双子パンダで注目の上野動物園の今と、パンダについて聞いてみた

上野動物園の双子のジャイアントパンダ。33日齢(東京動物園協会提供)

<ニュースの教科書>

双子のジャイアントパンダの誕生で、東京・恩賜上野動物園(台東区)が再び注目を集めています。来年3月で開園から140周年。誰にでもおなじみの日本最初の動物園ですが、意外に足が遠ざかっていませんか? 知っているようで知らない、日本を代表する動物園の今、そしてパンダについて、教育普及課の大橋直哉課長(47)に聞きました。【聞き手・久保勇人】

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【動物園の今】

-上野動物園は東園、西園合わせて総面積約14万4000平方メートル(うち東園6万9000平方メートル)です。今、どのくらいの生き物を飼育していますか

大橋さん 大体300種3000点ほどです。若干、減る傾向です。1つ1つのケージも大きくなっており、動物福祉の観点から、昔ほど詰め込むということにはなっていません。新しい施設ができると、複数の動物舎をなくして種類が減ってしまう傾向もあります。

-昨年10月にはアジアゾウの赤ちゃん、アルン(雄)も誕生しました。1年間でどのくらい誕生し、死んでいますか

大橋さん 2019年度は52種646点が繁殖しました。また、同じくらい死ぬイメージです。(動物の移動については)野生動物を買うことはほとんどできないので、動物園同士の交換が基本です。

-エサはどのくらい必要ですか

大橋さん 総量では1日当たり計1400キロくらいです。例えば、青草は1日300キロくらいを毎日購入。アジなら1日30キロくらい使っています。子育て中のパンダにタケノコをあげたいと思っても、季節外れで困ることなどあります。

-スタッフは何人くらいですか

大橋さん 動物関係の部署は飼育展示課と教育普及課で、約100人くらいが動物に携わっています。動物病院は5人。ゾウのように5~6人でチームを組む場合もありますが、基本は2人1組で、相方が休みの時は2人分の仕事をするパターンが多いです。

-コロナ禍で、昨年度は計約6カ月間休園。入園者数は一昨年度の計約348万人に対し、昨年度は計約53万人で、約85%減。今年度も6月4日に5カ月ぶりに再開されましたが、事前予約制で1日2000人を上限としています。対策は

大橋さん 基本的方針は、コロナを中に入れない、です。飼育スタッフはなかなか替えがききません。感染者を出さないことを最優先に、組織内でも班を完全に分けて、接触しない、片方がダウンしても片方でなんとかなるという体制をずっとやってきました。大規模な感染は園内で発生していません。運営費は、飼育に関しては動物に影響が出ないよう、都が交付してくれていますが、動物園は多くの方に来ていただき、動物を知ってもらうのが大きな意義。それが果たせないのは……。

-長い休園の動物への影響は。海外ではペットなどの感染例も報告されています

大橋さん 休園はそんなに影響はなかったという気がします。動物はお客さんと自分たちのテリトリーを明確に分けていることもあります。感染については、例えば類人猿、ゴリラなどの作業では手袋やマスクをつけたりしています。米国ではワクチンを打ったりしているみたいです。日本はそこまでではないですが、食肉目、霊長目に関しては感染の心配はあると考えています。

-猛暑、ゲリラ豪雨などへの対策は。また動物にも夏バテなどありますか

大橋さん 昔の感覚で作業しないようにしています。例えば、熱帯の動物なら暑くても平気だろうという感覚が昔はありましたが、最近はそれをしのぐ暑さもあるので、動物の様子をみながら個別に対応する、常識にとらわれず判断しています。動物舎でミストや日よけをつけるなど工夫して改善したり、場合によっては早めに収容したり、動物に悪影響がないようにしています。夏場に食欲が落ちたりはあります。経口補水液みたいなものを与えることもあります。疲れたとかメッセージを出してくれないので、我々が見た目で判断して、早め早めに対応しなければならない難しさはあります。

-近年は特に希少種の保存を大きなテーマとして取り組んでいると聞きました。“3大珍獣”ともいわれるジャイアントパンダ(5頭)、コビトカバ(カバの祖先の姿を保つ夜行性、3頭)、オカピ(キリン科、1頭)がそろい、マダガスカル島だけにすむアイアイ(原猿類、公開中止中、9頭)やフォッサ(肉食獣、1頭)など希少種も多いです。どんな取り組みを

大橋さん 例えば、ニシゴリラは1989年からズーストック種(※ズーストック計画=都立動物園・水族園が飼育展示する希少動物の保護・繁殖をはかる計画)として取り組んでいます。ゴリラは雄1頭や雌雄1頭ずつ飼育というところが多かったですが、本来の生態である群れで飼育できる施設をつくり、繁殖に成功しました(現在7頭)。エサも改善しています。ゴリラやサルはバナナやリンゴなどを食べるイメージがあります。人間が改良したものは美味しいですが、野生の果物は違う。最近は枝葉など粗食を中心にあげるようになってきています。野生動物は数少ない栄養を効率よく使う体になっているので、人間の食べるものをあげると栄養が過ぎてしまう。栄養分析しながらあげています。

-7月には国の特別天然記念物ニホンライチョウの人工授精によるふ化にも日本で初めて成功しました

大橋さん 最初は近縁種が家畜化されているノルウェーに研修に行き、卵をもらってきて技術を蓄積。ニホンライチョウにも応用し、それを進めて人工授精に取り組んで成功させました。オカピも、米国で研修して飼育技術を学び、米国の繁殖計画の中で、日本はこれを分担してくださいということで繁殖したりする。上野、よこはま動物園ズーラシア、金沢動物園(横浜市)と連携しています。都立動物園・水族園としては、多摩動物公園に野生生物保全センターを設置し、精子の保存もしています。

