“ながら聞き”が可能なポッドキャストが急成長中

朝日新聞ポッドキャストのMCを務める神田大介氏

<ニュースの教科書>

テレビやインターネット、動画配信など視覚コンテンツが飽和状態の中、“ながら聞き”が可能なネットによる音声コンテンツに注目が集まっています。中でもスマートフォンなどで配信するポッドキャストは急成長中。

既存のラジオ局などが進出する中、大手新聞社で積極的に展開しているのが朝日新聞社で「朝日新聞ポッドキャスト」を立ち上げました。番組MCとして出演する音声ディレクターの神田大介氏(45)に現状と狙いを聞きました。【竹村章】

朝日新聞ポッドキャストは昨年8月に始まった。海外特派員を含む記者が現場から伝える「ニュースの現場から」など3番組を、ローンチ(立ち上げる、の意味)。ニュースをAIが読み上げる「アルキキ」は5年前から始めているが、記者がニュースの裏側を長く語る番組は珍しい。ユーザーの支持を集めており、今年1月には累計100万DLを突破。3月には新番組「就活ポッドキャスト ニュースの使い方」もスタートするなど、音声コンテンツに力が入る。

3月5日に表彰式が行われた「JAPAN PODCAST AWARDS」でも、大賞は逃したものの、候補10作品にノミネートされた。

-なぜポッドキャストを始めたのですか

神田氏 私は17年に特派員だったイランから帰国しました。デジタルの編集をしていて、国際ニュースがネットで読まれないので何とかしろと言われまして…。「記者が書きたい記事」はたくさんありますが、「読者が読みたい記事」は少なかったんですね。

-何をしたのですか

神田氏 特派員が書きたい記事にルポがあります。評判がいい記事に、ベネズエラのルポがありました。悪政で経済破綻しており、がりがりにやせ細った母親の記事には反響がありました。でも、僕はどうやって取材したのかも知りたかった。特派員は新しいニュースを書くのが仕事で、編集後記的な記事はあまり書かない。そこで、僕が電話で記者に聞いて記事に。聞くと、空港はスリが多く安心なドライバーを選ばないと強盗に襲われる。スラム街に出向くと女ボスがいて、よく来たな、見ていけ、と言われたことなどを記事にしたんです。それが朝日デジタルでPVはもちろんですが、有料会員になっていただけた読者が、元のルポよりも3~4倍だったのです。それがポッドキャストの原形でした。

-立ち上げは1人で?

神田氏 8000円のマイクを家電量販店で購入するところから。ヘッドホンやマイクをパソコンにつなぐ機械なども買いました。

-スタッフは

神田氏 僕と音声キャップの2人が専従です。僕はMCのほか、どの記者を呼んでどんな番組にするのか、ラジオでいうプロデューサーと構成作家も担当しています。

-編集はしますか

神田氏 基本的に録音したものをそのまま流します。

-出演してもらう記者はどう選ぶのですか

神田氏 僕が興味をもった記事を書いた記者に出てもらったり、各出稿部に打診して決めてもらうことも。断られたことはありません。

-出演する記者によってネット記事のようなPVの違いは出ますか

神田氏 それが全部同じなんです。ポッドキャストには、ヤフトピとか検索の上位でクリックされるニュースとは違って導線がありません。SNSでの告知はしますが、朝日新聞で検索して、聞いてもらうしかないんです。

-100万DL突破を発表しましたが目指すのは

神田氏 とにかく若い人は朝日新聞を知りません。20~30代は朝日はおろか新聞を読んでない。とにかく読者との距離を縮めたい。今は新聞をスマホで読む時代。ライバルは読売、毎日ではなく、LINE、メルカリ、YouTubeなどで、スマホの奪い合い。LINEの友だちよりも強いメッセージがないと記事は読んでもらえません。

-朝日新聞ポッドキャストのユーザーの中心は30歳ですね

神田氏 僕が目指したいのは、フェイクニュースの撲滅。新聞でもファクトチェックはやっていますが、読まれなければ伝わらない。だから、まずは朝日新聞を知ってもらうためにやっています。ポッドキャストは基本、若い人が多く聴いていて、弊社も20~40代が6割でした。こんな媒体は朝日新聞にはありません。

-話すのが苦手な記者もいるのでは

神田氏 記者ですからコミュニケーションが苦手な人はいません。漫才でトークの達人といわれる矢野・兵動の兵動さんが、トークで大事なことを聞かれ「書くことや」と、答えています。書くことで頭の中が整理され、構成が自然と浮かんでくるそうです。これは記者が常に訓練を積んでいることです。

-紙面に書くので話せないことはあるのですか

神田氏 もうそんな時代ではありません。日経はネットに出した時点でスクープと聞きます。朝日も、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告が(2018年11月に)飛行機から降り立った瞬間を(スクープで)撮影しましたが、すぐに映像で配信をしました。

-ニュースとポッドキャストの親和性は高そうです

神田氏 新聞は人を多く配置して時間を使って深く取材しています。でもその氷山の一角しか記事にはならない。残りの氷山をポッドキャストにしたいと思っています。国内外に、面白い記者が約2000人いるのも強み。それと、これは自戒をこめて、コンテンツとしていいものを作れば読まれるというのは幻想です。どこにどのように流すのかという経路が大事。記者が取材して書いた新聞を読むのは70代の方かもしれませんが、同じ内容のポッドキャストは20~30代が多く聞いている。コンテンツが同じでもツール、経路が違えば通用すると思います。

-マネタイズは

神田氏 発表はまだですが、ちらほらCM出稿の話も来ています。個人的には、YouTubeやネットフリックスが音声広告をやりそうだということに期待しています。現在の音声CMはラジオが主流ですが、YouTube向けの音声CMが作られることで、弊社にも流れてくればと考えています。

-今後もMCを続けられますか

神田氏 多様性を大事にしているので、現在も、若い人にMCをお願いしています。出演してもらう記者も、男女比は意識していますし、もう少し生活に密着した話、やわらかい話も増やしたいと思っています。朝日には「大人の保健室」というコンテンツもあるのですが、僕がやると生臭い。将来的には女性MCを立てたいし、聴取層に合う、20代のMCにお願いしたいですね。

▼ポッドキャスト ネット上で音声ファイルを公開する仕組みで、アップル社のオーディオプレーヤー(ipod)と放送(broadcast)の造語。アップルやグーグルなどのポッドキャストアプリのほか、ボイシーやヒマラヤなどの音声配信プラットフォーム、アマゾンやSpotifyなどの音楽配信サービス、ニッポン放送のPoddogをはじめラジオ局独自の配信サービスもある。朝日新聞ポッドキャストは、アップル、グーグル、アマゾンミュージック、Spotifyなどのほか、朝日新聞デジタルで視聴できる。

▼JAPAN PODCAST AWARDS 19年秋に設立された優良なPodcastコンテンツを発掘し応援する日本初のアワード。今年で2回目。大賞のほか、ベストパーソナリティー賞、ベストエンタメ賞などの各賞がある。

◆竹村章(たけむら・あきら) 1987年入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。放送局などメディア関連の担当が長い。テレビの特集ページ「TV LIFE」を立ち上げたほか、現在も続く「ドラマグランプリ」の開設にかかわった。朝日新聞ポッドキャストでは、大久保真紀編集委員が「子どもへの性暴力」について語った回に感銘を受けた。個人的にはポッドキャストなどの広告収入が25年に420億円に達するというデータに注目している。