気象予報士 国家資格になり27年、NHKテレビ小説「おかえりモネ」舞台

ウエザーニューズ社で気象解説員を務める気象予報士の宇野沢達也氏

<ニュースの教科書>

NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」が17日からスタートします。清原果耶(19)演じるヒロインの職業は気象予報士。気象業務法の改正によって1994年(平6)から導入された国家資格です。それまで気象庁の予報官が一手に引き受けてきた予報業務が民間に開放されてから27年。気象予報士はどんな仕事を行い、予報の精度はどれほど上がり、私たちの生活にどのように関わっているのでしょうか。民間気象情報会社の最大手、ウェザーニューズ社(千葉市)を取材しました。【竹村章】

ウェザーニューズ社はJR海浜幕張駅前に立つ、幕張テクノガーデン内にある。オフィスは複数のフロアにあり、社員数は1049人、連結売上高は179億円(20年5月期)に上る。今春も50人近い新入社員が入社した。天気予報というと、新聞はもちろん、テレビやラジオ、ネットやアプリなどさまざまなツールで接している情報だ。94年までは気象庁の予報官が独占していたが、気象予報士の試験制度スタートとともに、予報業務は一般に開放されてきた。

ただ、私がインストールしている同社のアプリはもちろん無料。ヤフーの天気予報だってかなり充実している。そもそも民間気象会社はどのように稼ぎ、気象予報士は食べていける資格なのだろうか。そのあたりの疑問を、同社予報センターの気象予報士、宇野沢達也氏に聞いてみた。

-売上高の内訳を教えてください

宇野沢氏 主に2つの柱がありまして1つは航海気象。「船乗りの命を守りたい」との思いから創業しており、世界中の天気や潮の流れ、安全なルート、燃料節約のルートなどの情報を提供しています。もう1つは天気予報のアプリやサイトで、広告収入や有料会員の会費、いわゆるサブスクのサービスです。

-そもそもは企業に予報を提供してました

宇野沢氏 東京ドームの前は後楽園球場で屋根がありませんでした。雨だと中止になるので、お弁当屋さんは死活問題です。その当時の天気予報はまだ粗く、広範囲の予報でしたので、ピンポイント予報を請け負ってました。営業トークでは、気象庁はみんなの気象台、私どもはあなたの気象台と話していました。

-社員は気象予報士の資格が必要ですか

宇野沢氏 会社として予報業務をするために資格者は必要ですが、絶対条件ではありません。社員の中で資格保有者は170人ほど。予報に携わる人もいれば、IT開発や営業の人間もいます。24時間で天気予報をYouTubeでも配信していますが、気象キャスターも全員が資格保有者というわけでもありません。

-宇野沢さんはどんな仕事を

宇野沢氏 所属は予報センターで、気象解説員として解説をしています。あとは、今日明日の予報や週間予報、1カ月予報などの評価に携わっています。的中したのかどうか、外れた時はなぜ外れたのかを分析してフィードバックします。

-外れると人事査定が下がったりするのですか

宇野沢氏 それはありません。あくまでも精度の向上のためで、このパターンで外れたので次はこういう方針でいこうというもの。それぞれの予報士に得意、不得意があるので、不得意なパターンを提示して、今後に生かしてもらいます。

-予報の当たり外れのデータはあるのですか

宇野沢氏 気象庁も1カ月後に振り返るくらいですかね。他社はよくわかりませんが、毎日の結果をチェックしているのは弊社くらいかもしれません。

なかなか各社の天気予報を見比べる機会も少ないが、同社の予報センターにある画面には、常に、5社の全国各地の3時間ごとの予報が更新されている。見比べるとかなり予報が違うことに驚く。晴れだと思って洗濯物を外干しにした時に雨が降るとショックも大きい。同社では雨が降るかどうか、確率90%以上キープを打ち出しているという。

-予報が外れる要因というのは

宇野沢氏 西から東に天気が動くのはあたりやすいのですが、南北が難しい。梅雨前線が南に停滞しているとき、ちょっと北にずれるだけで雨のエリアが変わります。夏のゲリラ豪雨も発生する場所は外れやすいですね。

-雨雲レーダーが雲の動きを捉えるのでは

宇野沢氏 雨雲は突発的に、急速に発生します。レーダーは雲が上空2キロ以上じゃないと映らないんです。それ以下の高さで発生した雲は捉えられない。そこで、弊社は会員の皆さんから送っていただくリポートを生かしています。雲の動画や写真を送ってもらうほか「ポツポツ」「ザーザー」といった選択肢から会員が体感した雨の降り方を選んでもらいます。1日に18万件の報告が集まることもあり、予報の精度を上げていこうと思っています。

-民間の気象会社は気象庁のデータをもとに予報する?

