世帯視聴率と個人視聴率、スポンサーは番組ターゲット層のコア視聴率を重視

ある番組の視聴率(イメージ)

<ニュースの教科書>

開幕前からトラブル続きの東京オリンピック(五輪)だったが、日本代表の金メダルラッシュもあり、テレビ中継は高視聴率をマークしている。NHKが生中継した開会式の平均世帯視聴率は56・4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。これは64年の東京大会の61・2%(関東地区)に迫る数字で、五輪人気をあらためて認識した形となった。でも、この数字は世帯視聴率。ネットニュースでも、いろいろ話題になった数値だ。ということで、今回は世帯視聴率と個人視聴率について詳しく解説します。

まずは写真の表を見てもらいたい。ビデオリサーチ社(以下ビ社)がメディア向けに発行した冊子に掲載された、ある番組をイメージした視聴率表だ。世帯視聴率の時代は、数値は1つでわかりやすかった。でも、個人視聴率の時代は、このようにたくさんの数字が示される。世帯視聴率は14・9%。個人視聴率の中の個人全体は8・1%だが、M1は2・3%、F3は15・3%と、同じ番組にもかかわらず数値には大きな差が出る。これが個人視聴率だ。ビ社は20年4月から、個人視聴率の積極的な広報対応を開始したが、公表するのは個人全体のみ。各層の詳細な数字は、テレビ局が公表しないかぎり、表には出てこない。

ここで、ネットニュースで話題となったコア視聴率についての説明が必要だろう。コアとは核、中心となる部分という意味。視聴率においては、その番組側が見てほしいターゲット層を指す。現在は、各テレビ局が営業ツールとしてこの数字を使用しているが、各局によって年代の設定も微妙に違うし、呼び名も異なる。ただ、いわゆるコア視聴率というのは、一般的にT層とF1~F2層、M1~M2層を指す場合が多い。簡単にいうと、中学生以上から50歳未満の視聴者を、テレビ局のスポンサーは重視しているということだ。

だからこそ、世帯視聴率の数字が悪くても、このコアの数字がよければ番組的には成功という評価になるかもしれないし、逆に世帯の数字がいくらよくても、コアの数字が低ければ番組は打ち切りになることもありえる。TBS系「噂の東京マガジン」やテレビ朝日系「アタック25」の番組終了などは、この後者の論理が働いたとみられている。ただ、テレビ局はコアの数字を公表しないので、実際のところはわからない。

そもそも、個人視聴率の歴史はけっこう古い。ビ社はPM(ピープルメーター)という誰が見ているか判定できる機械を、関東地区では1997年(平9)に導入。各層の数字が毎日出るようになり、例えば「フジテレビの月9はF1層に強い」などと業界では使われるようになった。なぜ、個人の数字を求めたかというと、世帯視聴率だと、その家庭の中の誰が見ていたかまではわからないから。テレビに出稿するスポンサーとしては、的確なターゲットに広告を流したい。そんな要望から、個人視聴率は生まれた。

ビ社は「視聴率を使われるのは、主にテレビ局、広告会社、広告主。ビジネスに使われる指標としては、世帯から個人にシフトしています」と説明する。だからといって世帯視聴率に意味がないわけでもない。「今回の東京五輪の開会式のように、過去の時系列と比較するのに意味はありますし、五輪のように家族全員で見るような、共視聴のデータを捉えるのに世帯視聴率は必要だと思います」。ビ社は世帯視聴率の測定をそのデータの必要性から継続し、今後は世帯と個人全体の2本立てが続きそうだ。

個人視聴率とともに、数字が報じられるようになったのが視聴人数だ。ビ社のHPには、週間高世帯視聴率とともに、タイムシフト視聴率(世帯)、平均視聴人数、平均視聴人数(タイムシフト、世帯)の4つのアイコンが並ぶ。

