温暖化進む中、昨冬の降雪量最少から一転なぜ大雪?

大雪と低温をもたらした大気の流れ

<ニュースの教科書>

統計開始以来、最も気温が高く、降雪量は最少だった昨冬と一転して、この冬は大雪が続いています。気象庁によると、西日本の日本海側は平年の4・4倍で統計開始以来最多。東日本の日本海側も3・5倍で1986年(昭61)以来、35年ぶりの大雪です。気温も北日本では平年より3・8度低くて第3位の寒さ。地球温暖化が進む中、なぜなのでしょう。気象庁異常気象情報センターの中三川浩所長に聞きました。【中嶋文明】

-11月25日発表の3カ月予報(12~2月)では、気温、降雪量とも「ほぼ平年並み」でした。なのにこの寒さと大雪。何が起こっているのですか

偏西風が日本付近で南に蛇行し、東シベリアから日本にかけて寒気が入り込みやすくなっています。高緯度帯の偏西風の蛇行は西シベリアにブロッキング高気圧ができたことが、中緯度帯の偏西風の蛇行はラニーニャ現象が、それぞれ影響しています。

-ラニーニャの発生は9月に発表されていました

ラニーニャの発生で、低温傾向になりやすいのですが、一方で地球温暖化を考慮して、3カ月予報は「ほぼ平年並み」としました。ラニーニャが発生すると必ず寒くなるわけではなく、寒冬が4~5割、平年並みが3割。逆に暖冬になることも1~2割あります。

-高緯度帯の偏西風が蛇行している影響が大きいのですか

大きいです。ラニーニャは予測できますが、高緯度帯での偏西風の蛇行の予測は非常に難しいんです。この冬はヨーロッパで南に蛇行し、西シベリアで北に蛇行。日本付近で南に蛇行する「ユーラシアパターン」になっています。ヨーロッパで寒波、日本でも寒波になるときに現れやすいパターンです。

-確かにスペインのマドリードで積雪が50センチを超し、50年ぶりの大雪になったとニュースになりました。地球温暖化とこの気象は関係していますか。気候変動の影響で、北極の海氷面積は昨夏、355万平方キロまで縮小し、1980年の半分以下になったと騒がれました

統計的には、バレンツ海からカラ海の海氷面積が少ないと、ユーラシア大陸の中緯度帯で低温になりやすいという関係がみられますが、まだ研究段階です。もしかすると、この冬の低温と関係している可能性があるのかもしれませんが、現在のところ、何とも言えません。

-日本海の海面水温が高く、大量の水蒸気が供給されたと聞きます

平年より1度前後、高かったことと、冬の初めで海面水温が高い時期だったことで、雪雲が発達しました。同じ強さの寒気であれば、冬の終わりより海面水温がより高い冬の初めの方が、大雪になりやすくなります。

-平年より海面水温が高かったのは昨夏の猛暑のためですか

そこまでさかのぼることではなく、11月の気温が高く、平年より暖かい空気が日本海に流れ込んだことが影響しています。

-地球温暖化がさらに進むと、日本の冬はどうなりますか

予測モデルでは、日本の冬は他の季節より気温が上がりやすく、全国的に降雪量、積雪量は大きく減ると予測されています。ただ、海水の蒸発が進んで大気中の水蒸気量は増えますから、北陸の内陸部、寒冷の山岳地帯では大雪が増加するリスクが出てくるとみています。

◆ラニーニャ現象 ペルー沖から太平洋東部の海面水温が平年より低くなる現象。インドネシアやフィリピン周辺など太平洋西部の海面水温は上昇し、積乱雲が発達。上昇気流になって噴き出し、中国大陸で中緯度帯の偏西風を北に持ち上げる。その反動で偏西風は日本付近で南に蛇行するとされる。ペルー沖の海面水温が平年より高いときはエルニーニョ現象。ともに異常気象の要因になる。

◆ブロッキング高気圧 大気上層まで対流圏全層にわたる「背の高い」動きの遅い高気圧で、長期間、同じ場所にとどまる。偏西風を南北に大きく蛇行させ、寒波や熱波など異常気象を引き起こす。なぜできるのか、解明されていない。

◆暖冬化 地球温暖化で、暖冬傾向は強まっている。最低気温が0度未満の「冬日」は1940年代まで東京都心でも70日を超す年が珍しくなかったが、87年から28年連続で1ケタになった。冬日ゼロも89年など5回記録している。

昨冬も12月から1月にかけては1日もなかったが、今冬は23日までに11日観測している。積雪量は年によって変動があるが、長期的には減少しており、気象庁の「気候変動監視レポート」は東日本日本海側では10年あたり11・4%減少していると報告している。

温暖化に歯止めがかからないと、冬季五輪の開催は難しくなる。カナダの研究チームは、これまで冬季五輪が開催された20都市のうち、2080年代に雪上競技が開けるのは7都市になるという予測を発表している。

■田中角栄が説いた 三国峠がなかったら

この冬、大雪に見舞われている新潟県出身の田中角栄元首相には、「三国峠演説」と呼ばれる有名な演説があります。

「みなさん、この新潟と群馬の境にある三国峠を切り崩してしまう。そうすれば日本海の季節風は太平洋側に抜けて、越後に雪は降らなくなる。みんなが大雪に苦しむことはなくなるのであります。切り崩した土は日本海に持っていく。埋め立てて佐渡を陸続きにさせてしまえばいいのであります」

シベリアからの寒気は、日本海で水蒸気を供給されて雪雲になり、奥羽山脈や上信越の山にぶつかって雪を降らせます。水分を出し切って乾燥した空気は山を越え、太平洋側は晴天が広がります。もし、山がなかったら、日本海側、太平洋側の気候はどうなるのでしょう。

中三川所長は「日本海上で雪雲が形成されることは変わりません。雪雲が陸地にかかると、ある程度雪を降らせます。陸上では水蒸気が供給されないため、太平洋側は日本海側より若干少ないと思いますが、同じように雲に覆われて、雪や雨が降りやすくなります」と予測します。一方で、降雪量は少なくなるため、水資源に大きな影響が出ると考えられるそうです。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)81年入社。豪雪地の新潟・妙高高原で生まれ育った。妙高市役所に聞くと、ピークの91年には301万人のスキー客が訪れたが、昨冬は60万人。30年で5分の1になった。インバウンドに活路を求めて、オーストラリアなど外国人が4割を占めるようになったところに、襲ったコロナ。3メートル近い雪があってもスキー客がいない壊滅的な姿に、言葉が出ない。