宇野沢氏 気象庁のデータを気象業務支援センターを通じ提供を受けています。それ以外にも、独自に1万3000カ所の観測網も構築しています。例えば、気象庁のアメダスは千葉と船橋にはあるのですが、ここ幕張にはないので、幕張周辺に大雨が降ると観測はできません。それを独自の観測網や会員のリポートでカバー。それと、アメダスはあくまでも降水量なので、雨も雪も同じです。でも、首都圏では雨と雪とでは影響の差が大きいので、別の計り方を独自に行っています。

-予報が当たることが大切なのですね

宇野沢氏 「船乗りの命を守りたい」というのが創業者の会社を興した思いです。自然災害の犠牲者を少しでも減らすために情報を発信しています。何か起きた時に、避難をしてくださいといっても、普段の信頼関係がなければ信じてもらえません。だからこそ、精度の高い予報を行い、信頼してもらえることが大切。日々の積み重ねです。

-地球温暖化の影響なのか異常気象が叫ばれ、集中豪雨での被害も増えています

宇野沢氏 ニュースでも使われる線状降水帯の予測は難しいとされてます。より具体的にこの場所でというのはまだ時間がかかるのでは。でも、球磨川(熊本)の氾濫の時は可能性があるということを伝えました。警報、注意報は気象庁しか出せません。契約している企業などに提供するのは問題ありませんが、一般に出す予報は法律でしばられています。警報レベルという言葉もグレー。「気象庁の発表基準によるとこのままいけば警報を出す雨量になります」というような言い方になります。台風も同じで、進路予測はできません。いろいろなコンピューターのシミュレーションの提示はできますが、どの社がどう予測しているのか詳細な提示はできません。

-予報業務が民間に開放されて変わったことは

宇野沢氏 細かいサービスができるようになりました。気象リスクは軽減すれば安全性は高まるし、そのリスクを利用することで事業もうまくいき利益も上がる。例えば、弊社ではコンビニと契約しており、天気はもちろん気温や湿度のデータから、売れ筋商品の情報も提供しています。気温が上がるとアイスクリームとか飲料が売れたり、台風がくるとカップラーメンが売れるのはわかりやすいですが、天気によって、例えば絹豆腐の売り上げも変わってきます。そんな、チャンスロスを減らすお手伝いもしています。

-最後に減災プロジェクトリーダーとしての仕事を教えてください

宇野沢氏 防災は上意下達型で、気象庁が警報を出し地方自治体が避難勧告などを出します。ただ、台風が来るときは来るし、大雨が来るときは降る。自助、共助、公助の中で、我々は、自助、共助を広めたい。川があふれそうだという会員からのリポートを伝えることで川には近づかないし、そんな情報を蓄積することで被害も減らせると考えています。

◆気象予報士試験 1994年(平6)にスタート。第1回は8月28日に行われ、受験者数は2777人、合格者は500人で合格率は18・0%だった。その後の合格率は5%前後で推移。試験は、学科一般、学科専門のほか実技も。今年1月に行われた試験の受験者数は2616人、合格者は146人で合格率は5・6%。55回の試験の延べ合格者数は1万1325人で合格率は5・5%。13年のデータによると、合格者の男女比率は男性87・8%女性12・2%で、民間の気象会社で働く人は7・6%、報道機関は3・3%、製造関係は9・4%、気象庁5・3%などとなっている。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。放送局などメディア関連の担当が長い。テレビ特集ページ「TV LIFE」を立ち上げたほか、現在も続く「ドラマグランプリ」の創設にかかわった。気象予報士試験は、気象キャスターの森田正光さんが第1回の試験を受けた際に取材。それも最初は不合格だったので難関な試験だったことを実感した。森田さんはウェザーマップ社を設立したほか、現在も現役で活躍していることに頭が下がる。