ポッドキャストからラジオ進出「東京ポッド許可局」面白さを自分たちで発信

TBSラジオ「東京ポッド許可局」の出演者。左からサンキュータツオ、マキタスポーツ、プチ鹿島(撮影・中島郁夫)

<オトナのラジオ暮らし>

スマートフォンで音声コンテンツを楽しめる「ポッドキャスト」。同じ音声メディア、ラジオとの関係は? ポッドキャストからラジオに進出した芸人3人と、ポッドキャスト戦略を推進するラジオ局の担当者に聞いた。【取材・構成=秋山惣一郎】

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2008年(平20)、暇をもてあました3人の芸人、マキタスポーツ(51)、プチ鹿島(51)、サンキュータツオ(44)が、喫茶店に集まって、よしなしごとを語り合う「東京ポッド許可局」のポッドキャスト配信を開始した。名もない芸人の「雑談」は人気を集め、13年からTBSラジオの番組に「昇格」。3人も売れっ子となった。ポッドキャスト発の3人は今、この時代に何を思うのか。

 

-始めたきっかけは

プチ鹿島 当時の僕らは、トークに自信はあったけど、仕事がないという状況で。だったら自分たちのおもしろさを自分たちで発信しようと考えたんです。承認欲求というか、「こんなにおもしろい人がいますよ」と知って欲しかった。業界向けのプレゼンですね。

マキタスポーツ メディアに呼ばれた時の練習台という感覚でした。話してるネタは今までにない、他とは違うという自信があったけど名前は売れてなかったんで、内容勝負で世間に見つけていただければ、というのは、ありました。

サンキュータツオ 当時のポッドキャストは、毎日聴く英会話みたいな番組が多くて、芸人が本腰入れて作るものは少なかった。で、とりあえずやってみようと始めた感じですかね。

-すぐに人気となります

鹿島 始めた年の暮れ、タツオの車でマキタさんちへ行ってM-1グランプリを見ながら、熱く語り合ったんです。それをすぐに配信した。芸人によるお笑い語りって、今やテレビでもやってますが、当時は珍しかった。あれで伸びました。

タツオ 芸人が芸人を批評しちゃいけないという暗黙のルールがありましたからね。

マキタ お笑いについて語ることに、コンテンツとしてのニーズがあるなんて、考えてもなかったです。

-11年には東京・日比谷公会堂でのイベントを開催、2000人を集めます

タツオ 漫才コンビでも結成3年目に2000人集めるって、あり得ないことです。時代に選ばれているというか、僕らのあずかり知らぬところで、話題になってるんだと感じました。

鹿島 これも業界向けプレゼンのひとつでしたね。日比谷に2000人集めれば関係者に伝わるだろう、と。

タツオ 一方で、配信を続けるかどうか、選択を迫られたのも、このころでした。マキタさんが俳優の仕事で忙しくなって3人のスケジュールを合わせるのが難しくなった。

マキタ 夜中にやったね。4本撮りとか。

タツオ いくら人気が出ても、お金が発生しないポッドキャストは、事務所の理解を得られない。正式な「仕事」にするしかなかった。でも「オールナイトニッポン」(ニッポン放送)のオーディションに落ちて、もうやめようか、と。

鹿島 あのタイミングでTBSラジオに拾ってもらえなかったら、もう無理でした。救われましたね。

-ラジオという既存のメディアに乗らず、ポッドキャストを収益化して続ける道もあったのでは

タツオ イベントで2000人集めても収支はプラマイゼロ。ポッドキャストはお金にならなかった。

マキタ 格好つけた言い方をしますが、僕らはお金のためにやっていたわけじゃないんです。スポンサーがつけば、いろいろ気を使って、自由な空気感が失われてたと思うんですね。ビジネス優先でやってたら、今のような感じにはならなかったと思います。

-ポッドキャストという新しいメディアを使った先進性を売り物に、という考えは

鹿島 「アメトーーク」風に言うなら「ポッドキャスト芸人」ですか。でも、そもそも僕とマキタさんは、ポッドキャストを知らなかった。今の僕らだったら、オンラインサロンにつなげるとか、既存のメディアに乗らずに自活できたかもしれない。10年早かったですね。

-ラジオ番組となった今もポッドキャストでの配信は続けています

マキタ 僕らはそれぞれ芸人としての活動がある「ユニット」です。3人が集まれる「許可局」という場所だけは維持しようというのは、ありますね。

タツオ 今はラジコ、ラジオクラウドなどでも聴いてもらえる。「許可局」にたどりついてくれればメディアは何でもいいよね、と考えています。

▼東京ポッド許可局は毎週日曜午前2時~TBSラジオで放送。ポッドキャスト、ラジオクラウド、許可局アプリで放送の一部を配信。

ニッポン放送は、ポッドキャスト番組の制作、配信に注力している。優れたポッドキャスト番組に授与する「PODCAST AWARDS」も創設。個人が作る番組の発掘にも熱心だ。ラジオ局が音声配信の何に期待しているのか。同社のキーパーソン2人が語る。

◆澤田真吾・同社デジタルビジネスプロデューサー

2018年(平30)、ポッドキャストの実情を取材に行った米国では、スマートフォンの普及で、かなり一般的に聴かれていました。サービスを提供する企業の新規参入も相次いで、ビジネスの手法も確立されていた。日本では、ラジオ局が番組宣伝のために配信するケースが多く、米国ほどの盛り上がりはなかった。それでも、この流れは日本にも来る。ビジネスにつなげたい、と考えました。

ラジオとの競合は、心配していません。ニッポン放送は音声コンテンツを作る会社です。ラジオだけで見れば、聴取時間を奪われるかもしれないが、多様なメディアを通じてコンテンツを作り、届けることが、新たな事業の柱ともなりうるし、ラジオへの相乗効果も期待できます。

収益化は、広告が中心です。ダウンロード数は昨年7月で月間500万だったが、今年4月実績で800万。広告枠は3000万ある。いかにスポンサーに魅力を伝え、広告出稿につなげるかという段階です。

企業のブランド向上を狙った番組、いわゆるブランデッド・コンテンツやオーディオムービーなどの番組作りも各局で始まっています。課金のシステムも整備されていくでしょう。昨年6月、ニッポン放送はポッドキャストアプリ「poddog」を立ち上げました。約300番組、登録者は数万といったところです。

今、音声配信の市場は15億円程度ですが、25年には450億円という予測もある。経費面でまだまだ課題はあって、今は投資の段階です。しかし将来的には、大きなビジネスになると考えています。

◆岩永史弥・PODCAST AWARDS実行委員  

ポッドキャストには、ラジオ局が配信するものから、個人で制作しているものまで膨大な数の音声コンテンツがあります。リスナーからは「何を聴けばいいのか分からない」、配信している側からは「見つけてもらえない」という課題があった。両者がつながるきっかけ作りが、AWARDS創設の動機です。

昨年の第1回の大賞「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」は、知る人ぞ知る番組でしたが、大賞受賞でリスナーが飛躍的に増えたそうです。認知度は低いが、質の高い番組のフックアップという目的を果たせたと思う。今年の大賞「味な副音声~voice of food~」も質の高さと深さ、マニアックさが際立つポッドキャストらしい番組です。「入り口」としても最適な番組です。

ポッドキャストの魅力は、さまざまなジャンルの有象無象ともいえる番組が、ひとつのプラットフォームにあること。自分に合う番組を見つけ、音声コンテンツに触れる機会を増やして欲しいですね。