-両生爬虫類館も人気ですね。どのくらいいるんですか

大橋さん 昨年末時点で、爬虫類68種、両生類39種、魚類9種、計1000点くらいいます。

-動物園から遠ざかっている人へのメッセージを

大橋さん 動物園で生き物の多様性をぜひ感じてほしいです。日本の動物もたくさんいて、みなさんの身近にいる野生動物も知ってほしい。久々に来られると意外におもしろいと思います。気楽な気持ちでぜひ来ていただきたいです。大人だけで来るのも、目線が違っていいかもしれません。

【パンダQ&A】

6月23日に誕生した双子のジャイアントパンダは健康でスクスク成長しており、15日時点で、雄が体重2634グラム、体長43・5センチ、雌が2675グラム、44センチになりました。すっかりパンダらしくなり、目も開いてきて、音にも敏感になっているそうです。母親が同時に育てるのが難しいため、シンシンが1頭の世話をしている間、もう1頭は保育器で飼育管理され、時々、入れ替えられています。名前も公募され、発表が待ち遠しいですね。みんな大好きなパンダですが、意外に知らないこともありますよね。そんなナゼ?を聞いてみました。

Q・赤ちゃんたちは毎日何をしていますか?

A・基本的には寝ています。人工保育の時は、おなかが減ったら起きて乳を求めてという感じ。少し前では6~7時間おきに飲んでいました。目が開いてきましたが、まだ自力ではそんなに動けないです。排せつも自分ではできず、お母さんになめてもらったり、人がマッサージして出します。性格が出てくるのはもう少し先でしょう。

Q・どんな動物ですか?

A・食肉目クマ科。中国名は大熊猫。生息域は中国南西部の標高1300~3500メートル。野生は中国政府の調査(15年発表)では約1800頭。飼育では400頭を超えています。化石から300万年前にほぼ今の姿をしていたことが分かっています。世界中に知られたのは1869年です。

Q・なぜ白黒模様?

A・雪深い森林で暮らしており、雪景色に溶け込んで敵から身を守るのに都合がいいのではと考えられています。また耳や手足の先などは寒いときに冷たくなりやすい部分で、黒いと熱吸収がよく、寒さ対策に役立っているのではないかとも考えられています。

Q・あんなに硬い竹を食べ続けて、歯は大丈夫?

A・歯は成獣で42本あります。摩耗はしてくると思いますが、基本は丈夫です。軟らかいものばかり食べさせていると、歯の発育を阻害します。

Q・竹やササはどこから仕入れてますか?

A・伊豆のほうから購入しています。園内で採ることもありますが、量がなかなか採れません。

Q・視力や聴力などはどのくらい?泳げますか?

A・視力はそんなによくないといわれます。聴力、嗅覚はそれなりに持っているようです。やぶの中にすむので、耳で外敵を判断したり。1頭で暮らしており、ほかの個体が通ったにおいには敏感で、繁殖の時も相手の尿のにおいに敏感に反応するみたいです。コミュニケーションツールは、においと鳴き声だと思います。水浴びはするので水は嫌いじゃないけど、大好きという生き物ではないと思います。

Q・とても器用に物をつかめるのはなぜ?

A・指の数は前肢も後肢も5本ずつ。ただ前肢には手首の骨が大きくなってできたこぶのような出っ張りがあり、これと本来の指ではさむようにして、竹などをしっかり握ることができます。この出っ張りを通称パンダの「第六の指」ということもあります。

Q・小さいころは親がくわえたり、高いところから落ちても平気。手足もいろんな方向に動く感じです

A・関節などが軟らかいんだと思います。親が口でくわえて移動させるので、肉もたるんで遊びがないとつかめません。野生では移動途中にいろんなものもあり、ぶつけたりするだろうから、そういうことに耐えうる軟らかさを持っていると思います。

Q・冬眠はしますか?

A・冬眠はしません。主食の竹やササは1年を通して食べることができるので、冬眠する必要がないのです。

Q・寿命はどのくらい?

A・飼育下では25年くらい。30年以上生きることもあります。野生では15年くらいといわれています。

○…上野動物園は、1882年(明15)3月20日、農商務省所管の博物館付属施設として開園した、日本で最初の動物園です。当時の面積は約1万平方メートル。間もなく日本初の水族館=観魚室も公開され「うをのぞき」と親しまれました。1886年に宮内省所管になり、1924年には東京市に下賜。32年に現在のサル山が完成。第2次大戦中の43年にはライオンなど猛獣が処分されました。戦後は拡張され、57年にモノレールが開通。飼育数も飛躍的に伸びるなど、市民の憩いの場として定着。72年にはジャイアントパンダが来園し、入園者が急増しました。

◆大橋直哉(おおはし・なおや) 1974年生まれ。日本大学農獣医学部畜産学科卒。上野動物園飼育課西園飼育係、多摩動物公園飼育展示課南園飼育展示係、井の頭自然文化園教育普及係長など経て、上野動物園教育普及課長。

◆久保勇人(くぼ・はやと) 1984年入社。文化社会部、スポーツ部など経験。子どものころから昆虫採集や観察が趣味。クヌギなど見つけるとついクワガタムシなど探してしまう。