「北海道・北東北の縄文遺跡群」世界遺産へ古代に学ぶ持続可能社会のあり方

遺跡群の冊子を手にする北の縄文道民会議・戎谷事務局長(撮影・奥村晶治)

北海道と東北3県(青森、岩手、秋田)に点在する「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、16日から行われる世界遺産委員会で「世界文化遺産」に登録される見通しだ。

道内での世界遺産は05年の自然遺産「知床」に続き2例目。推進活動を続けてきた「北海道・北東北の縄文遺跡群の世界遺産登録をめざす道民会議(北の縄文道民会議)」の戎谷侑男事務局長(75)に、世界遺産登録の意義と価値、今後について聞いた。【聞き手=奥村晶治】

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世界遺産への夢がもうすぐ実現する。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関が5月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界文化遺産に登録するよう勧告し、今月16~31日にオンライン開催される世界遺産委員会で正式に決まる見通しだ。

-長きにわたる取り組みが今、実ろうとしている

戎谷氏 想像を絶するほどうれしい話。今回の世界遺産委員会では、「奄美大島・徳之島、沖縄島北部及び西表島」の自然遺産とともに決まるのではと思っています。南と北で、大きなうねりが始まろうとしている。日本にとっても明るいニュースです。

-世界文化遺産になる意義と価値は

戎谷氏 縄文文化は自然と共生しながら1万年もの長きにわたって続いた日本独自の文化。狩猟、漁労、採集を基盤とし、無駄に余分なものを捕らず、争いのない平和な時代だったと思います。いま世界中で推し進められている持続可能(サスティナビリティー)な社会を、すでに実現していたという意味では驚くべきこと。縄文文化の持つ精神性や畏敬の念など、私たちがいま学ぶべきことはたくさんあると考えています。

-北海道の新たな観光資源としての期待も高まるのでは

戎谷氏 北海道の遺跡群は函館、洞爺、伊達、千歳に点在し、この点と点を結んだルートを「縄文街道」として期待しています。間違いなく地域の活性化につながります。ほかにも北海道には、登録されていない貴重な遺跡が礼文やオホーツク、余市や小樽などにもあります。この機会に「縄文北海道」として一大観光振興地域に発展していくかもしれません。2030年に新幹線が札幌まで延伸されると、さらに可能性が広がっていくと思います。

-これからの課題、準備すべきことなどは

戎谷氏 まずは観光地としての受け入れ態勢を整えなければいけません。駐車場や休憩場(トイレ)、渋滞を緩和する迂回(うかい)路の整備、それにお土産店なども必要ですね。何十万人もの観光客が訪れますから。皮肉なことに、このコロナ禍で、準備期間ができているという前向きな捉え方もできます。

-地域の活性化やビジネスチャンスにつながる可能性は

戎谷氏 すでに飲食店では縄文カレーや鍋、スイーツ、弁当などが販売されています。縄文をキーワードにしたTシャツやトートバッグなど各種グッズの販売も好調に伸びています。「世界遺産」というこの4文字が、どれだけ地域に財をもたらすか。これは私の持論ですが、発掘されたものは偶然ではなく、必然的に、会いたくて、見てほしくて出てきているのだと思います。発掘された遺跡などはしまっておくのではなく、できるだけ「見える化」してほしいというのが私の願いです。縄文文化という日本の、世界の宝を通じ、みんなで盛り上がっていければと思います。

◆戎谷侑男(えびすたに・ゆきお)1946年(昭21)3月24日、滝川市生まれ。北海道中央バスグループの旅行会社シィービーツアーズ代表を経て、今年4月から北海道中央バス観光事業推進本部副部長兼シィービーツアーズカンパニーディレクターに就任。たきかわ観光協会副会長、NPO法人北海道遺産協議会理事などを務める。

◆北海道・北東北遺跡群 約1万5000~2400年前の縄文時代の遺跡で、青森市の三内丸山遺跡など北海道、青森、岩手、秋田にある集落や墓地、祭祀(さいし)儀礼の場である環状列石など17の遺跡で構成されている。北海道は「垣ノ島遺跡」「大船遺跡」(ともに函館市)、「高砂貝塚」「入江貝塚」(ともに洞爺湖町)、「北黄金貝塚」(伊達市)、「キウス周堤墓群」(千歳市)の6遺跡。縄文時代は、ヨーロッパでは、旧石器時代から鉄器時代、古代ローマ帝国成立までの時代に相当する。

<世界遺産への歩み>

02年 北海道、青森、岩手、秋田の4知事サミットで「北の縄文文化回廊づくり構想」が提唱

07年 4道県で「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産推進を確認

08年 「北の縄文文化を発信する会」が発足

12年 「北海道・北東北の縄文遺跡群の世界遺産登録をめざす道民会議」結成

19年 文化庁の文化審議会が「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界文化遺産の推薦候補に決定

21年 世界遺産委員会の諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)が世界遺産一覧表への「記載」適当と勧告

◆世界遺産 72年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づき、78年から登録が始まった。ガラパゴス諸島(エクアドル)イエローストン国立公園(米国)などが第1号。日本は93年の「白神山地」「屋久島」「法隆寺地域の仏教建造物」「姫路城」から登録が始まった。現登録数は世界で1121件(文化869件、自然213件、複合39件)で日本は23件。