迫る米大統領選 パックンが予想&解説

パックンことパトリック・ハーラン

<ニュースの教科書>

米国の大統領選挙の投票日が、11月3日に迫りました。4年に1度、1年間にわたる選挙戦もいよいよクライマックス。現職の共和党ドナルド・トランプ氏(74)と民主党ジョー・バイデン氏(77)が激突しています。コロナ禍や人種差別への抗議など異例の状況が続く中、世界に大きな影響を与える超大国の指導者はどちらになるのか? 米大統領選に詳しいハーバード大出身タレント、パックン(パトリック・ハーラン氏)の予想&解説とともに、登場人物や、複雑な選挙の仕組みも紹介します。【取材・構成=久保勇人】

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【パックンに聞く】

-これまでのところ、世論調査はバイデンがリードしています。ズバリどちらが勝つと予想しますか

パックン このままならバイデンが勝つと思いますが、トランプ再選の可能性も十分あります。難しい。

-トランプは前回も総得票数で負けて当選しました。支持率も高くないのに、なぜ強いのですか

パックン 「シングル・イシュー・ボーター(Single Issue Voter)」=1つの問題だけで投票を決める人がいて、そのハートをつかむ政策を実行しているからです。中絶反対派、エルサレムをイスラエルの首都と承認してユダヤ教徒など、地球温暖化対策のパリ協定から離脱して石炭石油関係などの支持を得たほか、移民や中国の脅威を恐れる人、白人至上主義擁護、TPP脱退による保護貿易ファースト…。国民全員は反応しなくても、それぞれの問題に熱い、数%ずつの票を集めてきた。最近は人種差別問題で白人層の恐怖をあおり、「法と秩序」を掲げて自分が守るとアピールしている。絶対に共和党に入れる30%にそれらが上乗せされると45%くらいまでいく。50%超えは狙わず、堅い四十数%の票で当選する作戦です。

-今回はコロナ禍で郵便投票が増えそうですね。影響は

パックン 郵便投票を利用する人は、貧困層や有色人種、コロナを恐れる人など、民主党支持者が多いといわれます。記載不備などで無効票も出やすい。結局、選挙は投票。世界一のコロナ大国を演出しても、弾劾裁判にかけられても、共和党の中で反対されても、それでも支持するトランプ支持者は、何がなんでも投票に行きます。これがトランプのパワー。今回は不確定要素も多い。今後またコロナの波がきた場合、雨天、投票前日に暴動が起き警官が殺された場合などは、トランプが有利になるかもしれない。世論調査で数ポイント差でも全く分からないです。

-バイデンとハリスのコンビは、左派も含めて支持層をまとめていけますか

パックン バイデンは、国がノーマルに戻るための毒のない安全パイ、つなぎ役と解釈されています。極端なことはやらず、怖くなく、無難。ハリスがおもしろい味付けで、賢い、弁が立つし、いい物語を持っている。安全パイとちょっとした冒険の組み合わせでバランスが取れた。でも民主党支持層をまとめているのはトランプです。彼がいなければ分裂が激しくなっています。バイデンがリードを保つためには安全運転で、失言しないこと。3回の討論会を頑張ることです。(敬称略)

◆パックン(パトリック・ハーラン、49)1970年11月14日、米コロラド州生まれ。ハーバード大(比較宗教学専攻)を卒業後、訪日。英語講師を経て、吉田眞とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。「英語でしゃべらナイト」(NHK)などで一躍人気になり、情報番組など多数出演。東京工大非常勤講師も務める。連載、著書も多数。

【挑戦者コンビ】

トランプ大統領&マイク・ペンス副大統領(61)に挑戦している民主党コンビ。日本ではまだあまり馴染みのない2人を紹介します。

バイデン前副大統領は、波瀾(はらん)万丈の歩みから「サバイバー」とも呼ばれます。幼い時から吃音(きつおん)に悩み克服。弁護士など経て、72年29歳で上院議員に当選も、その1カ月後の交通事故で妻と1歳の娘を亡くし、息子2人も重傷を負いました。息子の看病のため、長距離通勤を続けました。77年にジルさんと再婚。88年には脳動脈瘤(りゅう)破裂を克服し、上院議員を6期36年つとめました。87年に88年大統領選に挑戦表明し撤退。08年大統領選は撤退も、オバマ政権の副大統領に。16年大統領選前の15年には、デラウェア州司法長官の46歳の長男を脳腫瘍で亡くし出馬を断念しました。

いくつもの逆境を乗り越え、気さくな人柄で豊富な人脈を持つ一方、失言が多く、セクハラ疑惑もありました。先の民主党大会の演説は「私を支持しない人のためにも懸命に働く」と米国の再建を訴え、幅広い層から高く評価されました。当選すれば史上最高齢の大統領になります。

カマラ・ハリス上院議員(55)は、当選すれば女性、黒人、アジア系として初の副大統領になります。高齢のバイデン氏が当選しても1期で退く見方もあり、ハリス氏が24年に大統領になる可能性も。父はジャマイカ出身の経済学者、母はインド出身の乳がん研究者。検事、カリフォルニア州司法長官を経て上院議員になり、今回の民主党の大統領候補の1人でもありました。若さ、鋭い弁舌などさまざまな点でバイデン氏を補完し、幅広い層から支持を集めています。夫は弁護士のダグラス・エムホフ氏(55)。

【ファーストレディー候補】

◆バイデン氏のジル夫人(69)はニュージャージー州生まれで、高校などの英語教師です。バイデン氏とともに2度目の結婚。オバマ政権のセカンドレディー時代も教職を続けており、夫が大統領になっても教師を続けると話しています。

◆トランプ氏のメラニア夫人(50)はスロベニア生まれのモデル出身。96年に渡米し、05年にトランプ氏と結婚しました。トランプ氏は3度目。各地で学校や病院を訪問するなど、子どもたちの支援に熱心です。

【米大統領選の仕組み】

夏季五輪の年に行われ、主に2つの段階があります。

<1>予備選挙&党員集会 まず、共和党と民主党が約半年間かけて各州で予備選挙や党員集会を行い、候補者を1人に絞ります。

<2>本選挙 各党の候補が対決する選挙は「11月最初の月曜の翌日の火曜日」に行われます。今年は11月3日。投票できる人は18歳以上の米国人です。

全米で相手より多くの票を獲得しても、当選できないことがあります。前回16年には、民主党ヒラリー・クリントン氏が総得票数で共和党トランプ氏より300万票近くも多かったにもかかわらず負けました。トランプ氏の獲得した「選挙人」が多かったためです。

選挙はまず各州で勝者を決め、最終的に全米で獲得した選挙人の総数で当選を決めます。選挙人は人口で割り当てられ、各州で数が違います。有権者は支持候補を表明している選挙人を選ぶ形ですが、実際は直接選挙に近い。ほとんどの州で1票でも多く獲得した方が、その州の全選挙人を獲得します。選挙人は全米で538人。270人以上を獲得した方が当選です。

郵便投票もでき、今回はコロナ禍もあって申請が急増しています。結果が出ない前に一方が勝利宣言するなどして、混乱する可能性も指摘されています。

【今後の日程】

▼9月29日 第1回大統領候補討論会

▼10月7日 副大統領候補討論会

▼10月15日 第2回大統領候補討論会

▼10月22日 第3回大統領候補討論会

▼11月3日 大統領選挙投票日

◆久保勇人(くぼ・はやと) 1984年入社。静岡支局、文化社会部、スポーツ部などを経験。国内の事件、皇室、海外取材など担当。96年五輪前後の約3年間は、米ジョージア州アトランタ支局に赴任し、各地を取材した。