異変!宮崎アニメ旧作がランクに/ニュースの教科書

「千と千尋の神隠し」完成発表会で左から湯婆婆、千尋役の声・柊瑠美、釜爺の声・菅原文太、主題歌を歌う木村弓、宮崎駿監督(10年7月)

毎週発表される映画ランキングに、異変が起きています。最新ランキング(17、18日)では「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」「風の谷のナウシカ」と宮崎アニメの旧作が2、3、4位に入りました。新作が並ぶベスト10に旧作がランクインするのは異例です。これも新型コロナウイルス感染拡大の影響です。この機会に、夏休み興行やランキングのこれまでを振り返ってみましょう。【相原斎】

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「千と千尋の神隠し」は、リバイバル上映が始まった6月27日の週にいきなり1位となって以来、3週連続でトップとなり、最新ランクでも2位となりました。「もののけ姫」「風の谷のナウシカ」も上位に続き、宮崎(ジブリ)アニメの旧作3本がベスト10に名を連ねています。この3本は、6月下旬から3週続けて、ランキングの1~3位を独占しました。

約70年にわたって映画館の興行成績を集計、分析してきた興行通信社の金沢亮氏は「緊急事態宣言の解除後、予防ガイドラインにそって再開した映画館では、宣言直前に上映していた作品や旧作の再上映というかたちになりました。そんな状況の中で『一生に一度は、映画館でジブリを』というキャッチフレーズが効いて、ランキング上位を占めることになったと思います」と分析します。

巣ごもり生活で動画配信やDVDで往年の名作に触れる機会が増え、その良さを再認識したことで「旧作」への抵抗感が薄れたことも背景にあったでしょう。

金沢氏は「03年末に全国ランキングを開始してから、旧作が上位を占めたのは初めてのことです」と、その異例さを指摘します。

例年、夏休み興行では新作の中でも大作、話題作が集中して公開されます。

「歴代ランキング1位の『千と千尋の神隠し』を始め『もののけ姫』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』というジブリ作品はいずれも7月公開です。また、昨年夏には新海誠監督の『天気の子』が大ヒットしています。洋画でも『トイ・ストーリー』の3、4作も7月ですし、ハリー・ポッターやスター・ウォーズシリーズも夏か正月に公開されてきました」と、金沢氏は話します。

近年、この季節では豪雨災害も少なくありませんでした。ただ「全国の映画館の成績を集計していますので、地域的な災害がランキングに大きく影響することはありません。夏休み興行の異常事態は他に例のないことです」。金沢氏はコロナ禍による特異性を、あらためて強調します。

夏になった今でも、感染者数の増加傾向は続いています。金沢氏は「ようやく新作がそろい始めたところで、それほど選択肢はありません。映画館も現状は前後左右の席を空けて50%の座席しか販売していません」と、コロナ禍に直面している映画業界の苦境も明かしました。

一方で「十分な換気も行っていますし、上映後は列ごとの退席をお願いするなど、『三密』を避ける感染防止対策が徹底されています。人気作品が前後左右空いた状態でゆったり見られるなんてことは、今しかないかもしれません。ぜひ映画館に行って大スクリーンで映画を見てほしいですね」とも。

GO TOキャンペーン同様、ランキング異常事態の映画界にも複雑な思いが絡んでいます。

宮崎アニメは、歴代ランキング20でも「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「もののけ姫」「崖の上のポニョ」の4本がランクインしており、人気の根強さを物語っています。新海誠監督の「君の名は。」「天気の子」の2本も入っており、アニメ人気の高さを印象付けています。海外作品では「ハリー・ポッター」シリーズが3本と、こちらの人気も安定しているようです。

実写映画のトップは海外作品が「タイタニック」、日本映画が「踊る大捜査線-」で、それぞれ公開時には社会現象となりました。

また、ボックスオフィスなどに代表される米国の映画興行は、金土日3日間の集計でランキングしていますが、日本では土日2日間の集計で最新順位を発表しています。金沢氏は「日本でも金曜公開が主流となってきていますので、日本も3日間集計になるのは遠くないかもしれません」と話しています。

●最新映画ランキング(7月18、19日)

<1>今日から俺は!劇場版(新作)<2>千と千尋の神隠し(01年)<3>もののけ姫(97年)<4>風の谷のナウシカ(84年)<5>私がモテてどうすんだ(新作)<6>透明人間(新作)<7>ステップ(新作)<8>ドクター・ドリトル(新作)<9>MOTHER マザー(新作)<10>「進撃の巨人」クロニクル(新作)

(興行通信社調べ)

●歴代ランキングベスト20

<1>千と千尋の神隠し(01年)<2>タイタニック(97年)<3>アナと雪の女王(14年)<4>君の名は。(16年)<5>ハリー・ポッターと賢者の石(01年)<6>ハウルの動く城(04年)<7>もののけ姫(97年)<8>踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!<9>ハリー・ポッターと秘密の部屋(02年)<10>アバター(09年)<11>崖の上のポニョ(09年)<12>天気の子(19年)<13>ラスト・サムライ(08年)<14>E・T・(82年)<14>アルマゲドン(98年)<14>ハリー・ポッターとアズガバンの囚人(04年)<17>アナと雪の女王2(19年)<18>ボヘミアン・ラプソディ(18年)<19>ジュラシック・パーク(93年)<20>スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス(99年)

(興行通信社調べ)

◆相原斎(あいはら・ひとし) 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、仏カンヌ映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。映画興行で記憶に残っているのは、「タイタニック」(97年)の大ヒットで、配給元のFOXジャパンの社員に、月給35カ月分のボーナスが支給されたこと。