30人に「跡地をどうしてほしい」と聞いてみた。

野球場が8人だった。東京ドーム約4・9個分。行列のできるホルモン「きつねや」宇治毅さん(59)は「何でこの跡地が都知事選の争点にならないのか。ナメんじゃねぇ、と言いたい。東京のど真ん中でしょ。最後に開発できる湾岸フロンティアですよ。ありきたりの街づくりはしてほしくない。国立競技場並みの多目的施設で、みんなでどんちゃん騒ぎができて花火をどんどんあげてほしい」と目と輝かせた。

開業4年のハンドドリップコーヒー「YAZAWAコーヒー」広田賢一郎さん(44)は「巨人がホームの野球場がいい。試合のないときでも音楽などのイベントも組めますからね」

乾物「川名商店」川名英夫さん(66)は「やっぱりさ巨人軍なんだよ。しかも東京ドームを借りてるんでしょ。巨人軍のホーム球場にしよう。そうしたら銀座も含めてこのエリアが一体化できる気がするんだよね」

箸&経木と生活雑貨「小見山商店」小見山純一さん(66)は「オレはお客さんにも言っているんだけど巨人のホーム球場。東京ドームだって老朽化しているし。築地にこの土地しかないと思うけど」

青果「藤本商店」藤本貴也さん(36)は「運動場がいい。サッカーもできればいいけど、巨人にきてほしい。都民のさ、いこいの場所になってほしいのよ。納めた税金が都民に還元されたいじゃない」

日本料理「魚河岸三代目 千秋」鎌田規広さん(45)は「ボールパーク、っすね。しかも高校野球限定。だって、築地は素材を売ってんだから、野球もダイヤの原石のプレーを見ようよ。高校野球なら公式戦だけじゃなくて練習試合でもいい。カジノみたいな不健康なもんじゃなくて、高校生の元気はつらつなプレーを観戦する。オレ、毎日行っちゃいそうだ」

シューマイやギョーザなど飲茶「菅商店」菅宏行さん(53)は「場外の営業時間も朝から午後2時までじゃなくて、夕方から夜も移行していくといい。それならナイターとかのあるプロ野球かな。だからJリーグでもラグビーでもミュージシャンのライブでもいいんだよね」

極細麺の東京ラーメン「若葉」若林五郎さん(72)は「若いころならさ、すぐに巨人、って返したろうけど、球団はどこでもいい。ここをホームにするなら築地フィッシャーズがいいね」

7人が支持したのは「旧市場関係者の戻れる場所にする」だった。鮮魚「三宅水産」三宅正人さん(51)は「やっぱり場外と連動性のあるエリアにしてほしいんだよ。豊洲に移転した場内の人で相当数が築地に戻りたいとこぼしている。豊洲は高速道路とつながっている流通センター。戻すのはありだなぁ」と腕組みした。

おいしい海鮮丼「築次郎」佐藤正次郎さん(29)は「やっぱり場内は場内なんだから、戻ってきてほしいですよ。場内と場外がつながっている、それが一番、築地っぽいなぁ」

魚卵を中心とした海産物「田所食品」田所悟さん(55)は「場内の人に戻ってきてほしい。ただ、一般のみなさんを入れることは反対。高度衛生管理された市場であるべき。創意工夫があって楽しい市場であることは絶対条件ですけどね」

薫る焙煎「米本珈琲本店」米本謙一さん(67)は「有益な施設をつくってもらいたい。お客さんにとっても、われわれ場外の人間にとっても。そういう意味では場内の人らが戻ってくるのはいいこと」

そばと日本酒で朝から夜まで楽しい「築地長生庵」松本聰一郎さん(44)は「そもそも何で場内と場外が分断されたのか。もともと2つで1つなのに。ぼくらに場内を返してほしい。それだけです」

築地でもっとも歴史のある玉子焼き「つきぢ松露」齋藤元志郎さん(68)は「ファミリーで楽しめるリバーサイドとして開発してほしい。それとちゃんと一般公開できる競りを実現したい。そんなに大きくなくていい」

折箱はじめ天然素材「石井折箱店」石井邦彦さん(58)は「豊洲に移転して廃業した小さなお店もある。豊洲は配送センターですわ。人のつながりが断ち切られた。人が集まるから市が立つ。築地と豊洲の住み分けをして、触れ合える市場を復活させてほしいですね」

