コロナ禍で公認サンタ出番なし?Xマス見つめ直して

グリーンランド国際サンタクロース協会で日本唯一の公認サンタクロースのパラダイス山元。写真は20年ノルウェーで

<コロナ社会を生きる>

クリスマスまで2週間あまり。新型コロナウイルス感染拡大で、世界中のサンタクロースの活動にも影響が出ている。

サンタは初めて経験するコロナ禍で、どのような活動を行っているのか。グリーンランド(デンマーク自治領)国際サンタクロース協会で、日本唯一の公認サンタクロースのマンボミュージシャン、パラダイス山元(58)に話を聞いた。

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世界的な新型コロナウイルス感染拡大が続く中、公認サンタとしての活動も例年通りにいかなくなった。「11、12月の土日のスケジュールがこんなに何もなくて、家にいていいのかな」。これまで早い時は9月から、児童福祉施設や障がい者施設、小児病棟を訪問していた。今年は感染拡大防止の観点から、やむなく訪問を断念した。

「安全を考えたらむちゃはできないかなと。(子供たちは)サンタさんが当たり前のように来てくれていると思っている。途絶えてしまうのは、きついといえばきつい。でもしょうがないですよね、世界中でこんな状況ですから」

初めて施設や小児病棟とオンラインでつなぐリモート訪問を始めた。病院職員が山元サンタが映し出されたスマートフォンを持って、入院中の子供が寝ているベッドを回ることもある。

「私自身、画面でのやりとりも慣れていないし、こちらはスマホの小さな画面で、向こうはプロジェクターで教室いっぱいに私を映し出したりしていて、もうちょっとメーキャップしなきゃとかいろいろあります。また来てね、と言われるので、早く行かないといけないな、と思います」

活動の中でこれまでとの大きな違いは触れ合いだ。

「気軽に触れ合ったり、ハグしたり、サンタのひざの上に乗っかって写真を撮るとか、全部なくなった。ぬくもり、やさしさが永久になくなってしまうということを危惧しています」

今もネット環境に慣れず、電話やファクスでメッセージを送るサンタもいるが、一部サンタとはビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」などを使い、オンラインで連絡を取り合う。「米、英、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、エルサルバドルのサンタとZoomやTeams(チームス)でやりとりしています」。コロナ禍で「どこにも出てない」「仕事はキャンセルした」といった人が多かったという。

あるサンタは自宅の小さな部屋にグリーンバックで背景を自由に変えられるバーチャルスタジオを作ったという。「新しいアイデアを思いつくのは若い人が多いですね」と感心した。

グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタは約120人。毎年夏にデンマークで「世界サンタクロース会議」が開催される。出席することで公認サンタの資格が更新される。60年以上、続く会議も今年は初めて中止になった。

公認サンタの年齢は上は90代以上、60~70代前半と高齢者が多い。「私なんかまだペーペーです」。日本は真夏だが、自宅からサンタの格好で出掛ける決まりだ。「もう慣れましたが大変です」。資格維持のため、車いすやつえを突きながら会議に出席するおじいちゃんサンタもいたという。

「1年何もやらなくなっちゃって、来年もこのような状況が続いてたら、ボケてしまうのではないかと。サンタの服を着て、今すぐにでも飛び出したい人たちがほとんど。そこは大丈夫かなって心配しています」

ずっと気になっていることがある。日本と北欧のクリスマスに対する精神文化の成熟度の違いだ。数年前、ノルウェーに行った時、女子高生がかわいい手袋を付けていた。「これいいでしょ。去年サンタさんにもらったんだ」とうれしそうに教えてくれた。

デンマークで男子中学生が父親に「ほしいものはいっぱいあるけど、プラスチックではなく、木のぬくもりがある便座にしたい」とねだっていた。父親は「それはもうサンタさんに言ったから、違うものを頼めよ。2つ便座が来たら困るだろう」と答えたという。どちらも「成熟した会話だな」と感心した。

「日本では、クリスマスはゲーム機本体をもらう日になっている。去年のプレゼントは何をもらったかも覚えていない。コロナでセレモニーが少なくなったとはいえ、モノに対する充足感はあっても、精神文化が未熟なところがある。例えば、親にストレートに感謝する日にしても良いのでは」

また、コロナ禍で忘年会などが減っている今、父親が家にいる時間が増えた。

「クリスマス前1週間はだいたい忘年会とか、『ミニスカサンタ』のところに行っちゃっている(笑い)。家族で過ごすことがクリスマスのセレモニーとして大事なこと。コロナ禍でそれが成立するだけでもいいのでは。『災い転じて福となす』です」

クリスマスの本質を見直す機会になってほしいと望んでいる。【近藤由美子】

◆パラダイス山元(やまもと)1962年(昭37)11月19日、札幌市生まれ。日大芸術学部美術学科卒。富士重工業(現・SUBARU)に入社し、カーデザイナーとして初代レガシィツーリングワゴンなどを手掛ける。退社後、東京パノラママンボボーイズを結成し、メジャーデビュー。サンタ、マンボミュージシャンのほか、会員制ギョーザ店経営、入浴剤ソムリエなど、幅広く活動している。