視聴人数には、平均視聴人数と到達人数の2種類がある。ビ社によると、平均視聴人数は、番組の放送時間を通じて、平均的にどれだけの人が視聴したのかを推計した値。到達人数は、個人全体4歳以上が1分以上の番組を見た場合に、どれだけの人が視聴したのか(到達したのか)を推計した値だ。いずれも、全国32地区の個人全体4歳以上の視聴率を推計人口マスタに掛け合わせて推計している。推計人口マスタとは、住民基本台帳や国勢調査により推計した人口、世帯数にビ社が実施している別調査から推計した自家用テレビ保有率を乗じたものを指す。

さらに、97年に関東地区で始まった個人視聴率の測定が、その後全国に次々と拡大。今年10月には、山梨、福井などの5地区も関東地区と同様の新視聴率調査が開始されることになり、これで、日本全国の全放送エリアにあたる32地区で、個人視聴率などのデータが測定されることになった。これまでも、全国の視聴人数の測定のために山梨などでもPMによる調査は行われていたが、今年10月以降は、全国の視聴人数が正式に出ることになる。

この視聴人数で驚かされたのが、昨年の日本テレビ系「24時間テレビ」だった。到達人数が8145万人と発表されたからだ。世帯視聴率は15・5%(関東地区)、個人全体は8・8%(同)、平均視聴人数(全国)は1015万人だったが、8000万超という数字は驚異的。今回の東京五輪だと、NHKが中継し、世帯は56・4%だった開会式の到達人数は7061万人、平均は4362万人だった。

到達人数だと「24時間テレビ」の方が上回るが、平均だと五輪開会式の方が、4倍以上の数値になる。これは、放送時間が長い方が、必然的に番組に接する機会が長くなるからだ。さらに、NHKはほぼ全国至る所で視聴可能だが、民放局は系列によって、視聴できない地区もある。NHKは、ビ社の調査地区の全国32地区で視聴されるが、日本テレビ系は28局、テレビ朝日系は24局と差がある。

今後は、世帯視聴率、個人視聴率に加えて、平均人数や到達人数が世の中に公式に出回ることになる。それぞれの数字に意味があり、その数字の特性を理解した上で数字を比較する必要がありそうだ。

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【解説】そもそも視聴率とは民間企業のための営業ツールだ。民放なので、スポンサーが求める視聴者層を狙うことは当然だろう。本来は、視聴者にはあまり関係ない数字なのだ。

ところが、歴史的には先の東京五輪も含めNHK紅白歌合戦など、視聴率はニュースになってきた。63年の大みそかに放送された紅白の世帯視聴率は81・4%(関東地区)、64年の東京五輪女子バレーは66・8%(同)。この数字から昭和のテレビの前で家族全員が熱狂する情景が分かる。

だが、時代は家族から個人となり、ネット広告費がテレビを上回ったのは19年のこと。ネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、民放にとっては従来のケーブルテレビやCSに加えて競合も増えた。

だからこそコア視聴率なる数字も活用されている。民放は生き残るために必死なのだ。ただ、仮にこのコアが13歳から49歳までとすると、総務省が発表している人口推計から計算すると、実に約56%以上もの人がコア層からはじかれることになる。

忘れてならないのは、電波は国民の財産だということ。ネットインフラの整備が進んだとはいえ、電波は大量のデータを1度にあまねく広く伝えることが可能だ。NHKも含めて、民放局は電波利用料を国に支払ってはいるが、キー局でも金額は数億円で、100億円以上を負担する携帯事業者と比べると格安だ。それは、放送局は報道機関であり、放送文化を担っているから。コア視聴率の議論の際には、この点を忘れないで欲しい。【放送担当=竹村章】

◆竹村章(たけむら・あきら) 1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。放送局などメディア関連の担当が長い。テレビの特集ページ「TV LIFE」や現在も続く「ドラマグランプリ」の開設にかかわった。その昔、視聴率はテレビ局に聞いていたが、ある時「なぜ、悪い数字を教えないといけないのか」と拒否された記憶がある。この経験から、視聴率を斜めから見る癖がついている。