そのほかの意見は異口同音に「お客さんとちゃんと会話のできるエリアに」というもの。

新型コロナウイルスによるダメージから一時期は廃業も考えた調味料や缶詰「北島商店」北島俊英さん(77)は「築地にふさわしいものをつくってほしい。いくらネット社会といってもお客さんの顔を正面から見て商売するのが築地。ウチも店を続けることを決意してから訪ねてきてくれる人が増えました。ありがたいですね」

鶏肉卸「鳥藤(とりとう)」鈴木昌樹さん(42)は「切り売りして不細工な開発はごめんです。都は地元の築地にちゃんと声を吸い上げてほしい。知らぬ間に、はい、これにします、という空中戦だけはしてほしくない」

「土曜の築地は面白い」という築地のコピーを考えてバブル期に一般客の来場を飛躍的に伸ばした食器「うりきり屋」岩間章さん(76)は「これぞ日本、という施設をつくってほしい。この土地の活用は都の持ち物かもしれないけど、国策に近い。日本の縮図、つまり47都道府県の今が分かる施設。羽田空港直行の船着き場ができると聞いた。海外の観光客が予備知識なしで日本を楽しめるでしょ。日本人だって使いたくなると思うよ」

昆布ことなら何でも「吹田商店」吹田勝良さん(55)は「場内跡地は東京都の土地というのは十分よく分かる。でも都は築地を守ってくれる? 少なくとも場外の人間は必死で築地を守るさ。極端なことを言えば楽しい場所にしてもらいたい。たとえばマグロと一緒に泳げて、トロのすしを食えるみたいな水族館とか」

弁当販売を始めた「鯨の登美粋(とみすい)」松本宏一さん(51)は「反対する人も多いかもしれませんが、どこからでも目立つ高層ビルを建てちゃう。イベントなどの一過制のものではなく人の集まるランドマークにしたい。それと楽しい食を提供できれば文句なしです」

ローストビーフ、チャーシューが人気の「近江屋牛肉店」寺出昌弘さん(56)は「築地は東京のヘソ、日本の中心ですよね。何かあったときに他の地区からも頼りにされる存在になれるといい。水路も使えそうだから防災拠点にいいかもしれない」

練り製品「築地紀文店」永沼正さん(59)は「船が接岸できるポートができるらしいので1年中何かのイベントを催している展示場などはいいのかなぁ」

玉子焼き「大定(だいさだ)」石井登来さん(46)は「全天候型の施設で、晴れたら空が見える工夫がされていて、都営大江戸線とメトロ日比谷線の各駅から直結しているような地下道開発もしてほしいなぁ」

鮭の店「昭和食品」佐藤友美子さんは「見上げると青空が見えるぐらいの低層階だけの街並みにしてほしい。バリアフリーは当然で自転車や車いすが自由に出入りできる環境を整えてほしい」

さまざまな道具がそろう「山野井商店」山野井裕幸さん(43)は「変に新しくしないでほしい。食にまつわる何かがいい。場外と融合できる街づくりをしてほしい」

玉子焼き「本玉小島」小島英朗さん(39)は「歌舞伎座や新橋演舞場、劇団四季の劇場も近くにあるし、築地小劇場から近代演劇も生まれている。もっと文化、芸術が大事にされてもいい。日本のブロードウェーにしましょう」

すし「鮨國」國場美光さん(36)は「職人の街がいい。江戸の八百八町を再現する。全国ですたれそうな伝統工芸の名人に来てもらえば弟子入りする若者も出るかも。コンクリートを引っぺがして全部木造建築の長屋。みんな和服にしよう。来場者も浴衣に着替える。本物の江戸をつくって世界に発信しましょう」

干物「都水産」落合正臣さん(48)は「背の高い建物は絶対に反対。公園がいいよ、公園ね」

「伊藤海苔店」伊藤信吾さん(35)は「迷路みたいな路地のある街がいい。場外ともつながれるし、その向こうの浜離宮と一体化できる」

「パッケージ タカタ」高田幸平さん(45)は「ぜ~んぶ、芝生。じゃなきゃ世界のマッサージを堪能できるマッサージランドかな」

一部にしか聞いていませんが、それぞれお店の顔として汗を流している30人の声です。これが場外の気持ちです。候補者のみなさん、築地の市場跡地について具体的な構想はありますか?【寺沢卓】