きょう「大阪都構想」住民投票 世論調査で賛否拮抗

10月18日、大阪市で合同の街頭演説会を行った、左から公明党の山口那津男代表、大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長、代表代行の吉村洋文大阪府知事

<ニュースの教科書>

今日1日、大阪市では「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が行われます。5年前にも行われ、賛成69万4844票、反対70万5585票。1万741票差で否決され、大阪市長だった橋下徹氏は政界を引退しました。今回も世論調査では賛成43・3%、反対43・6%と大接戦です。そもそも大阪都構想って何? 関東人には何を争っているのか分からない今日の住民投票をQ&Aにしてみました。【中嶋文明】

  ◇   ◇   ◇  

Q 賛成が多数なら大阪は都になるの?

A 正式な名称は「大阪市を廃止し、特別区を設置することについての住民投票」です。大阪市がなくなり、25年1月に東京23区のような特別区に変わりますが、府が都になるには法律が必要で大阪府のままです。「大阪都構想」といわれるため、勘違いしている人は多く、5年前は賛成したという吉本興業の“美容番長”シルク姉さんも10月18日のブログで「都構想選挙じゃなかった」と驚いていました。大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長は可決したら、国に法改正や特別法を働きかけて、その上で名称を都にする住民投票を23年に行いたいと話していますが、反対派の藤井聡京都大教授(都市社会工学、公共政策)は「知らずに選挙する人がいっぱいいる。大阪都構想選挙というだけで詐欺」と言っています。

Q でもメリットがあるから変えようとしているんでしょう?

A 府と市の二重行政による無駄の解消が最大の目的です。大阪維新の会がよく例に出すのは、バブル期に府が建設したりんくうゲートタワービル(高さ256・1メートル)と、市が建設したワールドトレードセンタービル(高さ256メートル)です。府と市は高さを競い合い、莫大(ばくだい)な税金を投じましたが、共に破綻しました。長年対立し、非効率で「不幸せ(府市合わせ)」な税金の使い方をしてきた府と市を一体化すれば、意思決定は早くなるし、10年で1兆1000億円の歳出削減効果があると訴えています。

Q 年に1100億円の無駄がなくなるなら、いいと思うけど

A 嘉悦学園が算出した10年で1兆1000億円という数字は信ぴょう性が疑われていて、立命館大の森裕之教授(財政学、都市経済学)の試算では削減効果は年4000万円です。4つの特別区に変わるためには区庁舎の改修やシステム整備など初期コストとして241億円かかります。仮に年に4000万円の効果しかないとしたら、初期コストを回収するまで600年以上かかります。それにランニングコストは年30億円です。毎年30億円かけて4000万円かよという話になってしまいます。

Q 逆にデメリットは?

A 人口275万人の政令指定都市・大阪市がなくなることです。特別区になると、固定資産税、法人住民税は府税になります。国からこれまで大阪市に配分されていた900億~1000億円の地方交付税もなくなります。特別区の独自税収は個人住民税だけで、今の4分の1になる見通しです。インフラ整備など市が担っていた権限や消防、上下水道も府に移ります。府と特別区の間で財政調整は行われますが、森教授は「特別区は権限と金を取られ、従属団体になる」と言います。特別区を市に変える法律はないため、大阪市には戻れず、法改正が必要になります。柴山桂太京都大准教授(現代文明論)は「不幸せ(府市合わせ)はなくなるけど、四苦八苦(4区八苦)になるんじゃないか」と言ってます。

Q 前回反対だった公明党はなぜ賛成に回ったの?

A 大阪維新の会は昨年、府知事選、市長選、府議選、市議選で圧勝しました。公明党府本部は「民意が示された」として賛成を表明しました。衆院議員は来年10月、任期満了を迎え、1年以内に総選挙があります。公明党は前回、小選挙区で8議席獲得していますが、4議席が大阪、2議席が兵庫です。大阪維新の会との対立を避けるため、方針転換したとみられています。10月18日には大阪維新の会の求めに応じて、山口那津男代表が大阪に入り、松井市長、吉村洋文府知事と街頭に立ちました。公明党は昨年の参院選で大阪市内で17万票を獲得しています。支持者は依然反対が多いと分析されていますが、公明党支持者の投票が結果を左右しそうです。

Q 反対が多数になると?

A 大阪市の存続が決まります。松井市長は3回目の住民投票は「ない」と明言し、「負けたら政治家として終了だ」と任期満了をもって引退する考えを明かしています。大阪維新の会にとってまさに「最後の決戦」です。

◆政令指定都市 インフラ整備、成長戦略など都道府県の仕事も行える大都市。1956年、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の5市が指定された。人口100万人以上、または近い将来、100万人を超える見込みがあることが指定要件だったが、「平成の大合併」を促進するため、70万人にまでハードルが下がった。現在、全国に20ある。

◆特別区 大阪市に現在ある24の区は行政区。市の組織で、区長は市の職員から市長が任命する。議会もない。特別区は区長、区議が選挙で選ばれ、議会を持つ。課税権や条例制定権がある。現在、東京都にのみ置かれている。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)81年入社。大阪の担当記者に聞くと、熱気は5年前ほどではないそうです。2015年は市長が橋下氏。内容は分からなくても「橋下徹が好きか嫌いか」で盛り上がったのが、今回は松井氏です。「シビアに損得の話になると思う」と担当記者。「得するならやろ」になるのか「損するならやらんでいいやん」になるのか。注目です。