感染力強いコロナ変異株「1密でもダメ」ワクチン摂取率拡大に期待

懸念される変異株と変異内容

<ニュースの教科書>

英国由来の変異株やインド由来の変異株、「VOC」と呼ばれる「懸念される変異株」が5種類も国内に侵入し、小池百合子都知事ではありませんが「感染爆発の火種はそこかしこにあると言っても言い過ぎではない」状況になっています。今日24日から東京、大阪で大規模接種が始まります。感染拡大のスピードが恐ろしく速い変異株と後手後手のワクチン接種。私たちはどうしたらいいのでしょうか。今日は変異株を特集します。

■英国型より怖いインド型?

新型コロナ担当の西村康稔経済再生担当相は「屋外だから大丈夫ということはありません。ひとつの密だけでも感染が広がっているケースがあります」と呼びかけ、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「新しいフェーズに入った」と訴えます。

この春、関西で急拡大した英国型の変異株は、首都圏でも急速に広がり、国立感染症研究所(感染研)は関西ではほぼ100%、首都圏でも9割以上が従来株から置き換わったとみています。感染研の鈴木基感染症疫学センター長は今月8日行われた変異株に関する緊急シンポジウムで「従来と同じ対策では立ち行かない新しいウイルスが出てきていると考えなくてはいけない」と話していました。

そこに今度はインド型の変異株です。2月には新規感染者が1万人を切っていたインドは4月5日に10万人を突破すると、4月22日には30万人、5月1日には40万人と爆発的に感染が拡大しました。国外でも世界最初のワクチン接種で新規感染者数をピーク時の27分の1にまで抑え込んだ英国もインド型による感染再拡大が懸念されています。ジョンソン首相は「(英国型より)感染力が強いとみられる。深刻な混乱をもたらすかもしれない」と警戒を訴え、6月21日に予定していたロックダウンの全面解除が難しくなる恐れがあると表明しました。

日本でも4月20日に初めて見つかり、今月17日までにインド型の感染者は171人。空港検疫で分かったインドなどからの入国者が大半ですが、国内でも11人から見つかり、感染研は12日、インド型をVOI(注目すべき変異株)からVOCに引き上げました。インド型について松本哲哉国際医療福祉大教授(感染症学)は「今後の脅威」とし、尾身会長は「イギリス株を凌駕(りょうが)していくことは可能性としてあり得る」と話しています。

■英国型 死亡リスク1・6倍

日本で今、VOCに分類されている変異株は英国型、南アフリカ型、ブラジル型、フィリピン型、インド型の5つです。インド型以外にみられる変異はN501YとE484K。新型コロナウイルスは1273個のアミノ酸でできていて、その配列はすべて分かっています。501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わったものがN501Y、484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に変化したものがE484Kです。

新型コロナウイルスはスパイクタンパク質と呼ばれる突起が人間の鼻や口、のどや肺の細胞の表面にあるタンパク質(ACE受容体)に取り付いて細胞内に入ります。自力では増殖できないウイルスは、人間の細胞を利用して自分の遺伝情報(RNA)をコピーすることで数を増やそうとします。大量にコピーするうちに起こったミスコピーが変異です。

宮坂昌之大阪大名誉教授(免疫学)は新型コロナウイルスの変異について「インフルエンザウイルスなどとは違って変異ができても修復するので、変異の度合いは決して高くない。月に2個程度」と話します。ただ、感染が広がれば広がるほど、コピー枚数は増えてミスコピーも起こります。問題となるのは<1>伝播(でんぱ)力(感染力が増し、広がりやすくなる)<2>病原性(重症化したり致死率が上がる)<3>免疫逃避(ワクチンが効きにくくなったり、再感染する)に関する部分のミスコピーです。

新型コロナウイルスの塩基配列、アミノ酸配列はすべて解析され、319番目から541番目までのアミノ酸は、スパイクタンパク質と人間の細胞の結合力にかかわる部分であることが分かっています。インド型(E484Q、L452R)を含め、この部分の変異で、<1><2><3>が起こっているのではないかと懸念されているのです。

今月11日までに世界149カ国・地域で発生が報告されている英国型の場合、<1>は地域によって違いますが、従来株の1・21~1・68倍。感染研は平均1・32倍と推定しています。<2>については感染研は従来株の1・4倍の可能性があるとしていますが、死亡リスクは1・64倍高まるという英国の大学の発表もあります。<3>は起きておらず、ワクチンは有効です。

英国型以外の分析はこれからです。感染研はインド型について「少なくとも英国型と同程度の伝播性がある。重症度、ワクチンの効果に関する十分な情報は得られていない」としています。

■ワクチン接種5割で効果か

昨年12月25日、空港検疫で英国型が見つかり、12月28日からすべての国・地域からの外国人の新規入国が一時停止されました。しかし、12月28日に南アフリカ型、1月6日にブラジル型、2月25日にフィリピン型、4月20日にインド型と、変異株は次々と侵入しています。宮坂名誉教授は「一番大事なのは、この国に入れないようにすること。一定期間隔離して陰性だったら初めて動いてもらうようにしなければいけないが、中途半端になっている」と話します。入国者は14日間、自宅やホテルに自主隔離し、健康状態や位置情報を送信しなければいけませんが、外出したりする人が1日最大300人いたと厚労省は発表しています。

横浜市立大の研究によると、ワクチンは変異株に対しても有効です。1回の接種では従来株に比べて有効性は落ちますが、2回接種すればどの変異株に対しても90%以上の効果が期待できそうです。宮坂名誉教授は外国の例からワクチンについて「3~4割が2回の接種が終えないと、感染者の上昇は止まらない。5割を超えると、グッと下がってくる」と見ています。英国型がまん延したイスラエルは1月には1万を超える新規感染者が出ていましたが、4月には国民の半数以上が2回の接種を終え、100人前後にまで激減させました。

菅義偉首相は高齢者の接種を7月末までに完了させると大号令をかけ、今日から大規模接種センターでの接種もスタートします。仮に高齢者3600万人全員が2回の接種を無事終えたとしても、1億2557万人の28・6%です。医療従事者480万人全員を合わせて32・4%になりますが、ワクチンを忌避する人もいます。7月末に3割に達するかどうかは微妙で、感染の波は収まらないと考えた方が良さそうです。宮坂名誉教授は「これまでは『3密さえ避ければ』だったが、『1密でもダメかもしれない』ぐらいに思った方がいいかもしれない」と話しています。

◆中和抗体 抗体はウイルスなどに感染したり、ワクチンを接種した後にできるタンパク質。その中で中和抗体は異物に結合して感染力を失わせる「中和作用」を持ち、細胞への侵入を防ぐ。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)81年入社。優先扱いを受けようとする上級国民が出てきたり、徹夜で予約の順番待ちをするお年寄りの行列ができたため整理券を配布したところ、未明に並んだ人から抗議の声が上がって、警官が駆けつける騒動になったり、ワクチンを巡る悲喜劇が全国で起きています。一番悪いのはワクチン敗戦を招いた国なのに、今度は「高齢者接種7月完了」の号令をかけ、自治体は大混乱しています。オリンピック開幕まで2カ月。どう考えても「新型コロナウイルスに打ち勝った証し」としての祭典は無理です。